ウルトラマンシリーズ最新作『ウルトラマンブレーザー』は、日本各地で頻発する巨大怪獣災害に対抗するべく地球防衛隊内に創設された「特殊怪獣対応分遣隊」=「SKaRD(スカード)」メンバー5人と、宇宙から飛来した神秘のヒーロー・ウルトラマンブレーザーの活躍を描く連続テレビドラマである。

  • 田口清隆監督とウルトラマンブレーザー

    田口清隆(たぐち・きよたか) 1980年生まれ、北海道出身。日活芸術学院を経て、映画、テレビドラマの世界で助監督・美術助手・デジタルコンポジットを担当。同時に制作していた自主映画『大怪獣映画 G』が認められ、2009年にNHKの番組内企画『長髪大怪獣 ゲハラ」で商業監督デビューを果たす。映画『THE NEXT GENERATION -パトレイバー-』(2014年)や、テレビシリーズ『MM9』(2010年)『ウルトラゾーン』(2011年)『ゆうべはお楽しみでしたね』(2019年)のほか、『ウルトラマンX』(2015年)、『ウルトラマンオーブ』(2016年)、『ウルトラマンZ』(2020年)、『ウルトラマンブレーザー』(2023年)をはじめとするウルトラマンシリーズで監督を務める。 撮影:蔦野裕

2023年7月より放送開始された本作は順調にエピソードを重ね、かつてない「野性的な戦い方」をする斬新なウルトラマン像や、それぞれユニークな個性が際立つ怪獣たちを中心とした「怪獣映画」の王道を歩むストーリー、SKaRD各隊員たちのパーソナリティに踏み込んだ味わいのあるドラマ、そして抜群のリーダーシップと突出した行動力で隊員たちを引っ張るヒルマ ゲント隊長(演:蕨野友也)のヒーロー性など、さまざまな魅力を打ち出して幅広い世代のウルトラマンファンから好評を得ている。

ここでは、本作企画の骨子の段階から深く携わるメイン監督・田口清隆氏にインタビューを敢行。「今までにないウルトラマン」を目指し、いかにして『ウルトラマンブレーザー』という作品を作り上げたのか、その秘密を探った。

――『ウルトラマンブレーザー』の撮影は放送開始前に終了していると発表がありましたが、企画の始まり自体も通常より前から進められていたのでしょうか。

僕のところにオファーが来たのは2021年の夏ごろでした。ちょうど『ウルトラマントリガー NEW GENERATION TIGA』(2021年)の放送が始まったころです。すでに武居正能監督がメインを務める『ウルトラマンデッカー』(2022年)の企画も進んでいて、武居監督とはお話づくりの段階でよく話をしていました。

――何よりも、新ヒーローであるウルトラマンブレーザーの左右非対称なデザイン、造型には強いインパクトがありました。

『ウルトラマントリガー』、『ウルトラマンデッカー』という流れで、じゃあ今度は『ウルトラマンガイア』(1998年)のリブート作にするのはどうかという案ももちろんあったんですけど、検討の結果ガラッと変えたものにしようという話になりました。僕としても令和版『ガイア』をやらないのなら、まったく毛色の違う作品にしたいと考えました。

僕は、シンプルで無駄のない、すべてを削ぎ落した究極のヒーローである初代ウルトラマンが大好きなのですが、企画を進めていた頃に『シン・ウルトラマン』(2022年)があって、初代ウルトラマンからさらに要素をそぎ落としてシンプルを極めていたでしょう。あれをやられたらしょうがないと思い、こっちは違う方向で行こうと割り切ることができたんです。

外見上のデザインもずいぶん思い切りましたけど、特にこだわったのは設定の部分です。ウルトラマンに関しては、いろんな人がさまざまな意見や要望を持っているじゃないですか。僕としては、そういった声も自分の思い入れも一回ぜんぶ捨てて、新しいウルトラマンをどう作るか、正面から向き合ってみたんです。そして、歴代ウルトラマンでスーツアクターを務めている岩田栄慶くんと常日頃から話していた「生き物としてのウルトラマンをやってみたい」という野望を遂に果たそうと、これまであまり踏み込まれていなかった「ウルトラマンは宇宙人・地球外生命体である」という部分を強調することにしました。

そもそもウルトラマンと地球人とでは生命の成り立ちが違うわけだから、言語が一緒なわけがない。そういった部分からウルトラマン像を作りあげていこうと考えました。

  • 『ウルトラマンブレーザー』を手がける田口清隆監督

――日本語をしゃべらないウルトラマンということは、一心同体となったヒルマ ゲント隊長と簡単にはコミュニケーションが取れないことになりますね。実際、エピソードを重ねながら、言葉ではなく気持ちで両者が通じ合っていくかのような展開が印象に残ります。

まさに、言葉に頼らないコミュニケーションを真っ向勝負でやってみようとしたのですが、やってみるとこれが大変なわけです(笑)。ブレーザー自体は知的生命体だから、独自の言語は持っているだろうと。怪獣と戦っているときに「フラァァァアアア!」「へロワァァァアアア!」と叫んでいるのは、地球人には理解できない彼らの言葉だと思っていただければと思います。たぶん士気を高めるため「このやろう!」とか言いながら戦っているんでしょうね。

ブレーザーのいる惑星は、ウルトラマンやウルトラセブンがいるユニバースと違い、まだM78の様な文明が築かれていないのではないか。世界を闊歩している怪獣達を「狩る」ウルトラの種族がいてもいいじゃないか、という考え方です。当初のアイデアでは、もっと原始的なウルトラマン像をイメージしていて、ゴモラを倒したら次は、ゴモラのツノを槍にして戦ったりするのはどうか、なんて言っていました。従来のモードチェンジの代わりに、倒した怪獣を武器にするという発想だったのですがこれはダメと言われまして、チルソナイトソード(ガラモンの金属物質から作られた武器)はそのときの名残なんです。

――アイテムのお話が出ましたが、ゲント隊長がブレーザーに変身するためのアイテム「ブレーザーブレス」と「ブレーザーストーン」は、玩具としてのプレイバリューを十分に備えながらも、作品の世界観を損なわないようなデリケートなデザインなのも凄いと思いました。

通常だと、バンダイさんからのご提案もあり、作品の世界観と玩具としての面白さをどのように合致させるかを考える段取りなのですが、今回は企画開始のタイミングが早かったこともあり、二度目の打ち合わせですでに「バンダイさんの担当の方ともいっしょに話がしたい」と要望しました。担当さんとは『ウルトラマンZ』(2020年)のとき、もう侃侃諤諤と熱く話し合いまして、いい意味で戦ってきた間柄でした。そうして『Z』は作品内容も商品展開もいい結果を収めましたし、今回ではまったくのゼロの状態から、お互い「何をやりたいか」をじっくり話すことができたんです。