武田綾乃の小説『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のホントの話』(宝島社)から、人気エピソードを中編アニメーション化した、『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』が、2023年8月4日(金)より劇場上映される。

『響け!ユーフォニアム』は、2015年4月よりTVアニメ第1期が放送されて以来、TVアニメ第2期や劇場版を経て、2024年にはTVアニメ第3期の放送が予定されている。

■『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』ストーリー概要
新部長・久美子を待っていたのは、アンサンブルコンテスト
──通称“アンコン”に出場する代表チームを決める校内予選だった。
無事に予選を迎えられるように頑張る久美子だが、
なにせ大人数の吹奏楽部、問題は尽きないようで……。
様々な相談に乗りながら、部長として忙しい日々を送っていた。
部員たちがチームを決めていくなか、肝心な久美子自身はというと、
所属するチームすら決まっていなくて──。

新部長となった主人公・黄前久美子の奮闘を描く本作は、久美子3年生編が描かれるTVアニメ第3期へ繋がる注目の作品。待望の公開に先駆けて、黄前久美子役を演じる黒沢ともよが語る作品の魅力を紹介しよう。

●黄前久美子役・黒沢ともよが語る『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』

──黒沢さんが担当する黄前久美子はどういったキャラクターでしょうか?

黒沢ともよ

今回から部長になった黄前久美子は、お姉ちゃんが吹奏楽をやっているのに憧れて、小学生のころからずっと携わっている女の子で、最初はトロンボーンをやりたかったのですが、枠がなくてユーフォニアムになり、それ以来ずっとユーフォニアムを嗜んでいます。最初は自分の意見があまりないのに頑固という絶妙なキャラクターだったのですが、色々な人との関わりを経て、ようやく人付き合いに対して前のめりになってきた感じです。

──第1期は2015年の放送ですから8年前になりますが、最初の頃の印象と変わってきたところはありますか?

印象自体はあまり変わっていませんが、最初は変に落ち着きのある子で、(田中)あすか先輩から“自分はギリギリで止まるくせに、人のことには首を突っ込む”みたいなことを言われていたんですけど、徐々に自意識ができてきて、今まで距離を保って会話したり、接してきたりしていたのが、愛情や友情みたいなものを持ち始めたようなところが変化としてあるのかなって思います。

──高坂麗奈が横にいるので目立ちにくいですが、意外とクールなところがありますよね

麗奈は、言葉は強いけど冷徹じゃなく、情熱的だったりもするのに対して、久美子は言葉こそ優しいのですが、実はけっこう冷たいタイプだと思います。徐々に人の痛みもわかるようになってきたんですけどね。

──久美子を演じる上で、意識しているところがありますか?

特に意識することはなく、そのままやらせてもらっている感じです。アニメの場合、キャラクターを演じるという意識が強くなるんですけど、黄前久美子に関しては、年齢が近かったという恩恵もあって、自分と作品の歩みが意外とリンクしているので、けっこうスッピンのままで演じている意識があります。

──自分と似ているところはあると思いますか?

あると思いますが、私のほうがもっと激しめかなって(笑)。安済知佳ちゃんが私のことを「第1期の頃は久美子と言うより麗奈に近かった」と言っていたのですが、それはおそらく、当時の私が頑張らなければという気持ちが強くて、それが外に出てしまったせいで。久美子は物腰が柔らかくて、あまり表面的には出てこないんですけど、本質的なところは私と同じタイプだと思っています。最初の頃は本当に一杯一杯で、あまり周りが見えてなかったんですよ。それは私に限ったことではなくて、みんなそれぞれ、自分のキャラクターへ向き合うのに手一杯で、他の人がやりやすい環境づくりみたいなところまで到達できていなかった。同じ方向を向いて走っていたので問題はなかったのですが、一緒に仕事をしているという感じになったのは、ここ数年かもしれません。

──これまではただ並走しているだけだったのが、ようやく二人三脚で走れるようになった感じでしょうか?

そんな感じかもしれません。以前は、誰かが遅れていても気づかず、周りから声を掛けられてようやく止まるという感じだったのですが、今は、みんながお互いに声を出して、コンセンサスをとりながら一緒に走れるようになってきたと思います。

──それはある意味、余裕が出てきたということですか?

人間としての経験を積んだ結果かもしれません。特に私の場合、最初はまだ10代で、部活の延長でお仕事をやっているという側面も強かったので、それこそ“優勝を目指して!”みたいなスタンスでやっていたのですが、大人になって、働くこと、作品に携わらせてもらうことの意味が何となくでもわかるようになってきて、ようやく一緒に現場を作っている人の顔が見えるようになってきたのかもしれません。

──自分が頑張れば良いというのではなく、みんなで一つの作品を作っていくという意識が強くなってきたという感じでしょうか?

