発表以来、グラベルロードでもっとも注目を集めているのが、スペシャライズドの『ディバージュSTR』だ。グラベルロードはロードバイクと同じドロップハンドルに、オフロード走行も可能な太いタイヤを履いている。

  • S-WORKS DIVERGE STR EXPERT メインコンポ:SRAM RivaleTAP AXS サイズ:49、52、54、58㎝ 99 万円

クルマならSUVのような存在で、なにかと使い勝手がいいのが魅力。通勤や近所を散策するポタリングする人もいれば、未舗装路の林道やロングライドを楽しむユーザーもターゲットだ。

■自由で高い操作性

スペシャライズドと言えば、「ターマック」や「エートス」といったロードバイクの印象が強い。だが、世界初の量産MTB「スタンプジャンパー」を手掛けたり、オフロードバイクの用品で実績を積み重ねてきたブランドである。

グラベルロードも黎明期から手掛け、現在、「ディバージュ」シリーズは9モデル。フレームの素材は2種類。アルミとカーボンがあり、さらにカーボンにはトップチューブにサスペンション機能を組み込んだ上級モデルの「STR」がある。

モデル名の“Diverge”を辞書で引くと、〈分岐する、分かれる、はずれる〉といった意味だと出てくる。しかし、モデル名はアメリカの詩人R・フロストの「The road Taken」の一節にインスパイアされたものだという。

意味するところは、高い走破性を誇り、思うがままにコースを選択できる自由さを示すらしいので、グラベルロードの世界観に近く、いい車名を選択したものだ。

  • リア側の「フューチャーショック」のトラベル量は30㎜。フレーム側のレバーでダンパーを3段階で調整できる。

  • スプリングとオイルダンパーで構成される「フューチャーショック2.0」。ダイヤルを回すと0~20㎜のトラベル量が可変できる。

新作のSTRのトピックは、前後に「フューチャーショック」というサスペンション機構を搭載したことである。STRとは“Suspend The Rider”の頭文字で、ライダーが路面の凹凸に捕らわれることなく走れるようにするため、フロントは20㎜、リアは30㎜の可動域を持つダンパーをフレームに組み込んでいる。

そして、走行性能や走行感に大きく影響するタイヤは、MTBも顔負けの極太仕様だ。実際に測ってみると幅は47㎜。かつては世界一周するための装備を満載した激重のキャンピング車と変わらない太さである。それだけ懐の深さを持つホイール廻りに、振動を吸収するフレームと組み合わせているのだから、舗装路では凹凸に関係なく、車体が浮いているように走る。

■サスペンション機能の乗り心地は

浮遊感があると言っても、タイヤが路面を捕らえている感じはしっかりとある。タイヤの空気圧は推奨空気圧の下限2.5barにしたせいもあって、走行感が軽いとは言えない。しかし、タイヤの太さを考えれば転がり抵抗は小さいし、未舗装路を考えると、さらに下げたいというのが本音だ。

舗装路でも「フューチャーショック」の効果は感じられるが、フロントはハンドルが上下動しないようにロックアウトし、リア側ももっとも硬いセッティングでいい。それぐらい乗り心地がいい。

試乗した『ディバージュSTR EXPERT』はドライブトレインにSRAM(スラム)社の「Rival eTAP AXS」を採用している。スポーツバイクの性能というとフレームに注目しがちだが、操作性などの使い勝手はコンポーネントパーツの性能次第である。「SRAM Rival eTAP AXS」は変速システムを無線で制御するので、ワイヤが伸びて変速不良を起こすことも、煩雑なワイヤリングが抵抗になってハンドリングの足を引っ張ることもない。

  • リア側のギアは11~50T の12 速。フロントは40T のシングルギア。

また、SRAMのコントロールレバーはユーザーインターフェースで高い評価を得ており、チェーンを動かしたい方のレバーを押すだけ。

たとえばロー側にシフトしたいなら、ロー側となる左側のシフトレバーを内側に押し込めばいい。レバーの大きさ、作動させるときの感触もカチッとして分かりやすい。変速性能こそシマノに敵わぬ部分もあるが、欧米の高級オフロード市場で高い人気を誇っているのも納得だ。

グラベルロードに入ると、『ディバージュSTR』は真価を発揮する。舗装路では直進安定性の高さが強調されていたが、足元の不安定なグラベルロードでは自然で扱いやすい。

タイヤの選択や空気圧によって印象は大きく変わるだろうが、コンディションのいい林道や河原沿いにあるグラベルロードなら純正仕様で十分過ぎる性能だ。

「フューチャーショック」の優位性についても、言わずもがなである。タイヤ幅が47㎜もあれば、空気圧は2barぐらいが上限だろう。タイヤの推奨指定空気圧の下限は2.5barだが、それは欧米人をベースに考えられた数値だ。タイヤ幅が太くなると0.1barでも走行感は多く変わる。

日本人の平均的な体格であれば、2.5barでは突き上げが激しく乗り心地は良くないはず。だが、それを不快に感じさせないのが「フューチャーショック」のアドバンテージである。まるでフラットダートのようにして凹凸を越えていくフィーリングは、他のグラベルロードがライバルにならない秀逸さだ。

舗装路と未舗装路を同じタイヤ、同じ空気圧で快適に走るは矛盾した要求だ。コース状況が大きく変わるポイントでセッティングを変えるという選択もあるが、実際には面倒で現実的ではない。『ディバージュSTR』なら走りながらセッティングを変更し、好奇心の赴くまま知らない道を選んで走ることもできる。

また、バイクがライディングテクニックを補ってくれるので、これまで走れなかったセクションが走れるようになったり、同じコースでも疲れずに楽しめる。

  • フロントフォークにはアクセサリーやラックをマウントする台座がある。

  • ダウンチューブの下側にはフレームを衝撃から守るプロテクターがある。

お世辞にも手頃な価格とは言えないモデルではないが、コースの選択肢が大きく拡がり、自分よりも上手い人と走りに行けるようになるかもしれない。

さらに、バッグやアクセサリーを装備すれば、デイキャンプツーリングから日本一周にまで対応できる。そんな拡がりを考えると、少し背伸びして入手したいバイクのひとつである。

文/菊地武洋 写真/和田やずか