2011年3月11日に発生した未曾有の災害・東日本大震災から10年。マイナビニュースでは、この震災に様々な形で向き合ってきた人々や番組のキーパーソンにインタビューし、この10年、そしてこれからを考えていく。

東日本大震災からの、一日ずつ、一人ずつ違う10年を、さまざまな視点から視聴者に伝える取り組み「あの日、そして明日へ それぞれの3654日」を展開中のNHK。そこにはどんな思いがあるのだろうか――。NHK東日本大震災プロジェクト事務局専任部長・福田秀則氏に公共メディアとしての役割を聞いた。

  • NHK「あの日、そして明日へ それぞれの3654日」のロゴ

「“被災者”という言葉で簡単にまとめるのは乱暴」

NHKでは「あの日、そして明日へ それぞれの3654日」のキャッチフレーズのもと、ドキュメンタリー、ドラマバラエティ、イベントと、さまざまな形で震災10年に向き合い、取り組んでいる。

福田氏は「今回、局内ではとても多くの議論をしました」と切り出すと、もっとも意識したのはキャッチフレーズにある“それぞれ”という言葉だという。

「例えば被災地に赴くと、すでに前を向いて進んでいる方、また、『私たちのことを被災者と呼ばないでください』とおっしゃる方もいます。一方で、津波でご家族が行方不明になられた方のなかには、いまも遺骨を探していらっしゃる方もいます。100人いれば100通りの思いがある。それを“被災者”という言葉で簡単にまとめるのは、乱暴なことだという認識がありました」。

人によって感じ方も受け止め方も違う。「被災者はこう思うだろう」「被災地はいまこうなっているはずだ」という作り手側の決めつけは、絶対にしてはいけない。だからこそ多面的に、震災を伝える必要がある。

そしてもう一つ、福田氏が意識したことは「10年」という区切りの意味。「我々は“節目”と言いがちなのですが、10年経過した瞬間、なにかが大きく変わるわけではない。時間は連続しているわけで、10年経ったら終わりではないし、被災された方も、日々気持ちは変わっているはず」。震災から10年、3654日を過ごしてきた人のありのままの気持ちを、しっかりと汲み取って伝える必要がある。まさに「それぞれの3654日」なのだ。

思い出したくないという思いに寄り添う一方、伝えていく必要も

福田氏は「私自身、入局して5年目のときに阪神淡路大震災が発災しました。当時はディレクターとして現場に直行し、状況を伝えていましたが、それから25年以上経ち、年月によって伝えていくメッセージも変わってきます」と語る。

発災から間もないときは、実際に震災を体験した人が多いが、25年経つと、25歳以下の人たちは震災を知らない世代となるため、番組の作り方、伝え方も異なるという。今年10年となる東日本大震災では、どこまでを映像として流すかということにも、議論がなされた。

「いまもあの津波の映像は見たくないという方は大勢います。忘れさせてほしい、思い出したくないという方たちの思いに寄り添う一方、震災を風化させてはいけないという思いや、次の世代に復興の過程を含め、今後の災害の備えとして、出来事を伝えていく必要もあります。そのバランスを、常に意識して取り組んでいかなければいけないと思います」。

こうした趣旨のもと、被災した人々の気持ちに寄り添い、できるだけ立体的に視聴者に伝えることがNHKの取り組みだという。「ドラマ、ドキュメンタリー、イベントなどさまざまなコンテンツを使い、全国の子供から大人まで幅広く、いまの被災地の方々の心を届けたいと思っています」

平常時から災害に備える情報を発信することも大きな役割

福田氏は、さらに公共放送としての大きな役割にも言及する。それは東日本大震災の経験を、今後来るべき災害に活かしていかなければいけないという使命だ。

「NHKは公共メディアであり、人の命や暮らしを守る情報を正確に伝えることが、なによりも優先されるべきもの。東日本大震災以降も、毎年のように日本各地で水害など甚大な災害が発生しています。NHKは緊急報道や復興の支援をしてきましたが、それと同じく、平常時から災害に備える情報の発信ということもNHKの大きな役割だと感じています」。

「あの日、そして明日へ それぞれの3654日」の全体の取り組みのなかでも、被災地のいまを伝えることで、新たな災害に対して、どういう準備をしたらいいかというメッセージも内在している。

震災から10年の歳月が流れた。物理的な時間は誰しもが同じ10年だが、その歩みは人によって大きく異なる。この取り組み全体で紹介されているのは、ほんの一部の人たちかもしれないが「明日へ」という強いメッセージが感じられる。

  • 『震災10年特集「がんこちゃんと失われたふるさと」』(Eテレ 3月11日18:20~)
  • 『明日へ つなげよう 証言記録 東日本大震災スペシャル』(総合 3月14日10:05~)
  • 『震災ドラマ「星影のワルツ」』(BSプレミアム 4月24日19:30~)

(C)NHK