2023年10月21日の『ウルトラマンブレーザー』は、第15話「朝と夜の間に」を放送。今回は『ウルトラマン』(1966年)の第15話「恐怖の宇宙船」で初登場した人気怪獣ガヴァドン(A)が、原典と同じく子どもたちの描いた「落書き」の中から実体化。そのつかみどころのない独特なキャラクター性でヒーロー・ウルトラマンブレーザーの手を焼かせるなど、印象的な活躍を見せた。

地底、海底、あるいは宇宙の彼方から現れる巨大怪獣。常識を超えた破壊力を備える怪獣たちの猛威から人や街を守るべく、任務にあたるのが特殊怪獣対応分遣隊=SKaRD(スカード)の隊員たちである。SKaRDに属する4人の隊員を指揮して作戦を実行し、いかなる危機的状況であっても「俺が行く」と率先して突破口を開こうと全力を尽くすのが、隊長のヒルマ ゲント(演:蕨野友也)である。

ゲント隊長は絶体絶命のピンチに陥った際、謎の超人=ウルトラマンブレーザーへ「変身」することができる。なぜゲントがウルトラマンブレーザーと身体を共有しているのか、その理由は現段階ではまだ明かされていない。しかし、地球人と宇宙人の垣根を超えた精神面でのつながりが両者に存在し、数々の戦いを経た現在、お互いに独特な「絆」のような感情が芽生えているようだ。

ウルトラマンシリーズに新しい流れを打ち出したいという狙いで製作された『ウルトラマンブレーザー』の放送も、いよいよ後半戦に突入。第14話「月下の記憶」では、SKaRD隊員アオベ エミ(演:搗宮姫奈)が独自に上部組織・地球防衛隊の重要機密を調査し、行方不明となった父親が巻き込まれた事件の真相を探るという、サスペンス描写がファンの注目を集めた。このまま徹底的にシリアス方面へ舵を切るのかと思いきや、第15話ではゲント隊長の息子ジュン(演:岩川晴)をはじめとする子どもたちとガヴァドンの交流を描いたメルヘンタッチのエピソードが作られた。これら対照的な2つのエピソードを演出したのが、本作のシリーズ構成も務めているメイン監督・田口清隆氏であることは非常に興味深い。基本1話完結のバラエティ豊かなエピソードを積み重ねていきつつ、各所に散りばめられた「謎」を少しずつ解き明かしていく、正攻法の特撮テレビドラマを目指していることが強くうかがえる。

少年時代、地上波再放送で観た『ウルトラQ』および『ウルトラマン』に強い影響を受けていると語る田口監督は、『ウルトラマン』怪獣の中でも二次元怪獣ガヴァドンが大のお気に入りだったという。今回のエピソード「朝と夜の間に」は、そんな田口監督のガヴァドンへの愛、原典へのオマージュがふんだんに盛り込まれた、良質のジュブナイル(少年向け)ドラマになった。

『ウルトラマン』のガヴァドンは、ムシバとあだ名される少年が空想のおもむくままに描いた「落書き」に、宇宙からの未知の放射線があたり、太陽光線と融合して実体化&巨大化した怪獣。最初にムシバが描いたガヴァドンは、全身真っ白なオタマジャクシ、あるいはハンペンを連想させる極めてシンプルなスタイルで、それまでに出現したウルトラ怪獣に見られた攻撃的な要素が一切ないところが大きな特徴となっている。元が落書きであるため描き直しや描き足しが可能であり、ムシバが生み出したガヴァドンをもっと強くカッコいい存在にしようと、友人たちがイマジネーションを駆使してより複雑なディテールとカラフルな色彩を加え、ガヴァドン(B)へと生まれ変わらせた。しかし、いくら絵を描き直してもガヴァドンはずっと街のど真ん中で寝ているだけで、子どもたちが期待するような大暴れを見せるそぶりは見せなかった。それでも、ガヴァドンの大イビキによって都市機能がマヒすることが判明し、科学特捜隊はガヴァドンの排除に乗り出そうとする。昼間は街の中で眠り続け、太陽光線が弱まる夕暮れ時に姿を消してもとの落書きに戻るファンタジックな設定と、子どもたちの怪獣への愛着、憧れの結晶というべきキャラクター性で、ガヴァドン(A)(B)は数多いウルトラ怪獣の中でもひときわ忘れられない印象を残す存在となった。

『ウルトラマンブレーザー』で念願のガヴァドン(A)を演出することが叶った田口監督は、ストーリーの随所に原典『ウルトラマン』のオマージュを盛り込んでいる。それは「恐怖の宇宙線」の脚本・佐々木守氏と実相寺昭雄監督が最初に構想していたサブタイトル「朝と夜の間に」がそのまま使われていることからもうかがえる。

ガヴァドンの絵に未知の宇宙線があたり、二次元から三次元に変質する設定こそ原典どおりだが、今回のガヴァドンは「描かれた大きさそのままに実体化」するという、新設定が組み込まれた。最初に描かれたガヴァドンはスケッチブックサイズであるため、小型犬のようにチョコマカと地面を走り回る可愛い怪獣となった。絵を描くことの好きなアラタとジュンは自分が生み出した怪獣であるガヴァドンをもっと大きくしたいという思いから、次に人間と同じくらいの絵を描き、そこにふたたび宇宙線があたることによって大きなガヴァドンが誕生。無理解な大人の目からガヴァドンを隠すため、子どもたちが身体を寄せ合うなど、ほほえましいシチュエーションが見られた。怪獣の特性がいかに変化しても、ガヴァドンを守ろうとする子どもたちの結束がどんどん強まっていくという『ウルトラマン』ならではのヒューマニズムに満ちたストーリー性は、何も変わることがなかった。

原典に対するオマージュとしては、アラタの隠れ場所となる「秘密基地」の壁に貼られていた「ベートーベン」の肖像画に注目したい。「恐怖の宇宙線」の冒頭では、男の子たちがみんな自分の好きな怪獣の絵ばかり描いている一方で、怪獣にさほど興味のない女の子と思しきチャコだけが真面目にベートーベンを題材に選んだ……というシーンがあり、やけに達者なベートーベンの姿が『ウルトラマン』ファンの心に強く残っている。今回使われた小道具は、そういった熱心なファンへのひとつのサービスといえるだろう。また、かつて「恐怖の宇宙線」でムシバの友人のひとりタカシを演じた内野惣次郎氏が、57年の歳月を経て「ガヴァドンの目撃者・内野タカシ」役でキャスティングされていることも重要である。

「朝と夜の間に」のクライマックスでは、アラタたちが学校の運動場いっぱいに絵を描くことで、見事巨大な身体を得たガヴァドンが街に出現する。原典と同じく、今回のガヴァドンも基本的にはただ寝ているだけ。しかし、フワフワ、プヨプヨとしたつかみどころのない身体の質感はそうとうグレードアップしており、高級クッション~抱き枕のような「癒し」感覚が強化されたようだ。かけつけたウルトラマンブレーザーも、とにかくフワフワしているガヴァドンをどのように攻略すべきか、かなり困っている様子が画面からもうかがえた。無邪気な子どもの空想力から誕生した愛らしいガヴァドン(A)は、はるか57年の時を超えてなお、現代の子どもたちからの人気を集めることだろう。

(C)円谷プロ (C)ウルトラマンブレーザー製作委員会・テレビ東京