トヨタ自動車のVIPカーはラインアップが充実している。いわずとしれた「センチュリー」に加え新型「アルファード/ヴェルファイア」もあるし、新型「クラウン」のセダンタイプもショーファーカーに使えるクルマとなりそうだ。昔は日産とVIPカーの覇権争いを繰り広げたトヨタだが、これでもう盤石かも?

  • トヨタの新型「アルファード」

    トヨタのVIPカーは品ぞろえ充実!(写真は新型「アルファード」)

クラウンVSセドリックも今や昔

トヨタの新型「アル/ヴェル」発表を受けて、ライバルとなる日産自動車「エルグランド」との戦いの歴史を調べているうちに、その少し前、1980年代後半から1990年代半ばごろまでのトヨタと日産の高級車における頂上対決を思い出した。「クラウン」VS「セドリック/グロリア」(セド/グロ)という構図だ。

「いつかはクラウン」を標榜し、ヒエラルキーの頂点としておじさまたちに人気だったクラウンに対して、1987年にデビューしたY31型のセド/グロは角型ヘッドライトに縦格子の専用グリル、大きめのチンスポイラーなどを装備した4ドアハードトップスタイルの「グランツーリスモ」(通称:グラツー)を用意。さらに、次のY32型グラツーには強力なVG30DETターボエンジンを搭載し、当時の若者たちのハートをがっちりとつかむことに成功した。

  • トヨタ「クラウン」
  • トヨタ「クラウン」
  • 左が1987年に登場した8代目「クラウン」、右が1991年に登場した9代目「クラウン」

  • 日産「セドリック」
  • 日産「セドリック」
  • 左が1987年に登場したY31型「セドリック」、右が1991年に登場したY32型「セドリック」

セド/グロの押し出し感の強いエクステリアと走りは、当時のちょいワルなマイルドヤンキーな方々にも「VIPカー」として珍重され、おとなしめのスタイルだった9代目のS140系クラウンを圧倒することに成功。300万円台の高価なモデルであったにも関わらず、がんばって手に入れた若いユーザーさんにとっては「買ったぜ!」と周囲に自慢しまくれるクルマとなったのだ。まさに、現代のアル/ヴェルVSエルグランドと同じ構図(メーカーの関係性は逆になったが)といえるのではないだろうか。

ショーファーカー=セダンは古い?

若者向けVIPカーの覇権争いでは日産に軍配が上がったのだが、当時の「本物のVIP」はどんなクルマを使用していたのだろう。

例えば皇室の御料車としてまず頭に浮かぶのが、日産に吸収合併された旧プリンス自動車が開発した1967年の「プリンスロイヤル」だ。縦目4灯のヘッドライトを持つフロントデザインは同社のグロリアに似て上品で、重厚なセダンボディに搭載した6.4LのV8エンジンで粛々と走る姿はまさにVIPという印象だった。

  • 「プリンスロイヤル」

    「プリンスロイヤル」

2006年にその跡を継いだのがトヨタの「センチュリーロイヤル」で、現役の御料車は3代目センチュリーをベースにしたモデルになっている。日産には大型高級車として「プレジデント」があったけれども、御料車にセンチュリーが採用されたこともあって、公用車や社用車としての「ショーファーカー」といえばセンチュリーというイメージが定着した。

  • トヨタの3代目「センチュリー」

    3代目「センチュリー」

この流れに一石を投じたのは、なんとトヨタの現会長である豊田章男氏だった。

新型アル/ヴェルの発表会に登壇したトヨタ執行役員のサイモン・ハンフリーズ氏によれば、2004年に役員だった豊田章男氏が、「広い車内でゆったり仕事ができる、会議の合間にくつろげる、必要なら着替えもできる」ところが彼のワークスタイルに合うということで、セダンからアルファードへの乗り換えを敢行したとのこと。「当時、白のアルファードでサプライヤーを訪れると、『もうすぐ黒のセンチュリーに乗ったVIPが来るので道を開けてくれ!』と注意され、そのアルファードの後席から降りてきた章男さんを見て先方はびっくり仰天した」というエピソードを披露した。ショーファーカーはセダンしか認めないという価値観をアルファードが覆したのだ。

  • トヨタ「アルファード」

    「アルファード」から降りてきた豊田章男氏(当時はトヨタの役員)を見て先方は驚いたそうだ

新型アル/ヴェルは、ショーファーカーとしての使用を見越して2列目に充実の装備を盛り込んでいる。例えばエグゼクティブパワーシート、脱着式のリアマルチオペレーションパネル、バニティミラー付き回転格納式テーブル、下降式サンシェード、スーパーロングオーバーヘッドコンソールなどだ。「おもてなし」をテーマとし、かゆいところに手が届くような装備を満載している。アル/ヴェルはいまや相撲の力士や政治家、映画スター、ビジネスパーソンなど、あらゆる人に選ばれるクルマとなり、ショーファーカーのニュースタンダードになったのだ。

  • トヨタの新型「アルファード」
  • トヨタの新型「アルファード」
  • トヨタの新型「アルファード」
  • 新型「アルファード」の2列目は装備充実

  • トヨタの新型「アルファード」
  • トヨタの新型「アルファード」
  • サイドテーブルはバニティミラー付き。VIPともなれば、クルマを降りる前にネクタイの締まり具合を確認しなければならないのだ

トヨタのVIPカーには、さらなるサプライズもある。ハンフリーズ氏は「先ごろ発表したクラウン セダンは『カーボンニュートラルなショーファーカー』という新たな選択肢であり、FCEVユニットの設定もあります。アル/ヴェルとの違いが楽しめて、ショーファーカーを自由に選択できるようになりました。また、究極のショーファーカーであるセンチュリーも、大胆に変えようとすでに動いています」とほかの車種にも言及。画面上にセンチュリーに似たサイドラインを持つSUVスタイルの高級車(センチュリー・クロスオーバー?)のシルエットを映し出すというサプライズ演出を行ったのだ。多種多様なショーファーカーを取りそろえ、トヨタがVIPカーの覇権を握ろうとしている。

  • トヨタ「センチュリー」
  • トヨタ「センチュリー」
  • 新型「アル/ヴェル」発表会では「センチュリー」のクロスオーバータイプをしれっと発表