西武ホールディングスは、6月21日に所沢市の西武第二ビル「くすのきホール」にて、第18回定時株主総会を実施した。会期中に質疑応答の時間が設けられ、鉄道事業、ホテル・レジャー事業、埼玉西武ライオンズに関することなど、株主からさまざまな質問・意見・要望が寄せられた。ここでは鉄道事業に関係した質疑応答を中心に紹介する。

  • 西武ホールディングスの株主総会で、西武新宿線に関する質問も寄せられた

■新宿線の「ラビュー」導入は現時点で「未定」

株主総会では、西武ホールディングス代表取締役社長の西山隆一郎氏が議長を務めた。開会にあたり、コロナ禍からの回復と、持続的な成長の土台作りをめざす経営改革がおおむね順調に推移しているとした上で、「私の責務としては、この取組みをしっかりと前へ進め、全役職員と力を合わせて次なるステージ、回復から成長へと、着実に軌道に乗せていくことだと考えております」と挨拶した。

2023年3月度(2022年4月1日から2023年3月31日まで)の事業内容は映像で紹介。鉄道事業に関して、ホームドアなどバリアフリー設備を推進するため、「鉄道駅バリアフリー料金制度」を活用したバリアフリー料金の収受開始などが紹介された。西武グループが運営する「西武武山ソーラーパワーステーション」による発電を利用する事例として、山口線「レオライナー」の写真も掲載。2024年秋の開業を予定している「所沢駅西口開発計画」の着工にも触れた。

  • 株主総会の会場最寄り駅は所沢駅(東口)

  • 株主総会は所沢駅東口の西武第二ビル「くすのきホール」で行われた

その後、今回の報告内容や決議事項に関する質疑応答(質問は1人2問まで)の時間が設けられ、11名の株主が発言した。その中から、おもに鉄道事業に関係した内容を抜粋する。鉄道事業関連の質問に対し、西武鉄道取締役の藤井高明氏が回答した。

「新宿線は、JR中央線から歩いても1~2kmくらいしか離れていないのに、街の規模が100倍くらい違っている。打つ手は考えていますか」と男性株主が質問。将来的な可能性として、「JRにつながっている拝島駅や武蔵野線などをもしJRが手放すなら、西武鉄道として打つ手は考えているか」との発言もあった。

JR中央線沿線との規模の違いについて、藤井氏は「計画中の連続立体交差化事業を起爆剤として、西武新宿駅と東京メトロ丸ノ内線新宿駅をつなぐ地下通路の整備、ターミナル駅や新たな中間拠点の再構築、ニーズに応じた運行計画の改善など、グループの総力を結集して新宿線の魅力を高めていく」と回答。武蔵野線や拝島駅については、「具体的な計画はいまのところありませんが、貴重なご意見として参考にさせていただきます」とコメントした。

  • 西武新宿線を走る6000系。種別・行先表示器がLED化された

別の男性株主は、アニメラッピング列車を歓迎するコメントに続いて、「精神障がい者の割引を他社がやっているみたいですが、西武鉄道さんも導入するのか、聞かせてもらいたい」と要望。藤井氏は、「精神障がい者割引を含めた、社会政策的な割引のあり方につきましては、公的助成の可能性も含め、慎重に検討する必要があると認識しております。今後、運賃の割引制度のあり方を検討する際の貴重なご意見とさせていただきます」と回答した。

18年ぶりに株主総会に出席したという男性株主は、前オーナーおよび現社長らの運営に感謝を述べつつ、貨客混載の取組みについて発言。昨今のトラック輸送やホテル業界の人員不足、SDGsの観点による一般自動車道の規制を考慮した上で、「今後、鉄道事業においても2両くらいは貨物として、旅客と貨物も一緒に運送したらどうか検討していただきたい」と提案した。

これに対し、藤井氏はコロナ禍中に西武鉄道が実施した、特急列車で沿線の農作物を輸送する実証実験を紹介。「非常にご好評いただいておりまして、このときの知見はしっかりとまとめて、今後に生かしていきたい」と語った。オンラインで注文した商品をスマートロッカーで受け取るサービス「BOPISTA」に、鉄道輸送を取り込めないか試行錯誤していることも明かした。