それはすごく強く思っています。そのほうが結果的に、みんなが作品を愛せるし、クオリティも良くなることに気付いたんですよ。ここ数年で、ようやくですが(笑)。

──今回の『アンサンブルコンテスト』では、部長になった久美子が登場します

久美子としては、大勢の前で喋るという経験がまだあまりないので、部員たちに向かって喋るシーンでは、ちょっとぎこちなさもあるけど頑張っている部長としての姿を見てほしいです。さらに、今までから色々な人と関わってきた久美子ですが、部長になったことで、友達ではない部活の後輩や同級生と、仕事の話をするように、部活の話をするシーンが出てきます。その際の久美子の人当たりの上手さを見ると、実は部長に向いているんじゃないかと思いながら演じていました。言葉に気をつけながら話しているシーンもあって、そこは、すごく新鮮かもしれません。

──作品全体としての注目ポイントを教えてください

今回新たにフォーカスされる釜屋つばめちゃんが抱えているドラマに注目してほしいです。色々なものに置き換えられるような葛藤を持っている子で、たくさんの人が、自分の経験や今の状態に当てはめて観ていただけるのではないかと思います。今回の特別編』は、60分ほどの非常に観やすい仕上がりになっていると思います。これまでの『響け!ユーフォニアム』の劇場版は、非常にドラマティックで、エモーショナルな感じが強かったのですが、ちょうど『リズの青い鳥』との真ん中にあるような、粋でおしゃれな青春が描かれたものになっています。

──60分という上映時間が絶妙な感じですよね

少し前は、短い時間にたくさんの情報量を詰め込んだものを楽しんでくださる方が多かったと思うのですが、最近ではYouTubeなどで、実際に生活している人の生活を覗き見るような、リアリズム志向のドキュメンタリーが好きな方が多くなっているような気がします。その意味では、これまですごく緻密にたくさんの情報量を入れてきた『響け!ユーフォニアム』のドキュメンタリーを見てもらうような感覚ですね。この子達はキャラクターなので、実際の生活というわけではありませんが、カット割りも引きでパンが多かったり、切り替わりの速いシーンがあまりなかったり、かなりドキュメンタリーに近い側面があるんじゃないかと思っています。

──今回の『アンサンブルコンテスト』もそうですが、『響け!ユーフォニアム』という作品にはオーディションのシーンが数多く出てきます。黒沢さんは、オーディションについてどういった印象をお持ちですか?

私、意外とオーディションが好きなんですよ。無責任にできるので(笑)。昔からエチュードがすごく好きなんですけど、エチュードは基本的に即興で、その日初めて会った人と自由に演じるじゃないですか。作品の場合は、やはり仕事ですし、みんなが幸せになるように作らなければならないのですが、オーディションの場合は、突拍子もないことをやっても、怒られることもなければ、悲しむ人もいない。もしそれで選ばれたら、きっとその現場は楽しくなるだろうし、選んでもらえなくても、オーディションだという言い訳もあり、その役のセリフで遊べたという感覚もあるので、自分にとってはどちらでもいいかなって。合否にあまりこだわっていないというのもありますが。

──オーディションは自分の解釈で演じることができますからね

だから楽しいのだと思います。ただ、作中のオーディションは、またちょっと違いますね。どちらかというと、舞台のオーディションに近いかも。けっこう大変で、アフレコのオーディションとは違う意味で、落ちようが受かろうがどっちでもいいと思うくらいしんどいです。

──舞台のオーディションは厳しいんですね

何かヒリヒリした緊迫感がありますね。滝先生のオーディションを観ていると似たものを感じるので、大変そうだなって(笑)。あれが部活動の一部だと思うと尊敬します。大人であれば、違う楽団を選ぶこともできますが、あの子たちには、北宇治高校吹奏楽部しかないので、本当にシビアだと思います。

──キービジュアルの久美子もそうですが、ユーフォニアムは作品を通して、コンクール前に髪を縛るシーンがよく出てきます。そういった本番前のルーティーンのようなものはありますか?

アフレコの前はコーヒーを買うことが多くて、ルーティーンみたいになってます。一日に現場が5つとか6つあったら、移動のたびに新しいコーヒーを買っちゃうんですよ。現場に入るときは、必ず新しいコーヒーを手に持っているみたいな。アフレコは毎週同じスタジオに行くので、何となくお気に入りの店ができたりして、レパートリーまで一緒になることも珍しくないです。朝、コーヒーを買う。現場に行く。次の現場に行く途中にコーヒーを買う。これをずっと繰り返している感じです。

──毎回コーヒーはちゃんと飲み切るのですか?

ちゃんと飲み切ります!だから、めっちゃ飲むんですよ。現場が増えれば増えるほど、私はカフェインに溺れていきます(笑)。これはアフレコに限らず、打ち合わせと打ち合わせの間でもコーヒーを買いたがるので、忙しくなると本当にコーヒー漬けです。

──コーヒーを買うようになったきっかけはあるのですか?

