前回は、長崎・平戸で平戸藩にまつわるスポットやグルメなどを紹介した。今回は長崎・佐世保で平戸藩と深い関わりがある「三川内(みかわち)焼」に触れる旅をお届けしていく。

  • 採算度外視で作られていた!? 美しすぎる献上品「三川内焼」をめぐる長崎・佐世保の旅

■「三川内焼美術館」でキホンをマスター!

佐世保市から車で約30分の場所にある三川内町に着いて初めに訪れたのは、「三川内焼美術館」。ここには各時代の名品がそろっているのに加え、焼き物の歴史や特徴など三川内焼のキホンをおさえることができる。

歴史を学ぶ

三川内焼の歴史は、1598年に平戸藩藩主・松浦鎮信(まつらしげのぶ)が朝鮮出兵から陶工を連れ帰り、平戸で窯入れをさせたのが始まり。しかし、平戸では良い陶石に恵まれず、良質なものを求め、最終的に行き着いた先が三川内だった。

ここで平戸藩の庇護のもと良質な原料と最高の技術を駆使し、採算度外視の細工ものや茶道具などが作られた。そして、技巧を凝らした秀作の数々は、日本のみならず海外からも高い評価を得た。

特徴は?

三川内焼の特徴は、白と青という象徴的な「色」にある。白色の白磁(はくじ)に、呉須(ごす)という青色の顔料を使い、染付け(そめつけ)することでこの色合いは誕生する。呉須は素焼きの状態で着色するため、色あせることなく、シンプルながらも美しく鮮やかな風合いを演出してくれる。

  • 白磁に映える青が美しい

2つ目の特徴には、「軽くて薄い」ことがあげられる。江戸時代末期~1950年頃にかけてつくられた輸出向けの洋食器は、薄い器胎という意味の「薄胎(はくたい)」、別名「卵殻手(らんかくで)」と呼ばれている。厚みが約1ミリのカップなんかは、非常に軽く、なんと光を通してしまうほど。明治時代に万国博覧会で「卵殻手」が出品された際には、「陶器なのになぜこんなに薄いのか」と外国人も驚き、称賛したとの記録が残っている。

  • 卵殻手 提供:三川内焼美術館

特徴の3つ目は「装飾技術の高さ」にある。菊の飾り付け技法「菊花飾細工技法」、土を少しずつ筆先にのせ絵を盛り上げる「置上(おきあげ)」、剣先で彫り抜いていく「透かし彫り」など、素人が見てもわかる高度な技術力と高い芸術性は圧巻だ。

  • 透かし彫りが使用されている作品

ずらっと並んだ展示一つひとつに目を凝らせば、細部にまで卓越した技術が施され、時間を忘れるほどに見とれてしまう。こうして三川内焼の特徴を理解した後は、実際に作り手である窯元へ足を運んでみる。

  • 三河内焼のトレードマーク「唐子」がたくさん!

■嘉久房/平戸窯悦山

平戸藩御用窯として代々献上陶磁器を作ってきた「嘉久房/平戸窯悦山」。十四代窯主である平戸悦山(今村 均氏)は、「捻(ひね)り細工技術」を確立、発展させたとし、2014年には佐世保市指定無形文化財保持者に、2021年には長崎県無形文化財「三川内細工技術」保持者にも指定されている。

  • 三河内皿山には昭和初期に使われていた煙突が今も残る

店内に足を踏み入れると、ひときわ目を引くのが、磁器で作っているの!?と驚くほど精巧に作られている「虫かご」。同じ作りをした「菊花 虫かご」は、天皇陛下即位時に献上品として贈られているというからこれまた驚き。

  • 虫かご

ほかにも可愛らしい焼き物を発見! 人形をかたむけると、「あっかんべー」と舌を出す三川内焼のおもちゃ「舌出三番叟人形(しただしさんばんそうにんぎょう)」は、江戸時代から作られており、ナポレオンの皇后も買い求めたとの逸話もある。

  • 舌出三番叟人形(しただしさんばんそうにんぎょう)

■平戸洸祥団右ヱ門窯

続いて訪れたのは、「平戸洸祥団右ヱ門窯」。十七代目の中里 一郎氏は、「平戸菊花飾細工技術」で評価され、長崎県無形文化財保持者として卓越した技術を後世に継承している。

今回は、現当主であり十八代目の中里 太陽氏がめずらしい作業現場を案内してくれた。細書きの絵付け、色を塗る「濃(だみ)」という作業など、普段はなかなか目にすることのできない職人技を間近で見ることがかなった。

  • この日はちょうど窯開けのタイミングに同席させてもらった

  • 実際の作業風景

最後は、ショップに案内してもらったのだが、菊の花が装飾されたマグカップがなんとも美しい。置いておくだけで華やぐような優美さに、ため息が出るほどだった。

  • 菊があしらわれたマグカップ

■「三川内焼」で提供されるコース料理

窯元めぐりを終えた後は、三川内焼でコース料理を提供する「ホテルオークラJRハウステンボス」の鉄板焼レストラン「大村湾」へ。

  • 「ホテルオークラJRハウステンボス」

コース料理の「料理長こだわりコース~日本遺産"三川内焼き"を器に~」(25,000円 ※4月1日より)では、「三川内焼」の器に料理を盛り付け提供している。

  • コース料理の中の1つ

シェフが直接、窯元に依頼したという器の数々は、素材の鮮やかさをより一層引き立てる。見るだけでなく、上質な料理と一緒に三川内焼の美しさを堪能するのも非常に乙な時間だった。

  • コースで使用されている三川内焼


平戸のお殿様をはじめ世界の貴族たちをも虜にした三川内焼は、今なお多くの人を魅了する。そんな逸品をめぐる旅にあなたも出掛けて見てはいかがだろうか。