トヨタ自動車の新型「アルファード/ヴェルファイア」には気になるところがたくさんある。例えば電動化。振動や騒音を抑えるためにさまざまな工夫を盛り込んだそうだが、それなら電気自動車(バッテリーEV=BEV)にしてしまった方が話が早いのでは? ほかにもいくつかトヨタに聞いてきた。

電気自動車にしないの?

チーフエンジニアの吉岡憲一さんによると、新型アル/ヴェルでは人にとって不快な振動や騒音を取り除くことに徹底的にこだわったとのこと。それなら、音と振動の発生源となるエンジンを積まないでBEVとして作ればいいのでは?

  • トヨタの新型「アルファード」

    「アルファード/ヴェルファイア」のBEV化は?

「ミニバンとモーター走行のマッチングは、非常にいいと思います」というのが吉岡さんの回答だ。特に低速走行時には、エンジンからの周波数の低い振動がボディに入り、車内で増幅されてしまうのがミニバンにとって弱点のひとつなのだが、BEVになれば、そうした雑味はなくなる。

実際、中国にはBEVの高級ミニバンを作り始めたメーカーがたくさんあるらしい。彼らはエンジンからの振動、騒音を考慮せずに開発が始められるので、アル/ヴェルを作っているトヨタとはスタート地点が違う。静粛性を作り込むにしても、エンジンのことは最初から心配せず、ロードノイズや風切り音のつぶし込みに集中できるわけだ。

吉岡さんは中国製高級ミニバンを向こうに回しても新型アル/ヴェルは「十分に戦っていける」とするが、将来に向けては電動化の進展を見越した念入りな準備が不可欠になるだろう。

ちなみに、新型アル/ヴェルには今後、プラグインハイブリッド車(PHEV)が登場すると予告されている。電気で走る高級ミニバンの乗り味が今から楽しみだ。

横幅を拡大しなかった理由は?

実際に運転してみると視界が良好でクルマのサイズ感がつかみやすく、大きなクルマであるにもかかわらず運転がしやすかった新型アル/ヴェル。ボディサイズは全長4,995mm、全幅1,850mm、全高1,935mm(ヴェルファイアは+10mm)で、思ったよりも横幅が大きくない。幅を広げれば室内も広くなるわけだが、1,850mmにこだわった理由は?

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  • 大きいが意外に運転しやすい? 新型「アル/ヴェル」が横幅1,850mmにこだわった背景とは

吉岡さんによると、新型アル/ヴェルは視界がよくて目線も高いので、運転していて車幅が認識しやすいそうだ。幅を広げると「タイヤがどこを走っているのか」を認識するのが難しくなる。それと、1,850mmという数字については機械式駐車場の車幅制限も意識したとのこと。

仮に全幅1,855mmだったとしても、1,850mm制限の機械式に駐車することは物理的に可能だ、ただ、例えばマンション住まいだとして、1,850mm制限の自宅駐車場にカタログ上は1,855mmのクルマをとめるのは、ご近所の目もあるので抵抗を感じるという人はいるはず。そういう意味でも、1,850mmというスペック上の数字は大事なのだ。

カスタマイズの幅が増えるかも?

ショーファーカーとしての利用も多く、「高級サルーンと比較される」(吉岡さん)というアル/ヴェル。高級サルーンに対しては車内の広大なスペースなど勝っている部分もあるが、あえて負けている点を挙げるとすれば?

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  • 2列目に乗っているとかなり快適な新型「アル/ヴェル」だが、高級サルーンに及ばない点は?

吉岡さんは「ハンドメイドで内装を作っているようなクルマがありますが、そういうところは、やはり量産車では真似できない部分です」とする。確かに、超高級ラグジュアリーカーの新車発表会などを取材すると、シートの生地ひとつとっても色とりどり、素材いろいろで選択肢が驚くほど豊富だ。

吉岡さんは個人的な考えだと断りを入れつつも、欧州のトップエンドの高級車から学び、アル/ヴェルでもハンドメイドのカスタマイズができるような取り組みを検討していきたいと話した。それには、活用できる知見もある。

アル/ヴェルの生産を担当するトヨタ車体は、もともと商用車を得意とする企業であり、「ハイエース」をベースに救急車や冷凍車を作るなどカスタマイズを手がけてきた実績がある。「そうした既存の機能もうまく使いながら、アル/ヴェルでいろんなことができないか」というのが吉岡さんの考えだ。

年に何万台も売れるアル/ヴェルだから難しさもあるだろうが、さまざまな部分でカスタマイズ、パーソナライズが可能な超高級グレードを導入してみるのも面白いアイデアかもしれない。