フルモデルチェンジしたばかりの新型「アルファード」に横浜市内で試乗した。このクルマは日本国内で最も売れているプレミアムモデルであるだけでなく、海外(特に中国)でも思いっきり注目されている高級ラージ系ミニバンだ。見どころのたくさんある1台だが、今回はセカンドシートの乗り心地に注目したい。

  • トヨタの新型「アルファード」

    トヨタの新型「アルファード」に試乗! 2列目の乗り心地は?(本稿の写真は撮影:原アキラ)

先代モデルのセカンドシートは「3列あるシートの中で最もくつろぎを与えられる場所」とされていたにもかかわらず、乗車中は路面からの微振動が絶えず感じられる仕上がりで、そこが唯一ともいえるネガなポイントだった。新型では改善しているのだろうか。

軽快感すら感じる走り

試乗したのは新型アルファードの最上級グレード「エグゼクティブラウンジ 2.5Lハイブリッド E-Four」だ。ボディカラーは淡く輝くプレシャスレオブロンド、インテリアはナチュラルベージュのプレミアムナッパレザー仕様。車両本体価格は872万円で、オプションを含めると900万円をオーバーするという高額モデルである。

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  • 初めて日光の下で見るエクステリアは、押し出し感と高級感がうまくマッチしていてなかなかいい感じ。先代に比べると、グリルのギラギラ感は少し抑えられている

乗り込んでみるとドライバーズシートからの視界は良好だ。走り始めても全長4,995mm、全幅1,850mm、全高1,935mmの車両感覚がつかみやすく、安心感が高い。

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  • 視界の良さは先代アルファードから引き継いだ美点だ

最高出力140kW(196PS)、最大トルク236Nmの2.5L直列4気筒エンジンに前134kW(182PS)/270Nm、後40kW(54PS)/121Nmのモーターを組み合わせ、システム最高出力184kW(250PS)を発生するE-Fourハイブリッドシステムは、2.2トンを超える大柄なボディを静かに軽々と加速させていく。2名乗車程度であれば、もはや軽快感さえ感じさせてくれるくらいだ。

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  • ハイブリッドの走りは軽快感すら感じるほど

車速が上がるとどっしりとした落ち着き感と安定感が増してくる。高速道路では追い越し車線をぐいぐいと駆けていくアルファードの姿をよく見かけるが、そういうドライバーの気分がよくわかった。

ステアリングの角度は、少し寝ていた従来型に比べると4.5度ほど立ったため、腕が回しやすくなった。キレ角とノーズの入り方に整合性があって、ドライバーズカーとしての魅力も増している。急加速時などに聞こえる4気筒のエンジン音が、もう少しチューニングされたものになれば満点だ。

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  • メーターは12.3インチのフル液晶

2列目の進化は? 座ってみた

しばらく走ったあとはステアリングを同乗者に引き継ぎ、お目当てである2列目の「エグゼクティブラウンジシート」に移動してみた。

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  • 「エグゼクティブラウンジシート」の乗り心地は?

2列目では先代と乗り心地を比較すべく、お尻や背中、アームレストに乗せた腕などに伝わってくる路面からのショックを感じ取ろうと身構えたのだが、結論からいうと、それらは見事に解消されていた。

実は筆者は、今回の試乗の1週間程前に、先代アルファードのエグゼクティブラウンジシートに2時間ほど乗る機会があり(北海道の千歳空港からニセコまで)、その感覚がきっちりと残っていたので、新型によって改善されたパーフェクトな乗り心地をより鮮明に見極めることができたのだ。

試乗日は外気温が37度にもなるような酷暑の1日だったのだが、パワーオットマンとリクライニングで安楽姿勢をとってしまうと、エアコンの効いたアルファードの車内は快適この上ない。16個のエアプラダー(空気袋)の膨らみで背中から大腿部までを押圧してくれるマッサージ機能を使用していると、試乗中であることを忘れて眠くなってしまうほどだ。試乗の待機スペースよりも車内の方が快適に過ごせるクルマというのは珍しい。

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  • シート調整は全て電動。ミラー付きの机を展開できる

シート操作や下降タイプの後席用パワーサイドサンシェード、左右独立ムーンルーフ、14インチリアシートエンターテインメントシステム、LEDカラーイルミネーションなどの物理操作スイッチは、天井の「スーパーロングオーバーヘッドコンソール」をはじめ各操作部の近くに配置されているのだけれど、実は安楽姿勢をとってしまうと手の届かない部分が出てくる。そんな時に便利なのが、2列目シートのアームレストに備え付けられた5.5インチタッチディスプレイのリアマルチオペレーションパネルだ。脱着式なので、スマホのように各種操作が手元で行える。これ、慣れるとなかなか便利で、「よっこいしょ」と体を起こさなくてもよく、至福の時間をキープし続けることができる。スマホと間違えて車外に持ち出そうとすると、警報ブザーがなるので安心だ。

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  • 天井の「スーパーロングオーバーヘッドコンソール」

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  • 脱着式のリアマルチオペレーションパネル

目標はロールスロイスの乗り心地?

試乗後、チーフエンジニアの吉岡憲一氏に話を聞いてみると、新型で最も注力したのがやはり2列目シートの乗り心地の改善で、そこは徹底的にやったとのこと。具体的にはミニバン用に最適化したTNGAプラットフォーム(GA-K)を採用し、異なる2種類の構造用接着剤の塗布(量的には5倍)や車体底面の後方に設けたV字型ブレースなどで車両剛性を50%アップするとともに、足回りでは凹凸の大小に応じて吸収ができる周波数感応型ショックアブソーバーを導入するなど、さまざまな工夫を盛り込んだそうだ。

2列目のシート自体についても、フレームの取り付け部分に防振ゴム製のブッシュを配置して乗り心地を改善している。背もたれやアームレストには低反発枕に使用するようなウレタンパッド、座面には座圧分散性の高いウレタンを使用。この結果、後席に伝わる微振動の量は従来型の3分の1程度にまで低減できたという。

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  • シートは高層ビルの免震構造をヒントに揺れを抑制したとのこと

吉岡氏によると、目標にしたのは欧州製高級サルーンの乗り心地だ。具体的にどのクルマを比較対象としたのかは教えてもらえなかったが、「V12、V8搭載モデル」との言葉があったので、おそらくロールスロイスやメルセデス・ベンツ「Sクラス」あたりかと思われる。新型アル/ヴェルの開発では東富士のテストコースを「匠」ドライバー(同席していた車両技術開発部の佐藤茂グランドエキスパート)とともに走り込み、乗り心地の研究をつづけたのだという。

ミニバンでありながらラグジュアリーサルーンを超える乗り心地を目指すという高い目標は、電動化によって達成できるというのが吉岡氏の見立て。新型アルファードにはプラグインハイブリッド車(PHEV)が登場する予定だが、モーター走行時には前出の2台を上回る静粛性や乗り心地が達成できているのかもしれない。

こうなってくるとアルファードのBEV(電気自動車)モデルも視野に入ってくるのだが、その点について吉岡氏は、「VIPを乗せるクルマとしては、遠くの目的地であっても絶対に到着できなければなりません。電欠の心配がないPHEVが現状での最適解ではないでしょうか」と話していた。

さらに将来の取り組みとしては、アルファードのような量産車でも、欧州のトップエンドがやっているようなハンドメイドのカスタマイズまでやっていく必要があるのでは、との見解だった。