今年も北海道の冬は厳しい。連日のように雪が降り、札幌駅を発着する列車も雪まみれ。ダイヤ改正を前に、特急「オホーツク」「大雪」で使用されてきたキハ183系が3月17日限りで定期運行を終了する。終焉を迎える国鉄型特急に、札幌駅から網走駅まで乗車した。

  • 札幌駅から旭川方面へ向かう特急「オホーツク」。貫通扉を設けた後期型のキハ183系は、1986(昭和61)年から35年以上にわたり、道内各地で活躍してきた(筆者撮影)

2023年1月上旬の朝、筆者は札幌駅にやって来た。時刻はまだ6時半くらいだが、すでに行き交う人が多い。改札内の待合スペースにストーブが設置され、利用者たちが体を暖めている。手もとの時計で気温を確認すると、マイナス6度。無事に網走へ行けるか、少しだけ不安になる。

6時37分、特急「オホーツク」の車両キハ183系が4両編成で入線した。筆者は今回、グリーン車(2号車)の座席を確保。車内は茶色系の落ち着いた色合いで、着席すると非常にゆったりとした座り心地だった。座席にドリンクホルダーが設置されており、使用方法が独特で面白い。ハイデッカーグリーンで視線が高くなったおかげか、ホームの立ち食いそば店から出る湯気がよく見えた。

下り「オホーツク1号」は6時56分、定刻通り札幌駅を発車。エンジンの音が床下から伝わってくる。雪がパチパチと列車の窓ガラスを叩き、渡った夕張川の水は凍っていた。およそ日本らしくない開放的な雪景色の中に、全国どこでも見られる踏切が視界に入り、ずいぶん滑稽に感じられる。読書灯は文庫本を読む際にちょうど良いくらいの明るさだが、かなり目に近づけないと効果を感じにくい。

  • キハ183系の特急「オホーツク」が豊平川を渡る。川の水は一部凍っていた(筆者撮影)

  • 特急「オホーツク」「大雪」に使用されるキハ183系の2号車はハイデッカーグリーン車(筆者撮影)

札幌駅から函館本線を走行してきた「オホーツク1号」は8時34分、旭川駅に到着。ここから乗車する人も多いようで、ホームに乗客の列ができていた。

筆者はヒーターが心地良い座席を離れ、トイレに立つ。洗面所から温水が出るため、とくに冬場はうれしい。通路を見ると、かつて車内販売が行われていた頃の設備の名残がある。車内を観察して座席に戻る際、ごみ箱に「たばこのすいがらは入れないでください」というかすれた注意書きを見つけた。この車両が走り抜けてきた時代に、思いをはせてみる。

旭川駅を発車した「オホーツク1号」は石北本線を力走し、10時15分に丸瀬布駅に着いた。この時点で約3分遅れての運転である。車掌のアナウンスによると、エゾシカの接近によるものらしい。

ふと、首都圏に住んでいた頃は1分遅れるだけでも気を揉んでいたのに、3分程度なら気にならなくなっている自分自身に気づいた。旅のスケジュールに余裕があるからなのか、北海道の雄大さがそうさせるのかはわからない。

遠軽駅が近づくと、スイッチバックを行う旨のアナウンスが流れ、車内がにわかに慌ただしくなった。筆者も座席を回転させ、到着に備える。遠軽駅は全国でも珍しい平面スイッチバックの駅。ここで3分間停車し、進行方向を変えて発車した。生田原駅を出たあたりで眼下にエゾシカが見え、北見駅では数名の乗客が下車する。12時19分、定刻より2分遅れて終点の網走駅に到着した。

  • 網走駅は1912(大正元)年開業。現在の駅舎は1977(昭和52)年から使用されている(筆者撮影)

駅前のホテルに宿泊し、翌日は網走駅を8時6分に発車する特急列車の上り「大雪2号」に乗る。札幌近郊に大雪の予報が出ており、無事に帰れることを祈った。

帰りもキハ183系に乗車したが、同じ座席ではつまらないので、1号車の普通車指定席で旭川駅へ向かうことにする。着席した座席は遠軽駅まで最前列だが、前面展望を楽しめる「かぶりつきシート」(1・4号車の17番A・B席)は選べなかった。幸運な乗客が、隣でしきりにシャッターを切っている。

普通車のシートは、グリーン車と比べてやや窮屈に感じる。遠軽駅まではときおり立つなどしながら気を紛らわした。スイッチバックして進行方向が変わり、1号車は最後尾に。遠軽駅構内の自動販売機の食品がすべて売り切れており、食料を調達できなかったのは残念だったが、足もとが広くなって助かる。

  • 網走駅を発車し、旭川駅へ向かう上り「大雪4号」(筆者撮影)

  • 1号車の車内。17番A・B席は前面展望を楽しめる「かぶりつきシート」(提供 : 写真AC)

丸瀬布駅までは定刻だったが、同駅で交換予定だった下り「オホーツク1号」が遅れて到着したため、上り「大雪2号」は13分遅れて10時25分に発車。終点の旭川駅には定刻より14分遅れの12時3分に到着した。急げば「大雪2号」の到着を待っていた札幌行の「ライラック22号」に接続できたが、昼食を取るため見送り、1本後の「ライラック24号」で札幌駅へ帰った。多少吹雪いて減速する区間があったものの、札幌駅到着は約5分遅れた程度。無事帰って来られたことに安堵し、旅の終わりを実感した。

3月18日のダイヤ改正で、特急「オホーツク」「大雪」にキハ283系3両編成が投入され、今回乗車したキハ183系は定期運用から離脱する。3月25日以降、キハ183系は臨時列車「キハ183系北斗」「キハ183系ニセコ号」「キハ183系サロベツ」として道内各方面へ運転され、4月10日に運転される「キハ183系オホーツク」でラストランを迎える予定。この列車は復刻塗装車両2両、グリーン車3両を連結した特別編成での運転となる。

冬の北海道は決して生やさしい場所ではないが、この時期しか見られないものも多い。寒さが苦手でなければ、旅行先の候補に加えてみてはいかがだろうか。ただし、もし冬に旅行するなら、防寒対策は万全に行うことをおすすめする。