“男女の間に友情は成立するのか?”をテーマに、違う人生を歩んできた4人の男女が紡ぎ出すストーリーを描く、10月スタートのフジテレビ系ドラマ『いちばんすきな花』(毎週木曜22:00~)。多部未華子、松下洸平ら4人が主役の“クアトロ主演”という珍しいキャスティングもさることながら、昨年大ヒットした『silent』のプロデュース・村瀬健氏、脚本・生方美久氏、演出・高野舞氏のチームが再び集結するということで、期待度が高まっている。

長年構想しながら企画が進まなかったというテーマだが、なぜこのタイミングで実現に至ったのか。その経緯や、キャスティングの狙い、生方氏の才能、様々なこだわり、そして『silent』後のプレッシャーなどを含め、村瀬プロデューサーに話を聞いた――。

  • 『いちばんすきな花』の村瀬健プロデューサー

    『いちばんすきな花』の村瀬健プロデューサー

■着想のきっかけは妻との体験

昨年の『silent』の放送が終わる頃に、生方氏ともう一度タッグを組もうと話していた村瀬P。『silent』が大ヒットしたことを受け、フジテレビもこのコンビに23年10月期の木10を再び託すことを決め、具体的に企画が動き出した。

“男女の間に友情は成立するのか?”というテーマは、村瀬Pが発案。「僕自身、“男女の間に友情は成立しない”という考えを持ってきました。でも、そう思って生きてきた僕の一番の親友は妻なんですよね。結果的に、男女の間に友情が成立している。けど、それは恋愛関係と婚姻関係を経てのことであって。この体験一つとっても、今回のテーマはきっと面白いものになるんじゃないかと思ったんです」と着想のきっかけを明かす。

これまでのドラマでも、“友情関係だった男女が恋愛になる”や“恋人同士が友情関係に戻る”といったストーリーはあったが、今作で描こうとしているのは、「もうちょっと奥にある関係性なんです。そもそも、友情と恋愛感情って何が違うのか。友達同士のような恋人もいるし、家族間で言っても“友達親子”や“友達きょうだい”といった言葉がある。友情とか家族愛とか、そういうものと恋愛との線引きといったところまで全部ひっくるめた話が作れたら、面白いドラマができるんじゃないかと考えました」という。

そこで、30代の男女と20代の男女という4人を主役にし、「“男女の間に友情は成立するのか?”という言葉の周辺も含めた、いろんなパターンの愛を描く」という構造で、トリプル主演より1人多い“クアトロ主演”という耳慣れないキャスティングになった。

■生方美久氏が書いた第1話に「すごいドラマになっちゃうぞ」

このテーマは、「口にするのは簡単なんですけど、物語にするとなると難しい」と、長年にわたり構想段階にとどまっていた。「正直『silent』の後じゃなかったら通らなかったと思います」というが、作品化へこぎつけることができたのは、やはり生方氏の存在が大きいという。

「『silent』を一緒に作って、掲げたテーマをストーリー化する力、11話の物語として作り上げていく力がすごくある方というのが分かったんです。彼女とだったら、このテーマを面白いドラマにすることができるんじゃないかと思いました」

生方氏が『silent』で最初に書いてきたプロット(=ストーリーの概要)に、紬が想に再会して話しかけても応えてくれず、想がいきなり手話をやりだして、「何言ってるかわかんないだろ? お前うるさいんだよ」という第1話のクライマックスが書かれていたのを見て、「これは絶対すごいドラマになる」と確信した村瀬P。今作にも、同じような感覚になった描写があったという。

「『silent』は2人のラブストーリーがどこへ向かっていくかという分かりやすいゴールがあったのですが、今回は“男女の間に友情は成立するのか?”を描くというのは分かるけど、男女4人がどこへ進んでいくのか、というのがちょっと分かりづらいと思うんです。その中で、実はコメディの要素も結構あるんですが、やっぱりすごくグッとくる泣けるシーンもあって。今回もまた1話からすごいシーンを書いてきてくれました。それを見たときに、また『すごいドラマになっちゃうぞ』と思いましたね」

さらに、「生方さんの圧倒的な魅力は、キャラクターを隅々まで愛して、ものすごく丁寧に描いてくれる脚本家さんだということ。キャラクターの描き方が本当に上手で、しかも愛がある。だから『silent』では紬も想も湊斗も奈々も春尾さんも律子も光も萌も、みんな好きになってくれたと思うんです。そんな彼女だから、4人の主人公を視聴者の皆さんが愛してくれて、彼らの人生をずっと見つめていきたいと思うようなキャラクターを描いてくれています」と信頼。

ほかにも、「ゆくえ(多部)が『子どもの頃から2人組をつくるのが苦手だった』というキャラクターなのですが、そういう“言われてみれば忘れていた、なんか嫌な気持ち”ってみんなあると思うんです。脚本を読んだうちのスタッフが『修学旅行のバスに2人組で乗るとき、みんな仲良い子同士で座るから自分があぶれちゃうんじゃないかとすごく怖かった。そのときの気持ちを思い出しました』と言ってた。そういう思いを生方さんがさしてくるんですよね。そういう彼女ならではの目線がたくさん入っていて、一緒に作っていて、やっぱりすごいなと思います」と、感心しながら作品づくりに臨んでいる。

  • 脚本の生方美久氏

    脚本の生方美久氏=23年2月2日「エランドール賞」授賞式にて

『silent』では、<本気で好きだった相手が、数年ぶりに再会したら耳が聴こえなくなっていた。そのとき、どうするのか? 今の恋人はどうするのか?>というように、まず設定を作って、そこから感情の動きで物語を作っていき、ことさら事件を起こすような展開にしなかったことが新鮮でリアルに映り、多くの支持や共感を得た。

今作でも、「4人の主人公が、“こういう気持ちになったらどう動くだろう?”というところから作っています」と手法は共通するが、「主に2人について描いていた『silent』に対し、今度はそれを4人でやってみようとハードルを上げています(笑)。愛すべき4人のキャラクターがいろんな物語を紡いでいくドラマを目指しているので、生方さんが4人をどう描き分けて、面白く作っていくのかを楽しんでもらえればと思います」と見どころを明かした。