JR東海は4月1日からの代表取締役の異動を発表した。新社長に現代表取締役副社長の丹羽俊介氏が昇進する。前社長より10歳若い57歳で、「JRグループで初の国鉄民営化後に入社した社長が誕生する」と報じられた。特技はトランペットで、JRグループ音楽連盟の会長も務める。厳しい経営環境の中で、新たな「会社の指揮者」に期待が寄せられている。

  • 新社長となる丹羽俊介氏の広報部長時代、静岡県の魅力発信を定期的に実施していたという

丹羽氏は1965(昭和40)年6月22日生まれ。東海道新幹線開業後に生まれた世代である。東京大学卒業後、1989(平成元)年に東海旅客鉄道に入社した。国鉄分割民営化、JRグループ発足から2年後にあたる。2001(平成13)年、広報部東京広報室長に就任し、その後は人事部門、管理部門を歴任した。2016(平成28)年に執行役員として広報部長を務め、2019(令和元)年から取締役となった。

利用者との関わりは、東京広報室長、広報部長時代になるだろう。丹羽氏が東京広報室長だった時代の事象として、2001年9月に新幹線インターネット予約サービス「エクスプレス予約」が始まり、10月1日のダイヤ改正で「のぞみ」が30分間隔の運転となった。2003年は10月の品川駅開業関連で、新幹線特急料金の引下げが発表されている。

広報部長時代は、着任早々の2016年8月に浜松工場敷地内で不発弾が見つかるという波乱のスタート。9月は「静岡旅満喫キャンペーン」の秋の展開を発表。JR東海として静岡県の魅力発信を定期的に実施している。その翌日に新幹線運転士が運転台に足を上げて運転していたとお詫び。翌年は「エクスプレス予約」のICカード乗車券に対応した「スマートEX」が始まり、在来線にラインカラーと駅ナンバリングが設定された。一方で、リニア中央新幹線の工事入札でゼネコン数社の独占禁止法違反が判明。JR東海としても対応が求められ、工事受注について独占禁止法に違反しないよう誓約書を義務づけると発表した。

  • JR東海の代表取締役社長に就任する丹羽俊介氏(JR東海提供)

広報部長を務めた2016年6月から2019年5月末まで、JR東海が公開したニュースリリースは約900本もあった。会社の全部署の考え、立場に通じていなければならない仕事だし、報道対応などで「JR東海がどのように見られているか」も肌身に感じる仕事だろう。良いことも悪いこともすべて広報を通じて発表される。担当部長として、晴れがましいことも、苦労心労もあったと想像する。

■広報部を通じてコメントをいただいた

報道記事では丹羽氏の短いコメントが添えられていた。その中で、岐阜新聞のウェブ版(1月12日付)にて、丹羽氏の人柄について「座右の銘は自然体。特技はトランペットで、JR東海車内の音楽クラブに所属しており、JRグループ音楽連盟の会長も務める」という和やかな人物像が紹介されていた。都市対抗野球大会でJR東海の応援に加わり、『銀河鉄道999』や東海道新幹線品川駅開業時のキャンペーンソング「AMBITIOUS JAPAN」を「われわれの定番曲。演奏すると盛り上がる」と語っている。ちなみに、JR東海音楽クラブはYouTubeチャンネルを開設しており、トランペットを奏でる丹羽氏の姿もあった。

  • JR東海音楽クラブのYouTubeチャンネル。丹羽氏は0系の右側でトランペットを掲げている

もう少し詳しく、人柄のわかる話を聞きたいとJR東海広報にお願いしたところ、次のような談話をいただいた。

●社長就任の抱負

この3年間、新型コロナウイルス感染症の影響により、当社はたいへん厳しい経営環境に置かれてきました。現在は鉄道事業の輸送量が回復しつつあるとは言え、まだまだ厳しい状況です。

まずは、鉄道会社にとって最も大切な安全の確保を最優先課題とします。その上で当社は「経営体力の再強化」という大きなテーマに取り組み、さらに強靭な会社にしていきます。そして中央新幹線計画を着実に推進します。

私が重視するポイントは、「ヒト」の力を最大限に高め、これを活用することです。当社およびグループ会社では、高いポテンシャルを持った社員が数多く働いています。こうした人材を磨き上げて能力を高め、やりがいを持って働けるよう環境を整え、その力を最大限に発揮していただくことで、力強い組織を作り上げ、「日本の大動脈と社会基盤の発展に貢献する」という当社の使命を果たしたいと考えています。

●仕事をする上での原点

「自分の仕事の姿勢に影響を及ぼした経験」として、まだ過去にはなっていませんが、コロナ禍で行動制限が出され、お客様の数が激減する中、総合企画本部長として会社の将来のあり方を模索した経験が、今の私の原点です。

我々の収益の柱である東海道新幹線が大変多くのお客様でにぎわっていました。しかし、緊急事態宣言など行動制限の影響で、ほぼ空(から)の列車になってしまいました。この光景を見て「これまでのやり方を続けているだけでは立ち行かない。どうすべきか」と考えました。

その結果「従来の仕事のやり方を抜本的に変えて、より少人数で運営できる筋肉質な事業運営を目指す」という方向性につながりました。収益性を高めるためにどうしたらよいか、若手社員を含め社内の様々な人間と議論を繰り返し、従来の発想にとらわれず、多様化したお客様のニーズに応えるための商品や、より良いサービスをご提供しなければならない、という目的意識につながっています。

このように、コロナ禍で「このままではだめだ」と考えたことが、自分の仕事の原動力です。これまで以上に経営体力の再強化に取り組みます。

●座右の銘は「自然体」

物事に向かうときには、気負うことなく、背伸びすることもなく、自然な構えで臨みたいと思っています。力みなく取り組む事で、自分の持つ力を発揮できると考えています。

●プロフェッショナルの本を好む

愛読書、座右の書といったものは特にありません。アスリートやアーティストなど、ある分野のプロフェッショナルの人が書いた本から得るものが多いです。最近面白かった本を一つ挙げると、ピアニストの反田恭平氏の『終止符のない人生』です。世界的に活躍する若い音楽家が、自分を磨いて更なる高みを目指し、未知の分野にも挑戦する姿勢に、元気付けられました。

■リニア中央新幹線開業のテープカットはこの人

メーテレ(名古屋テレビ放送)がYouTubeで公開したニュース映像を見ると、丹羽氏の柔和な表情が印象的で、温厚な性格をうかがわせる。一方でトランペッターであることから、責任を持って芯の強い音を出す人でもある。目立ってもプレッシャーに強く、曲をリードする素質が備わっていることだろう。リニア中央新幹線では先頭に立って音を出し、在来線ではアンサンブルをまとめ上げる。そんなリーダー像が見えてくる。

JRグループ音楽連盟の会長という立場も役立つかもしれない。会社を越えた老若男女の人脈ができている。JR東日本、JR西日本など隣り合うJRグループとの協議がスムーズになるだろう。JR東海の歴代社長の任期は4年から9年。丹羽氏は若いので、長期にわたるリーダーシップになりそうだ。リニア中央新幹線開業式のテープカットが楽しみである。