日本テレビ系ドキュメンタリー番組『NNNドキュメント’23』では、若年性認知症とその家族の姿から共生のあり方を考える『私のこと、まだわかる? ~夫は若年性認知症~』(読売テレビ制作)を、きょう10日(25:05~)に放送する。

  • 8年前に若年性認知症を発症した加藤正哉さん(手前)と妻・雅津美さん=2022年4月撮影

■妻が折に触れて「私のこと、まだ覚えている?」

京都市北区に住む下坂厚さん(50)は2019年夏、65歳未満で発症する若年性認知症と診断された。その年の春、長年勤めた鮮魚店を辞め、仲間と新たな店を開いたばかりだった。

同僚の名前が思い出せない、注文をすぐに忘れる、10匹ずつパックするエビを数えるのに時間がかかる…。妻の佳子さんには内緒で「もの忘れ外来」を受診し、認知症だと告げられたときは、「目の前が真っ暗になった」という。寝たきりになったり、外出したまま行方不明になったりするのではないか、家族に迷惑がかかるのではないか、家のローンは……ショックは絶望に変わり、「死んだら保険金で住宅ローンを返せるかな」と、落ち込んだ心に暗い考えもよぎった。

しかし昔からの趣味が、人生を支えてくれた。「記憶をつなぎ留める」のに、四季折々の写真をインスタグラムに投稿するようになった厚さん。若い頃にはプロを目指したこともあるという腕前。その写真に、添えられるのは、「#記憶をつなぐ」メッセージだ。同じ病気で悩む人たちから反響を呼び、写真展などの依頼も相次いでいる。症状が進む中、折に触れて、妻・佳子さんが「ねえ、私のこと、まだ覚えている?」と、冗談めかして夫に確認する。

京都市在住の加藤正哉さん(59)は、大手百貨店や外資系製薬会社で経理の仕事に就いていた。9年前、道を間違えたり、時間の感覚に異変を感じ、日常生活にも支障が出るように。病院に行ったが、「適応障害」と診断され、おかしいと思いながら“心の問題”なら何とかなる…と、苦しい日々を夫婦で寄り添いながら、支え合った。それから9年経った2022年、夫は最愛の妻の呼びかけに応えることもままならないほど症状が進んでしまった。

■具体的なサポート体制は十分ではない

認知症について社会の注目が集まる中、アルツハイマー新薬の開発では、症状の進行を抑える「レカネマブ」が、7月アメリカで正式に承認された。日本でも実用化を目指し、急ピッチで作業が進んでいる。

また、6月には「認知症基本法」が成立し、尊厳を保持しながら希望をもって暮らせる社会にすることが国の指針として打ち出された。しかし、働き盛りの世代を襲う「若年性認知症」についての具体的なサポート体制は、まだまだ十分とは言えない。

2組の夫婦の姿を通して、社会の「共生」のあり方を考える今回の番組。「認知症になっても人生は終わりではない」「記憶は消えるわけではない」という2つの視点で、ナレーションは貫地谷しほりが担当する。