日本テレビ系ドキュメンタリー枠『NNNドキュメント’23』(毎週日曜24:55~)では、障害者の育児支援の現実を取材した『親になろうとしても』(札幌テレビ制作)を、きょう11日に放送する。
北海道江差町のグループホームで、結婚・同棲を求める知的障害者カップルに対して運営法人が避妊処置を提案していたことが判明。その数は25年間で8組に及んだ。運営法人側は「生まれてくる子どもの支援はできない」と話す。なぜこのような処置が繰り返されてきたのか。背景には障害者の育児に関する支援制度が見えない現実があった。見て見ぬふりをされてきた障害者の育児支援の現実や社会全体で子どもを育てる道はあるのかを問う――。
神奈川県茅ヶ崎市の諸石貴幸さん(37)と妻の由江さん(37)は、ともに軽度の知的障害を抱えている。小学生になる娘・七星ちゃん(6)の育児に奮闘中だ。彼らが暮らしているのは障害者向けグループホームで、原則18歳以上の障害者のみが利用できるが、入居夫婦の子の同居を認めないという決まりはない。一方で見えてきたのが、このような施設で育児をする場合に支援制度が一切ないという現実だった。
背景には国が「障害者夫婦が育児をする」という想定を全くしてこなかったことがある。国は「施設内での育児は各自治体と法人に判断を委ねる」と我関せずの姿勢を示した。ただ、運営法人にとっても支援対象はあくまで障害を持つ本人。健常者で利用者とみなされない七星ちゃんに対して直接的な育児支援はできないが、知的障害者にとって困難な金銭や書類の管理など親のサポートに徹している。育児に関しては市の家庭児童相談室や保育園と連携しているが、体制は十分とは言えない。これ以上同様の家庭が増えれば、行政側も対応しきれなくなり、法人の牧野賢一理事長は「この現状を訴え続けても国は動いてくれなかった。これからも期待は薄い」と肩を落とす。
こうした中、北海道江差町の社会福祉法人あすなろ福祉会の「極端な提案」が物議を醸している。グループホームに入居する知的障害者カップルに対してパイプカットや避妊リング装着などの避妊処置の提案を繰り返してきたことが明るみになったのだ。断じて強制ではないと主張する樋口英俊理事長は「生まれてくる命に誰が責任を持つのか、本人たちに育児はできない」と語気を強める。北海道は法人に監査に入り、全道で同様の事例がないか緊急の実態調査に乗り出すことを決めた。
法人の対応を批判するのは札幌市の小山内美智子さん(69)だ。脳性まひによって生まれつき手が不自由の小山内さんは、障害を抱えながら出産・育児を経験。哺乳瓶は足で持ってミルクを飲ませた。「軽度の障害なら育児はできる。環境をつくってほしい」と訴える。
この一件を巡っては非難の声が上がる一方で、障害者育児に関して支援の輪が広がっていない現状に指摘も相次いでいる。見て見ぬふりをされてきた障害者の育児は誰がどのように支えるべきなのか。「共生」を前面に掲げる現代社会で、置き去りになっている問題を投げかける。