船員の雇用のマッチングを図ることを目的に、「めざせ! 海技者セミナー」を全国で開催している国土交通省。四国運輸局の主催で9月16日、海運事業者と船員を目指す人のマッチングを支援する「めざせ! 海技者セミナーIN IMABARI」が、愛媛県今治市にて開催された。同セミナーで企業説明会を実施した海運事業者などを取材した。

人手不足の傾向が強まるなか、27の企業・団体が参加

船員の次世代を担う若い人材の確保・育成や船員の雇用促進を図るため、企業説明会と船員就職面接会を実施している国土交通省の「めざせ! 海技者セミナー」。

このほど今治市で開催された同セミナーには27の企業・団体がブースを出展し、四国運輸局の船員就職相談などを実施。対面・オンラインそれぞれで受けられる海運事業者の企業説明会のほか、船員就職面接会などが行われた。

参加者は主に国立波方海上技術短期大学校1年生などで、会場の「今治地域地場産業振興センター(じばさんセンター)展示ホール」は、船員の仕事に興味を持つ学生たちで賑わいを見せていた。

「海技者セミナー」は全国的には平成17年度から始めている取り組みで、今治では年1回この時期に開催しており、今回で18回目の開催となります。さまざまな将来の選択を考えていくなか、海運系の企業さんと接することで有益な情報を直接仕入れてもらい、就職へとつなげていくことを主たる目的としています」とは、国土交通省四国運輸局の槇内直樹氏。

今治地区やその近隣に拠点を構える海運事業者は数多く、次世代の船員の人材・雇用確保の一環として行われているようだ。今回のセミナーにブースを出展した企業・団体の内訳は旅客船事業者6社、タンカーなど貨物船事業者20社、船員教育訓練機関の独立行政法人1機構となっている。

「海運業界も人手不足です。若手の雇用を確保、採用に向けてこういった機会を利用していただいており、学生にとっても有意義な場となっています。船員になるには基本的に資格が必要ですが、船員養成の学校の数は多くはなく、全体の生徒さんが少なくなってきていることもハードルのひとつ。また、船員の仕事は陸上から離れて船上で生活することが多く、場合によっては数ヶ月続くことなどが就職のネックになることもあります」

一方、一時期よりも若年船員の数は徐々に増えてきている傾向もあるという。各業界で人手不足の傾向が強まっているなかで、どんな魅力をアピールしているのだろうか?

「考え方はそれぞれですが、陸上勤務より給料が良いことが多いと思いますし、まとまった休みも取りやすい。あまり目立たない仕事かもしれませんが、国内の物流の約4割、素材型の原材料などはほぼ貨物船が担っています。日本の経済・製造業を支えている存在で、待遇的な見直しも各社進んできている。そうしたことを若い方にも認識していただき、職業選択していただければ。当局としても物流事業者さんの労働環境の改善のサポートや経営のご支援しながら、コストなどを適切に契約へ反映できるよう後押ししていきます」

出展企業各社が働きやすさを学生たちにアピール

最初に訪ねたのは「JMETS」(海技教育機構)のブース。学科教育と練習船による航海訓練を通じた一貫教育を行う日本最大の船員教育訓練機関の職員として、練習船などの運営に携わる魅力をアピールしていた。

公務員であるため超過勤務が少ないこと、また基本給の高さ、労務管理、コンプライアンスや福利厚生といった面に採用市場での強みがあるという。

「もともと教えるノウハウを持っている機構なので、しっかりとした研修制度があることなども伝えています。最初は学生教育に直接的に携わることはなく、乗船する部員の人数が多いため、自信が持てるまで寄り添ってじっくりと新人教育の体制を整備されている。他社さんを経験された中途の方など、安定志向の方に興味を示していただくことも多いです」

本セミナーの1回目から例年参加しているという石崎汽船は、1862年の創業以来、瀬戸内海における旅客船運航を担ってきた会社だ。「石崎汽船」を中心に、島民の足として離島航路を運航する「中島汽船」、松山⇔九州航路の旅客フェリーを運航する「松山・小倉フェリー」から成る企業グループを形成している。

グループ全体で12隻の船を運航。ビジネス航路の利用減少などコロナ禍の打撃を受けたものの、積極的に採用活動を進めているようだ。

「定期旅客船なので安全に目的地へ送り届けることを第一の使命。やりがいもありますし、長期航海がなく自宅に帰りやすい就労体制などの待遇面をアピールしています。他社さんも含めて人手不足のなか、きちんと休日を付与できる体制ですね」

愛媛県新居浜市に本社を構える「住鉱物流」は、大きく内航海運事業、港湾運送事業、構内物流事業などを行なっている会社。1社の中で陸員と船員が在籍するところが「比較的特殊なパターンの会社」と担当者は語る。

「クレーンやフォークリフトなどを扱う陸員と、船員ではそれぞれ就業規則なども異なりますが、今回は船員さん向けに企業説明会を実施しています。親会社「住友金属鉱山」の製品や原料などの海上輸送や、タグボートによる大型貨物船の離着岸のサポート業務を新居浜港で行なっています。また、新居浜港の約20キロ沖にある四阪島に関連会社の工場・製錬所があり、従業員の通勤船の運航などもしています」

最後に話を聞いたのは、東ソー物流グループで海上運送・船舶管理などを担うコーウン・マリン。

令和5年度の船員安全・労働環境取組大賞(特別賞)を受賞している同社の担当者は、「今回のセミナーでは、どちらかというと休暇や福利厚生を重視する学生が多い印象も受けました。年間を通じて給料の変動が少ない当社の特徴や、新卒採用者を対象に奨学金の返済を会社が肩代わりしてお支払いする奨学金代理返済制度などについてもお伝えしました」と振り返っていた。

国土交通省・四国運輸局では小学生などにも船員という仕事をまずは知ってもらい、船の仕事に興味を持ってもらうためのきっかけづくりを今後も積極的に続けていくという。