トレックは「ドマーネ」シリーズをフルモデルチェンジし、これまで国内では展開されなかったE-Bike『ドマーネ+AL5』を追加した。MTBと比べてロードバイクタイプのE-Bikeはラインナップが少なく、注目の集まっているモデルだ。

エアロの「マドン」、軽量の「エモンダ」、エンデュランスの「ドマーネ」と"トレック"のロードバイクには3シリーズがある。

「ドマーネ」の特徴はタイヤが太く、前傾姿勢の浅いライディングポジションが取りやすく快適性が高いこと。初心者からハードに乗り込むマニアまでを満足させる守備範囲の広さが武器だ。そして、さらにロードバイクの敷居を下げるのがE-Bikeというわけだ。

■アシストユニットは後輪のハブ

試乗した『ドマーネ+AL5』は、アルミフレームをベースにE-Bike化したニューモデルだ。ママチャリタイプの電動アシスト自転車のような大きなバッテリーが見当たらないのは、ダウンチューブにバッテリーを内蔵しているから。簡単に取り外して充電はできないが、その分、スマートなデザインとなっている。

アシスト方法もスマートなスタイリングに大きく影響を与えている。『ドマーネ+AL5』のアシストユニットは後輪のハブで行われる。通常、高級スポーツE-Bikeではフレームの中心部(ボトムブラケット)にパワーユニットを搭載し、BBシャフトに力を加えるクランク合力タイプが多い。

『ドマーネ+AL5』はボトムブラケットにあるセンサーでパワーを検知し、後輪ハブに内蔵されたハブモーターで駆動する。

  • ダウンチューブにある充電用コネクタ。

  • トップチューブにある電源ボタン。緑色のインジケータは5段階表示で2以下になると黄色に。赤いのはアシスト量を示す。

  • HYENA 製ハブモーターは出力250W/40Nm を発揮する。

■電動アシストか、カーボンフレームか

カタログ値とはいえ、大型バッテリーを搭載するE-Bikeの航続距離が200㎞の時代に、『ドマーネ+AL5』の最大航続距離は88㎞しかない。航続距離は長いとは言えないが、ほかのスポーツE-Bikeが20㎏以上あるのに対し、『ドマーネ+AL5』は14㎏しかない。つまり30%以上も軽いことになる。量販店で販売されているクロスバイク並みの軽さだ。

スポーツバイクのチューンナップは数十グラム単位で行われることを考えれば、5㎏以上も違えば別世界だ。この軽さを実現するためにバッテリーの大きさと重量を抑えている点が、さすがスポーツバイクのメーカーだ。

軽さはスポーツバイクにとって正義である。アシスト付きのE-Bikeには関係ないのでは? と思うかもしれないが、車重が軽ければ加速の反応性はよくなり、制動力も小さくて済む。スポーツカーと同じく、条件が同じであれば、軽ければ軽いほど運動性能は高くなる。

同じドマーネシリーズで比較すると、カーボンフレーム+ほぼ同スペックの部品で組まれた『ドマーネSL 5 Gen 4』との差は車重が5.13㎏、価格は2万4200円。ほかのE-Bikeとの比較同様、運動性能だけをみれば、ペダルバイクが圧倒的に優位だ。

してみると、この勝負はカーボンフレームの軽さを取るか、電動アシストユニットを選ぶか…の差だと言ってもいい。

■インプレッション

「タイヤが細くて転びそうで怖い」とロードバイクに敷居の高さを感じているなら、スムーズに加速する『ドマーネ+AL5』は最適な1台だ。走り出すとトルクセンサーが応力と速度センサーが連動して、後輪が前方へと蹴り出してくれる。

道路交通法では時速10㎞までは踏力の200%のアシストが認められている。ただ、コントロール性や省電力のため規定の上限まで使うメーカーはない。逆に言うとアシストが認められている範囲内で、どのようにセッティングするかが個性なのだ。

また、同じパワーでも反応性など出力特性が異なると体感も変わる。『ドマーネ+AL5』は踏み出した直後の反応が1テンポ遅れてくる。「ん? アシストが弱い?」と思った頃に、グーンと加速が伸びる。言い換えれば、走り出し直後は自然な走り出しで、中間加速の押し出し感が高い。

フレームはE-Bike用の専用設計が施されているが、やはりDNAはペダルバイク(一般的なスポーツバイク)のドマーネにある。車重は重たいが、基本的に速く走りたくなるバイクだ。時速11㎞からは徐々にアシスト量が減るので、ユルく走っている時はわずかに手伝ってくれている程度だ。

それでもスポーティに走りたい人には十分だ。スポーツバイクらしく、その気になればすぐに走行速度はすぐに時速25㎞以上になる。
すると、途端に車重が足枷となり軽快感は失われる。ただ、これも一般的なE-Bikeでは時速25㎞以上で走りたいとは思わないので、非アシスト領域で不満を感じるのは、むしろ褒め言葉と言っていい。

アシスト距離は88㎞だが、オプションのバッテリーを使えば176㎞まで延長できる。手元のアシスト切り替えボタン&ギヤ変速を積極的に使えば、100㎞は無理なく走れそうだ。

  • コントロールレバーの近くにあるアシスト量のコントロールスイッチ。

また、アシストの恩恵を存分に使って、緩斜面や峠などの坂道を組み合わせたイージーライドもいいだろう。通常、坂の登り口は「頑張らなくちゃ」と気持ちが引き締まるが、「上りだから、ゆっくり行こう」で坂をクリアできる。

レースやロングライドなどに挑戦したい人はペダルバイクを選ぶべきだが、初心者、ポタリングやツーリングが目的でサイクリングを始めたい人なら『ドマーネ+AL5』は魅力的な選択肢の1つである。

文/菊地武洋 写真/和田やずか