茨城県は1月16日に「第二回TX県内延伸に関する第三者委員会」(「TX」はつくばエクスプレスの略称)を開催した。検討ルートは「土浦」「筑波山」「水戸」「茨城空港」の4案。公開された概要に特定のルートは示されていないが、朝日新聞は「関係者の取材により」「土浦案が有力」と報じている。NHKは「茨城県が、学識経験者らでつくる第三者委員会に原案を示した」、日本経済新聞は「土浦案を有力としたもようだ」と報じた。

  • つくばエクスプレス延伸の検討ルートは「土浦案が有力」だという

委員会は今後、書面による協議を継続し、2月9日の第三回会議で知事へ提言する。その後、パブリックコメントを募集し、3月中に延伸先を正式に決定するとのこと。

茨城県内の延伸は土浦市、水戸市、茨城空港接続案などの要望があったという。しかし茨城県は、費用が大きいことから「つくばエクスプレスは1都3県のプロジェクトのため本県単独で判断できない」「費用が大きすぎる」など、積極的ではなかった。

NPO法人NEWSつくばの記事「TX茨城県内延伸 実現へのシナリオ 《吾妻カガミ》147」によると、つくばエクスプレスの計画が策定されたとき、当時の茨城県知事が「つくばから北へ延伸するときは茨城県が負担する」と、東京都、千葉県、埼玉県に約束していたという。この約束が念頭にあって、茨城県は費用負担に及び腰だったようだ。

2017年、つくばエクスプレス延伸検討に前向きな現知事が当選した。翌年の2018年11月、茨城県は「茨城県総合計画 新しい茨城への挑戦 2018-2021」を策定する。この中で、「つくばエクスプレスについては、東京や県内への延伸が期待されています」との記述があり、「2050年頃の茨城の姿」というイラストに、つくばエクスプレス延伸4方面が点線で示されていた。2022年4月に策定された「第2次茨城県総合計画 2022-2025 新しい茨城への挑戦」にも同様のイラストが掲載された。

■4方面の調査結果は

現在、つくばエクスプレスは秋葉原駅(東京都)とつくば駅(茨城県)を結び、途中で埼玉県・千葉県の各都市を経由しつつ、茨城県の筑波研究開発都市に至る。最高速度130km/h、秋葉原~つくば間を約45分という俊足で、東京で働く人々のベッドタウンとして沿線地域開発が好調だという。JR武蔵野線や東武アーバンパークライン(野田線)、関東鉄道常総線からの乗換え客も取り込んだ。乗客増加傾向は続いており、通勤ラッシュ時の混雑率は160%を超える。列車の増発が限界になったため、現行の6両編成から8両編成に増車すべく、駅などの対応工事が進められている。

茨城県にとって、つくばエクスプレスによる人口増加の勢いが、茨城県全体に伝わらないというジレンマがある。これとよく似た事例は横浜市でも起きていた。1960年代、横浜市北部で東急田園都市線の延伸が進んだが、沿線の人々は東京志向が強く、県都・横浜とは縁遠かった。これは渋谷を重視する東急側の意向でもあった。このままだと横浜市の一体感を損なう。そこで横浜市は中心部の再生と郊外の活性化のため、港北ニュータウンを建設。あわせて横浜市営地下鉄(ブルーライン)を建設し、東急田園都市線に接続した。

茨城県の場合、つくばエクスプレス沿線の守谷市、つくばみらい市、つくば市に限れば、3市合計で2005年の29.4万人から37.2万人となり、26.4%の増加となっている。茨城県の他の地域を合計すると、2005年の269万人から247万人となり、8.3&の減少だった。県内で発展状況に大きな差があり、つくばエクスプレスによる経済効果が他の地域に波及していない。茨城県内にもかかわらず、つくばエクスプレス沿線が東京経済圏として独立してしまっている。そこで、つくばエクスプレスを延伸し、整備効果を県内全域に波及させて経済発展を促したい。

茨城県は2022年度予算案で、「TX(つくばエクスプレス)県内延伸調査検討事業」として1,800万円を計上した。その調査結果は2022年12月12日に開催された「第一回TX県内延伸に関する第三者委員会」で配布された。延伸4方面の特色は次の通り。

●土浦方面

  • つくば市~土浦市間のバスは平日・休日ともに7~8万人の流動量がある。
  • つくば駅から土浦市内のJR常磐線の駅までは直線距離で約10km、最短距離で常磐線に接続可能。
  • つくば市~土浦市間の一部道路区間においてピーク時以外でも渋滞が発生している。鉄道利用による渋滞解消が期待できる。