  • 西武新宿線では、2019年に「ラビュー」の臨時列車(特急「むさし」「小江戸」)が本川越~飯能間を走ったことがあった

「新宿線にラビューをいつ導入するのか」という質問もあったが、「現時点で具体的な計画は未定。ニーズに応じた運行計画の改善などと合わせ、引き続き検討する」との回答だった。同じ株主から、「7月に実施予定の特急料金の値上げは残念」という意見もあり、藤井氏は「昨今の情勢を踏まえ、7月1日からおもに100円ほどの改定を行うことになった」と述べ、料金改定に理解を求めた。

■所沢に鉄道工場が存在した歴史を後世に残せないか

鉄道事業そのものではないが、大きく関係すると思われる質問もあった。ある男性株主は、「としまえん跡地に開業した『ワーナー ブラザース スタジオツアー東京 - メイキング・オブ・ハリー・ポッター』が、西武グループにどの程度の経済波及効果をもたらすのか」と質問していた。

これに西武ホールディングス執行役員の小野眞弘氏が回答。西武グループはワーナー ブラザース社に土地を貸しており、賃料収入が見込めるという。加えて、「スタジオツアー東京」来場者をいかに自社の都市交通・沿線事業に呼び込むか。外国人観光客であれば、さらに秩父や飯能にも足を運んでもらうことで、沿線価値を高めるとのことだった。

  • 「スタジオツアー東京 エクスプレス」(5月16日の報道公開にて撮影)

別の男性株主は、「所沢駅西口開発計画」の事業内容と計画、進捗状況について具体的な説明を求めた。西武リアルティソリューションズ代表取締役社長の齋藤朝秀氏は、「大変順調に進んでおります」と回答。「『来年秋開業を目指して』とリリースしておりますが、このスケジュールに特段問題なく、良い形で開業できるように、順調にプロジェクトを進めております。地元の方ですと、テナントなどご興味あるかもしれませんが、開示できる段階になりましたら開示したい」と述べた。

最後に発言した男性株主からは、所沢の歴史を踏まえた上での「所沢駅西口開発計画」に関する提案があった。現在、開発工事を行っている場所は、かつて西武所沢車両工場と、工場に至る引込線が存在していた。戦前は陸軍の航空機倉庫だったという。その引込線跡は現在、カーブした歩道となって残っているが、開発が終わった後にどうなるか不明で、「風前の灯」との考えを話す。

そのことを踏まえ、株主は「線路跡のカーブをなんらかの形で保存し、江戸道(所沢駅南側の踏切)、飛行機倉庫、鉄道工場が存在した歴史を記す案内板を立ててはいかがでしょうか。些細な提案ですが、このままではすべてが失われます。土地の記憶を後世に残すこと、これは開発事業者としての責務であり、矜持でもあると考えます」と、熱意を込めつつ提案を語った。

回答した西武リアルティソリューションズの齋藤氏は、株主の意見に共感した上で、「東京ガーデンテラス紀尾井町」敷地再開発時の旧邸宅やモニュメントの保存例を紹介。提案そのものについても、「所沢にまつわる歴史的なひだみたいなところをどう残していくのかは議論しないといけませんが、貴重なご意見として承らせていただき、良い形で来年秋の開業を迎えたい」とコメントした。

  • 株主からの提案があった引込線跡の歩道

  • 所沢車両工場の跡地で開発工事が行われている

今年の株主総会の所要時間は1時間29分。議決権を有する出席株主数は2万7,027名(委任状・インターネット含む)で、議決権個数は253万7,544、会場である西武第二ビル「くすのきホール」に来場した株主は469名だった。決議事項の議案は、第1号「剰余金の配当の件」、第2号「定款一部変更の件」、第3号「取締役11名選任の件」の3点。いずれも拍手多数により可決された。

ちなみに、最後の株主が発言していた旧所沢車両工場引込線跡は、所沢駅南側踏切付近にあるペットサロン横から、駐輪場・駐車場に挟まれつつ、現在も歩道として残っている。車両工場が現役だった当時、そのまま道路を横断して車両の入出庫が行われていたと思われる。株主総会の終了後、筆者が見に行った際、西武グループ関係者と思われるスーツ姿の男性数人も見学に訪れていた。実現可能かどうか不明とはいえ、株主の意見に向き合おうとしている姿勢がうかがえた。