やはり、冴える感じがするからコーヒーなのですが、あまり乱れたくないからおなじものを買っているというのもあります。紅茶だったり、コーヒーだったり、ジュースだったり、お水だったりと変えていって、匂いが乱れるのが嫌なタイプで、できるだけ同じ環境に整えたいのかもしれません。だから、基本はコーヒーで、たまにお水といった感じ。これが舞台になるともっと酷くなって、毎日、お米と豚汁しか食べなくなります(笑)。

──食べ物まで決まってくるんですね

休演日や稽古休みって、良心的な現場だと、一週間に一度くらいはあるのですが、そのときに寸胴いっぱいの豚汁を作るんです。後は、朝ごはんも昼ごはんも晩ごはんも豚汁とご飯。たまに卵を焼くことがあるくらいですね。飲み物も、稽古の序盤でこれと決めたら千秋楽までずっと同じものを飲んでいたり。洋服も2種類くらいのパーカーをずっと着回したり。逆にルーティーンしかないかもしれません(笑)。

──できるだけ同じ環境をキープしたいという感じですね

そもそもあまり興味がないというのもありますが、食べ物によって、消化の具合って変わるじゃないですか。油物だったら時間が掛かるとか。舞台の途中でお腹が空かないのは当然として、食べ過ぎてお腹が一杯になり過ぎても感情が入らなかったりするので、できるだけ同じくらいの消化具合にしたい。あと、睡眠時間もだいたい一緒になりますし、YouTubeを観るのが好きなんですけど、舞台の間は同じものばかり観てしまいます。気持ち悪くないですか?(笑)

──同じというのは、同じYouTuberの作品というのではなく、まったく同じ動画をリピートするということですか?

極まれりのときは、本当に同じ動画をリピートしてます。大食いの方のライブ配信を観ながら電車で帰ったり。ドラマなどはまったく観なくなりますし、本当に良くないと思うのですが、先輩方にお誘いいただいても、まったく行かなくなります。だから、仕事が落ち着いてくると、たまっていた約束を上から消化していく感じになるので、忙しいほうが飲みに行きたくなるという方の気持ちは全然わからないです。

──ルーティーンから外れることがストレスになるわけですね

外れることよりも、そのせいで体調が崩れることがストレスになります。普段はコーヒーなんて全然飲まず、家では漢方茶とかを飲んでいるのですが、アフレコのときだけコーヒー。健康などを考えて、デカフェにしようと思っているんですけど、デカフェってかなり味が違ったりするじゃないですか。

──それがストレスになる?

そうなんですよ!意外だと言われるのですが、忙しくなればなるほど、余計なところにエネルギーを使わなくなるので、もしかしたら、感情もなくなっているかもしれません(笑)。朗らかに会話はするのですが、逆にその朗らかが崩れない。省エネモードに入ると、嫌なことを言われても全然響かなくなる。ただ、それが澱のように溜まっていくので、通常モードに戻ったら、まとめてマネージャーさんに相談したりするんですけど、すでに時間が経っていることだったりするので「何で今言うの?」みたいな(笑)。ルーティーンモードに入ると、感情もルーティーン化するみたいです。

──今回の特別編を経て、2024年には第3期も決まっていますが、第3期に向けての意気込みはありますか?

特別編は、みんなで試行錯誤しながらやってみようという意味合いも強かったのですが、実際の制作過程においては、本当に心強いお言葉をいただいたり、頼りがいや心意気なようなものも感じられたので、非常に安心感があって、これからがより楽しみになりました。キャスト陣も、実は今回、第3期に登場するメンバーの方たちが入ってくれているんですよ。そして、実際にアフレコをしたときの雰囲気が、とても理想的な朗らかさとストイックさのバランスだったので、このメンバーであらためて1クール走れるのはとっても幸福なことだと思っていて、第3期が非常に楽しみになっています。

──それでは最後に、『特別編 響け!ユーフォニアム〜アンサンブルコンテスト〜』を楽しみにしている方へのメッセージをお願いします

今回は60分程度の中編ということで、非常に観やすくなっていて、個人的には、3年生編のエピソード“0”超先行上映ぐらいのつもりの温度感だと思っています。だから、心して観てほしいと言うのではなく、ふと時間ができた時に劇場に寄って、健やかな気持ちになって再び街に出てもらえるような作品になっているので、気楽に劇場で観ていただけるとうれしいです。ここから続く3年生編をさらに盛り上げていきたいと思っておりますので、応援よろしくお願いします。

──ありがとうございました

『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』は、2023年8月4日(金)より劇場上映スタート。各詳細は公式サイトにて。

(C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会