これまで『不妊治療』と言えば、女性を対象にしたものがほとんどだった。しかし妊活は、カップルが協力して行うべきもの。そこで広島大学発ベンチャー企業「ダンテ」では、精子がまっすぐ泳ぎ続けるための力を測る精液成分の検査キット『バディチェック クレアチン』(BUDDY CHECK)を開発し、2021年より販売している。
これは男性にも妊活に参加してもらおう、という試みだ。本サービスに込めた思いとは? 担当者であるダンテ広報の高実子実奈子氏に話を聞いた。
■検査キットで分かること
ダンテは、男性機能に関する検査・研究・開発支援および、男性の健康支援を行っている企業。精液成分に着目した研究を大学や医療機関と実施し、男性不妊の原因究明を進めるとともに、男性の妊活が当たり前の世の中を目指しているという。
冒頭に紹介したダンテが販売する『バディチェック クレアチン』では、精液に含まれる「クレアチン」という成分量をもとに、精子がまっすぐに泳ぎ続けるための力を計測する。高実子氏は「精子は長い卵管を通り、卵子まで到達します。3時間くらい泳ぎ続けないといけないんですね。したがってエネルギーが足りないと、卵子まで到達できないのです。このときクレアチンはバッテリーのような役目を果たす、ということが研究で分かってきました」と説明する。
そもそも精液は、おたまじゃくしの「精子」と、周りの「液体部分(精しょう)」で構成されている。クレアチンは、その精しょうに含まれる成分のひとつだ。ちなみに精しょうにはクレアチンのほかにもさまざまな成分が含まれており、その働きによって精子の動き方も変わるという。
利用者は検査キットを使って自宅で精液を採取し、郵送する。結果はWebで受け取ることができる。高実子氏は「本検査は精液の成分を分析して精子のパフォーマンスを知るサービスです。これをもとに、生活習慣を見直すきっかけにしてもらおうというもので、決して不妊を含む健康状態または疾患の診断を行うものではありません」と繰り返す。
男性不妊については、まだ研究の進んでいない分野。ダンテは大学などと共同研究を行い、徐々に精液成分の重要性を明らかにしつつあるという。そして驚くことに、これは家畜の研究がもとになったと高実子氏は話す。
「広島大学で家畜生殖の第一人者である島田昌之先生と共同で研究をしているんです。先生の専門である家畜の研究では、精液成分が精子の働きに大きく関与することが知られています。例えばブタの繁殖に関して、餌を変えるなどして精しょうの成分を改善し、妊娠率を上げるということをやっています。これを同じ哺乳類であるヒトの不妊の原因解明にも応用できないかと考え、私たちは島田先生と共同研究を重ね、また男性不妊専門の先生とも共同で臨床試験を行ってきました(※)。実際に不妊治療を行っている男性に協力してもらい、ヒトの分野でもデータが取れるようになってきました」。
(※2021年11月 第66回日本生殖医学会学術講演会でダンテ発表)
ダンテではこの知見をもとに、誰でも気軽に検査できるキットを開発。時期を同じくして国内の学会でも精液成分に関する研究発表が取り上げられるようになり、ヒトにおける臨床試験のエビデンスがいま出始めているという。
■クレアチンはどうやって摂取できるの?
これまでの話から重要な働きをすることがわかったクレアチンは、アミノ酸の一種。これについて高実子氏は「クレアチンが精液の中に十分に含まれていれば良いのですが、足りていない場合は、積極的に摂取するなどして妊活に備えることが大事になります」と説明する。では、どうやって摂取すれば良いのだろう?
クレアチンは肉、とりわけ生肉に多く含まれることが分かっているという。ただ、生肉をたくさん食べるというのは、現実的には難しい。そこで普段の食事では肉を意識して食べ、サプリメントで足りない分は補っていくのが良いと、話す。
■"男性の妊活"のきっかけに
同社は『バディチェック クレアチン』について、妊活のためクリニックに通う前にちょっと個人的に調べてみたい、といったニーズを想定している。
「不妊という問題は、女性だけが抱えるべきものでもありません。妊活はカップル2人で考えていくテーマなんですね。でも世の中には、女性向けのサービスはあれど、なかなか男性向けのツールがなかった。弊社アンケートを行った中では、本当のところ『実は男性も妊活したい』なんて声も聞きます。妊活しようにも、クリニックには女性ばかりですし、行きづらいということもあるでしょう。そこで『バディチェック クレアチン』を、妊活のきっかけにしてみてください」と言葉に力を込める。
最後に、今後の展望について聞くと「男性の妊活行動を変えていきたいです。ゆくゆくは、これが国の少子化問題の解決にもつながると考えています」。そして、次のようにも続けた。「私たちの研究は、まだ道半ばです。そして精液成分には、テストステロンなど、ほかの成分も含まれていることが分かっています。これらの成分が男性の健康にどのように働きかけるのか、そんな研究も続けていきます。将来的には男性の更年期障害、生活習慣病の解決などにも役立てられたら、と考えています」と語った。