国鉄時代に京阪神地区の新快速用車両として登場し、40年以上にわたって活躍を続けてきた117系。現在、定期列車での運行は岡山地区のみとなったが、7月21日をもって定期運行を終えると発表された。終焉の近づく岡山地区の117系に乗車した。

  • 国鉄時代に新快速用車両として登場した117系。現在は岡山地区に3編成が残るのみだという(筆者撮影)

117系は1979~1986年にかけて計216両製造された。それまで京阪神地区の東海道・山陽本線で新快速に使用されていた153系を置き換えたほか、名古屋地区の東海道本線でも117系が活躍した。当時としては珍しく、国鉄が地域の事情に合わせて車両を開発した事例となった。

民営化の後、117系はJR西日本とJR東海に承継されたが、JR東海の車両は2013年に全車引退となった。JR西日本の車両も、後継車両と比べて輸送能力や最高速度に難があったため、徐々に活躍の幅を狭めることとなる。

  • 2013年まで定期列車で活躍したJR東海の117系。国鉄時代のカラーリングを施した編成もあった

  • 「金光臨」と呼ばれた団体臨時列車に使用される117系。写真のT2編成は後に改造され、「WEST EXPRESS 銀河」となった

京都総合運転所に所属していたT2編成(8両編成)が一部車両を除いて改造され、「WEST EXPRESS 銀河」(6両編成)として2020年にデビューしたことは明るいニュースだったが、他の117系は廃車が進んだ。京都地区(湖西線・草津線など)で活躍した117系は、今年4月に全車引退。現在、岡山電車区に所属する3編成が朝夕に運用入りするのみとなっている。

■朝の時間帯、山陽本線を走る117系を観察

人口約72万人を抱える県都・岡山市を代表する駅、岡山駅の朝はにぎやかだ。学生やサラリーマンで混雑している。ターミナル駅に降り立ち、筆者は岡山駅を6時57分に発車する糸崎行の普通列車に乗車した。115系が充当され、セミクロスシートの車内はほぼ埋まり、座ることはできなかった。列車は定刻に岡山駅を発車し、直流モーターが唸り始めた。

筆者は途中駅で下車し、沿線を散策する。岡山県の道路事情も関係するのか、軽自動車が非常に多いように感じられた。安全な場所を見つけ、山陽本線の列車が行き交う様子を見ていると、30分ほどで117系の普通列車が来た。「クハ117-102」を先頭に、4両編成のE08編成が走り抜ける。

117系の100番代は京阪神地区および名古屋地区での増発時に登場した番代区分で、先に登場した0番代と比べて台車や座席のバケットなどの変更点がある。黄色1色に塗装された117系の台車はボルスタレスで、車内を見るとかなり混雑している様子だった。

  • 朝の時間帯、岡山方面の普通列車に使用される117系

じつは、朝の117系の運用はこれが最後。その後は夕方まで運用に入らないとのことで、筆者も岡山駅に戻った。

■117系の普通列車に乗車、乗り心地は

昼間は岡山県内で別の取材を進めながら過ごし、16時前に再び岡山駅へやって来た。今度は117系の列車に乗車してみることにする。

夕方近くの岡山駅を見ると、制服姿の学生が非常に多い。ただし、ジャージ姿や楽器等を持った学生は少なく、この時間帯は部活動に所属していない人が多いように思われた。山陽本線をはじめ、瀬戸大橋線、津山線、吉備線(桃太郎線)の列車が次々と岡山駅のホームに入線し、そのたびに乗客が入れ替わる。幅の広いホームも、利用者の多さゆえに少し歩きにくくなっている様子だった。

筆者は岡山駅を16時25分に発車する糸崎行の普通列車に乗車した。岡山地区の主力である115系は片側3ドアだが、117系は片側2ドアで乗車位置が異なるため、駅構内の電光掲示板やアナウンスで「乗車位置○4~7にてお待ちください」と案内されていた。首都圏の場合、ドア数の異なる列に並んでいた人が、列車の到着後に慌てて移動する場面をよく見かけるが、岡山駅ではきれいに「○」印の位置でまとまっている。周囲の情報を確認し、自らの行動に生かしていることに感心した。

16時15分、2番のりばに117系が入線した。今朝、沿線で見たE08編成が充当されている。117系を見に来た鉄道ファンらしき人の姿も見かけたが、全体的に年齢層が高いように感じた。117系が新快速として現役だった時代を知る人々なのかもしれない。

  • 117系の車内。転換クロスシートが並ぶ(画像 : 写真AC)

ドアが開き、車内に入ってしばらく観察する。乗った車両は「モハ117-103」。喫茶店のテーブルクロスのようなヘッドレストの生地がかわいらしい。転換クロスシートのモケットを見ると、かなり年季が入っているものの、車内の装具品を大切に使ってきたことがわかる。発車10分前の時点で車内は空いていたが、発車時刻が近づくにつれて席も埋まってきた。

16時25分、117系の普通列車が定刻通り岡山駅を発車した。ボルスタレス空気ばねを採用した台車のおかげか、115系と比べて格段に揺れが少ない。進行方向右側に岡山貨物ターミナル駅が見え、西濃運輸のカンガルーマークをあしらったコンテナも多数見えた。

点検板の下から、モーターの音がよく聞こえる。車体はかなり使用感があるように見えたが、走りそのものには余裕を感じさせた。伸びるような走りは、新快速用に製造された車両としての面目躍如といったところだろう。

  • かつて山陽本線の岡山~福山間を走った快速「サンライナー」。2022年3月ダイヤ改正で運行終了となった

スケジュールの都合もあり、途中駅で下車せざるをえなかったが、117系の乗り心地は想像以上に良かった。定期運行終了は近いが、最後まで安全に走ることを願う。

■定期運行終了後も、117系を見る機会はまだある

岡山地区では7月22日から、新型車両「Urara」(227系)が運行開始する予定。これにともない、117系は7月21日をもって定期列車での運行を終了する。

  • 岡山・備後エリアに導入される227系「Urara」(2023年2月の報道公開にて、編集部撮影)

  • 117系の定期運行終了後も、「WEST EXPRESS 銀河」の活躍は続く(2020年1月の報道公開にて、編集部撮影)

「WEST EXPRESS 銀河」は今後も運行されるため、117系の形式そのものが消滅するわけではない。ただし、「WEST EXPRESS 銀河」は臨時列車扱いであるため、定期的に117系を見られる機会は残りわずかとなる。

7月16日には、吹田総合車両所で117系を含めた国鉄車両を撮影できる「吹田総合車両所 車両撮影ツアー」を開催。その他、愛知県の「リニア・鉄道館」に「クハ117-30」が展示されている。117系の中間車を改造し、115系に編入した車両(115系3500番代)もあり、115系3000番代と編成を組み、山口県内の山陽本線で活躍している。定期運行こそなくなるが、「WEST EXPRESS 銀河」をはじめ、117系を見られるチャンスはまだある。往時を知る人は昔を懐かしみ、知らない人は全盛時の活躍を想像するのも良いだろう。