■地震・火災の怖さを改めて感じてもらえたら

今後30年で、マグニチュード7クラスの「首都直下地震」が70%の確率で起こるとされているが、木村氏はこの番組を通して特にメッセージとして受け取ってほしいことは大きく3つあると言い、1つ目に「地震・火災の怖さ」を挙げる。

「番組で扱っているものはすべて届いてほしいですが、特に挙げるとすると、まずは地震・火災の怖さを改めて感じていただけたら。同時多発で起きるということが今回改めて印象づくと思いますし、飛び火火災のようなことは現代でも起きうるリスクだと思います」

2つ目は群衆事故だ。

「昨年、韓国・梨泰院で起きたのが記憶に新しいですが、災害時の混乱している状況でみんなが一斉に逃げようとすると群衆事故が起きやすくなるということが、関東大震災の証言を聞いてもわかりました。特に東京都心部はより起きやすいと思うので、そこは今回しっかりと伝えたいところです」

そして3つ目として「流言飛語」を挙げた。関東大震災のとき、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」といったデマが広がり、朝鮮人が虐殺される事件が起こったが、木村氏は「デマは現代社会においてよりリスクが高くなっていると思います」と語る。

「先日のハワイの山火事でもフェイク画像が出回りましたし、熊本地震の時もライオンが動物園から逃げたというデマが広がりましたが、実は100年前の音声証言から、当時も上野動物園から猛獣が逃げたというデマが出回ったようで、人間はそう変わらないんだなと感じました。SNS社会の今、災害時にデマや間違った情報が出回るリスクはむしろ大きくなっていると思います」

東日本大震災を経て、防災バッグを用意したり、避難場所マップをチェックしたり、人々の意識は高まっていると思うが、いざ大地震が起きた時にどう行動すべきか想定できていない人は多いのではないだろうか。一人ひとりの意識を高めるとともに、この番組で明らかになった事実を、国や自治体でも生かせるのではないかと感じたが、木村氏もそういった活用も期待している。

「映像と証言から情報を精査し、今に通じることをテーマとして設定して、記録の決定版的な番組に仕上げることができたと思っているので、一個人にも見ていただきたいですが、国の方などにも見ていただいて、どうすればいいのか考える材料にしていただけたらうれしいです。1人でできることも大事ですが限りがありますし、いろんな立場から取り組んでいくべきことだと思います」

■100年前の映像をより伝わる形で後世に残していけたら

今回の映像は、毎日映画社などの協力によって実現。映像から当時のカメラマンたちの強い覚悟も感じたという。

「数人のカメラマンの方が決死の覚悟であの映像を撮ったと思います。100年前の方から受け継いだその映像を今の時代にいかに伝えるか。今回だけではなく、ずっと繰り返し見ていただけるものになるといいなと思っています」

木村氏自身、災害関連の番組に多く手掛けてきたそうで特別な思いがある。

「10年前にも関東大震災の番組を制作しましたが、災害に関しては使命感を持ってやっています。私たちが作った番組をご覧になった方が、将来地震や災害に直面されたときに、この番組を見ていたから命が救われたとか、少しでも助けになればいいなという思いで作っています」

その使命感は、当時のカメラマンの言葉によって強まったという。

「映像を見てもそうですが、当時のカメラマンの方の肉声が残されていて、『後世にこの被害を残すのだ。後世のために撮っておかなければ』といった声が残っていて、その思いを私たちも受け継いで、より伝わる形で後世に残していけたらと思います」

そして、今回の技術を生かして、ほかの震災の映像もカラー化し分析していきたいと意欲。「高精細カラー化したことで伝わるものがあると考えると、台風なども含め、地震以外の災害も含めて、高精細カラー化して分析し、今後に生かせる発見ができたら」と力を込めた。

素材提供:毎日映画社