脚本家の三谷幸喜氏が、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で第41回向田邦子賞を受賞した。

三谷幸喜氏

選考理由は、「鎌倉時代初期の北条一門に華々しいヒーローはいない。歴史上に名はあるが顔は見えない。『鎌倉殿の13人』の三谷幸喜氏は、これらフツーの人々に個性ある表情と現代に通じる軽快な言葉を与え、北条義時をはじめ、その一族の人間臭い複雑な心理を見事に描いて、150年に及ぶ時代の礎を築くプロセスを喝破した。その手腕はさすがという他ない。向田邦子賞を贈る次第である」。特製万年筆と副賞の300万円が授与される。

コメントは、以下の通り。

■三谷幸喜氏
三谷幸喜は本名なのですが、仕事を始める時に占い師に姓名判断をしてもらったら、「大器晩成」だと言われたことを思い出しました。今日のことだったんだなって。

だいぶ前になるのですが、向田邦子賞のお話をいただいた時に辞退したんですね。なぜかというと、向田さんが大好きで一番尊敬している先輩でもあるのですが、その方の賞を若輩者の自分がもらっていいのかと真剣に考え、人間がダメになるのではないかと思いまして、その時はありがたいのですが、辞退させていただきました。そうしたら、その後まったく音沙汰がなくなって、あの時もらっておけばよかったなとずっと後悔したのですが、今年いただくことになりまして、今人間がダメになっても別にいいやと思って、ありがたく頂戴することにいたしました。本当に嬉しいです。いただいてこんなに嬉しい賞はないです。

しかも、皆さんのお話を聞いていましたら、僕が言うのも何なのですが、皆さん良いところを見てるいるなと。大石さん、井上さんがあげてくれた回は自信がある回なので、ちゃんと見てくださっているんだなと思いました。

向田邦子さんが大好きで、「鎌倉殿の13人」を書くにあたって、向田さんの台本を何度も読み、「寺内貫太郎一家」も、あのテイストを何とか大河に入れたいなと思って何度も読み返しました。「阿修羅のごとく」も読み返して、自分の中ではそれがかなり蓄積になっているので、それを見抜かれたというか、指摘していただいたのも嬉しく感じています。総じて本当に嬉しいです。本当にありがとうございました。

選考委員のコメントは、以下の通り。

■池端俊策氏(第3回受賞者)
1年間のオリジナル脚本で書かれた作品を審査するという向田邦子賞ですけれども、今年は年間を通して協議した結果、3本の作品に絞られました。三谷幸喜さんの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」、西田征史さんの「石子と羽男-そんなことで訴えます?-」、櫻井剛さんの夜ドラ「あなたのブツがここに」の3作品です。今日皆と協議しまして、圧倒的に三谷さんの作品がスケールといい、人間の描き方といい、向田邦子賞に最もふさわしいのではないかという結論に至りました。歴史上の顔が見えない人物たちに、三谷さんが個性を与えている、現代に通じる軽快な言葉で人間を構築しているということで、見事な作品だという理由で選ばれました。

■大石静氏(第15回受賞者)
連ドラをこんなにハマってみたというのは久しぶりのことでした。台本を読ませていただくと、台本の方がますます面白かった。ちまちました、人の嫉妬とか、足の引っ張り合いを描きつつ、大きな歴史の流れであったり、小さな人の心みたいなところの塩梅が本当に見事でした。源実朝の歌の解釈や、曽我兄弟の仇討ちなど、歴史を超えたオリジナリティーも素晴らしかったです。向田邦子賞にふさわしい、やっぱり三谷幸喜は天才だねと思いました。

■岡田惠和氏(第20回受賞者)
個人的な思い出ですが、僕がセカンドとかサブで連続ドラマの脚本を書いていた頃、制作会社で何時間も打ち合わせをしていた時に、三谷さんから「古畑任三郎」の第1話初校がFAXで送られてきて、読ませていただいたのですが、世の中にはすごい人もいるんだなぁと思ったのを覚えております。「鎌倉殿の13人」は、本当に大河のようでいて、人間の非常に小さいテリトリーをすごくダイナミックに描かれていて、本当に面白かったですし、お見事だなと思いました。遅すぎる受賞だとは思いますが、おめでとうございます。

■井上由美子氏(第25回受賞者)
シナリオを読んでそうか、と思ったのは、画面ではやはり小栗旬さんらが演じるので、とてもスターに見えるのですが、台本で読むと、決して英雄ではない人たちがうごめいて、いろんなことを考えていて、そういう普通の人たちが実は歴史を動かしていたんだ、ということがとてもよく分かって、すごいなと心から思いました。私が好きなのは、26話の源頼朝の死の回で、ゴタゴタをコメディタッチで描きながら、でも人間の怖さも入っているというのが好きでした。もちろん最終回も素晴らしかったと思います。また4回目の大河も書いてください。よろしくお願いいたします。

■坂元裕二氏(第26回受賞者)
向田邦子さんの一ファンとして読ませていただいたのですが、大河ドラマ、三谷幸喜さんというブランドでありながら、こんなにも向田邦子さん以外が書いたもので、向田邦子さんを感じたものは初めてでした。まったく違うジャンルであり、世間的には違う作風として受け止められているかもしれませんが、私の中では、まさに向田邦子さんの作品というのは、こういうものを描いていたものだったのではないかということを感じました。この大ベテランですべてを手に入れた方の中から、そんなことを発見できたことが、私自身とても喜びでしたし、希望のようなものを感じました。

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