●茨城空港方面

  • 茨城空港の航空旅客は年間約78万人。
  • 首都圏の新しい入口として、国内地方都市とアジア諸都市を結ぶ機能に期待。

●水戸方面

  • つくば市と県都の水戸市は高速バス連絡で、鉄道の直行はできない。
  • 水戸市とつくば市は茨城県の2大都市。鉄道直結で大きな経済効果を期待。
  • 直線距離が約45kmと長い。常磐線輸送障害時の経路として期待。

●筑波山方面

  • 「筑波山キップ」「筑波山あるキップ」の売り上げが増えており、公共交通を使った観光が定着。
  • 筑波山麓に直行できればさらに観光客増加に寄与する。
  • 筑波山までの一部道路区間でピーク時以外も渋滞が発生している。鉄道利用による渋滞解消が期待できる。

土浦案では、JR常磐線の接続駅が土浦駅だけではないことに注目したい。土浦市街地は建物が多く、土浦駅に接続するためには地下駅も考慮する必要がありそうだ。土浦市内の駅は他にも荒川沖駅と神立駅があり、建設コストを考えると、こちらのほうが高架駅を設置しやすいと思われる。神立駅は最も遠いものの、将来、茨城空港へ延伸する場合は最短距離になる。

茨城空港案は空港アクセス鉄道を整備する意味もある。直線的に結ぶなら高浜駅で常磐線と交差して乗換えの便を図る。少し遠回りだが、石岡駅経由も可能だろう。いずれにしても、将来は水戸駅まで延伸し、県都と空港を結びたい。

水戸案は最長距離でコスト面が問題になる。石岡駅で常磐線と連絡するため、常磐線の輸送障害に対応可能。常磐線東京方面の混雑緩和も期待できる。まずは石岡駅まで建設し、将来は水戸へ延伸する二段階整備も考えられる。

筑波山方面は観光面を重視しているが、じつは筑波山方面の路線バスは通勤通学路線としても混雑しているようだ。

■土浦駅ルートの優位性は?

報道されている通り土浦案が有力の場合、どんなルートになるか妄想してみた。現在、つくばセンター(つくば駅)と土浦駅を結ぶ路線バスがあり、20分間隔で運行される。所要時間は27分。ルートは県道24号に沿っている。このルートに沿う形になるのではないか。しかし、地図を調べると、土浦駅近くに大型ショッピングセンター「イオンモール土浦」がある。つくば駅と土浦駅を結ぶバスはここを通らない。これとは別に、土浦駅とイオンモールを結ぶ路線バスがあるからだ。

  • 筆者の妄想ルート。大型商業施設と再開発用地が魅力か

「イオンモール土浦」の公式サイトを見ると、つくばセンターからイオンモールへ直行するバスは19時台に1本のみという不思議なダイヤになっている。自動車利用が多いからか、あるいはつくばセンター周辺の商業施設で間に合ってしまうのか。ちなみに、つくばセンター周辺を見ると、シネマコンプレックスが2つあり、「イオンモール土浦」内のイオンシネマに行くまでもない。しかし線路が通り、駅ができると、つくば駅より南側の駅から「イオンモール土浦」へ行く需要が発生するかもしれない。JR京葉線の幕張豊砂駅のように、イオンモールの協力が得られると心強い。

もうひとつの駅候補地は、県道24号と県道123号の三叉路に設けた。この付近に土浦労働総合庁舎がある。「イオンモール土浦」と約1.5kmしか離れていないが、公益性は高い。もうひとつ、イオンモール付近の土浦駅側に総合病院の「国立病院機構 霞ヶ浦医療センター」がある。ここも駅があると便利だろう。

これらを結んだルートをつくば駅からたどってみよう。つくば駅から先はしばらく地下を直進し、市街地を脱したところで高架線に。県道24号には沿わず、南側を直行して土浦労働総合庁舎付近へ直行する。県道24号の南側は農地が広がり、再開発に適している。土浦労働総合庁舎付近、イオンモール付近、霞ヶ浦医療センターから大深度地下に潜って土浦駅に至る。

つくばエクスプレスの土浦駅はJR常磐線の土浦駅と直交せず、並行の形にする。将来、茨城空港方面へ延伸できるように配慮したためだ。あるいは荒川沖~土浦間で常磐線に乗り入れ、土浦駅に至る方式でもいい。水戸駅まで相互直通運転が実現すれば、水戸案の条件も満たせる上に、建設距離も短く済む。

お遊びが過ぎたようだ。実際には常磐自動車道や桜川の交差など考慮する必要があり、妄想通りにはいかないかもしれない。いずれにしても、もうすぐルート案がまとまり、パブリックコメントが始まる。ルートの答え合わせ、そして開通を楽しみにしたい。