JR東海は、山梨リニア実験線にて報道関係者向けの試乗会を10月5・6日に開催した。2020年8月から走行試験を行っているL0系改良型試験車に乗車し、500km/hの走行を体験。リニア中央新幹線の概要や進捗状況、超電導リニアのしくみに関する説明もあった。

  • 山梨リニア実験線でL0系改良型試験車に試乗。500km/hの走行を体験した

今回、試乗したL0系改良型試験車は、営業車両の仕様策定に向け、既存のL0系をさらにブラッシュアップした車両。先頭車両1両と中間車両1両が製造され、2020年8月からL0系に組み込んだ編成で走行試験を行っている。

それまでのL0系では、前照灯とカメラが車体前面の先端にあったが、改良型試験車では、新幹線の運転席にあたる位置に変更され、視認性が向上した。あわせて先頭形状を最適化(凹凸を際立たせ、先端に丸みをつけた)し、先頭部の空気抵抗を約13%下げるとともに、消費電力と車外の騒音を低減させている。誘導集電方式を全面的に採用し、ガスタービン発電装置を非搭載とした点も特徴。車体のカラーリングは、進化し続ける躍動感と新しい先頭形状によるなめらかな空気の流れを青のラインで表現した。

  • 新幹線の運転席にあたる位置に設置されたカメラ・前照灯

  • 側面に軌道案内用のタイヤも

  • 先端の形状やカメラ・前照灯の位置が従来のL0系と異なる

  • 改良型試験車の座席

  • テーブルを出した状態

  • 背面のドリンクホルダー

座席は横4列(2列+2列)の配置で、1人分の幅は477mm。東海道・山陽新幹線の車両N700Sのグリーン車が座席幅480mmなので、それに近い感覚で着席できる。片方の肘掛けにリクライニングのレバーとインアームテーブル、もう片方の肘掛けにUSBコンセント、前席の背面にドリンクホルダーも設置されている。

現在の山梨リニア実験線は、笛吹市側(起点)から上野原市側(終点)まで42.8km。うちトンネル区間が35.1kmある。最急勾配は40パーミル、最小曲線半径は8,000m。報道関係者向け試乗会では、まず250km/hまで加速し、山梨実験センターから上野原市側へ移動した。発車時から150km/hまでタイヤで走行し、150km/hを境に格納・展開するようになっている。浮上走行に移るとき、タイヤの音が聞こえなくなり、そこから浮上走行に入ったことを実感できた。

一方、浮上走行からタイヤ走行への移行時、タイヤを展開し終わるまでに少し時間がかかるため、実質的には140km/hほどで切り替わる。タイヤが接地した際、ちょっとした衝撃も発生した。ちなみに、浮上走行に切り替わると、タイヤ走行時に比べて高度が若干低くなり、10cmほどの浮上で安定する。

改良型試験車は上野原市側まで移動した後、笛吹市側に向けて500km/h走行を行う。上野原市側・笛吹市側ともに40パーミルの勾配があるものの、改良型試験車はものともせず加速し、150km/hから浮上走行に切り替わった。客室内に設置されたモニターにて、進行方向の映像や速度が表示される。8割方トンネル区間ではあるが、映像の変化の凄まじさを感じた。車内で聞こえるトンネル内の反響もかなりのものだった。

  • 実験センター内のリニア乗降口

  • 走行中、トンネル内で500km/hに到達

  • 乗降口前のモニター。勾配や曲線半径も表示される

トンネル内にはカーブが存在し、モニターで見ることもできる。半径8,000mのほか、半径10,000m、半径20,000mのカーブも存在するのだが、あまりにも速いため、緩くてもカーブの通過が体感でわかる。走行中、山梨実験センター前を通過した際も一瞬で通り過ぎ、カメラのピントを合わせる時間もなかった。その後、トンネル内で減速を開始し、140km/hほどでタイヤ走行に移行。笛吹市側の停止位置にて停止した。

続いて笛吹市側から上野原市側まで、再び500km/h走行を行った。ここで、スマートフォンのストップウォッチで時間を計ってみたところ、発車から150km/hに達するまでと、150km/hから300km/hに達するまでそれぞれ約48秒、300km/hから500km/hに達するまで約1分5秒かかった。スマートフォンの操作時に多少誤差が生じたとしても、発車から3分経たずに500km/hに到達している。これには筆者も驚いた。

  • リニア停車中および走行時の車窓。実験センターも一瞬で通過した

500km/h走行を2分ほど続けた後、実験センター付近のトンネルに入ったあたりで減速を開始。それから3分ほどで、上野原市側の停止位置にて停止した。最後は350km/hで走行し、実験センターに戻って試乗は終了となった。

タイヤ走行・浮上走行を切り替える際の衝撃をはじめ、所々で小さな揺れは感じたものの、全体的に乗り心地は良かったと思う。ただし、500km/h走行自体がこれまでの常識を覆す速度なので、慣れるまで少し時間がかかるかもしれない。

今回の報道関係者向け試乗会では、改良型試験車への試乗に先立ち、JR東海中央新幹線推進本部副本部長の生田元氏、山梨実験センター所長の高橋幸生氏による説明も行われた。生田氏は中央新幹線の概要と現在の進捗について説明した。

現在、中央新幹線は品川~名古屋間で工事が行われている。その目的は大動脈の二重系化にある。将来的な東海道新幹線の経年劣化や、南海トラフ巨大地震などの大規模災害に対する抜本的な備えとしている。中央新幹線の開業により、東京・名古屋間を最速40分、東京・大阪間を最速67分で結ぶようになり、首都圏から関西圏までひとつの巨大都市圏になる効果も期待されている。あわせて東海道新幹線「ひかり」「こだま」が停車する駅の利便性向上にもつながる。

  • 山梨リニア実験線の概要

  • 中央新幹線の概要と、その目的・効果

  • 南アルプストンネルのうち、静岡工区は現在も未着工

  • 工事中の様子の一部。(写真左から)品川駅、第一首都圏トンネル(北品川工区)、天竜川橋梁

品川~名古屋間約285kmのうち、2022年9月末時点で契約済みの工区延長は合計約9割とのこと。工事中の様子の写真も一部紹介された。山梨県・静岡県・長野県の3県にまたがる南アルプストンネルについては、静岡工区における大井川の水資源への影響に対して取組みを行っている。工事の一定期間、例外的に県外へ流出するトンネル湧水量と同量の水を大井川に戻す方策について、4月以降、静岡県などに説明している。

加えて、JR東海の静岡県内の各駅で、大井川の水資源に関する今後の取組みや地域住民への説明に生かすため、7月にリーフレット・パンフレットを作成し、読者からの質問・意見を募っているという。水問題だけでなく、南アルプスの生態系に関しても、6月以降の有識者会議で議論しており、指導にもとづき真摯に取り組むとしている。

山梨実験センター所長の高橋氏からは、超電導リニアの技術や山梨リニア実験線について説明があった。そもそも「超電導」とは何かというと、きわめて低い温度まで冷却したある種の物質に電気抵抗がなくなる現象のことをいう。超電導リニアでは、線材にニオブチタン合金、冷媒に液体ヘリウムを使用し、線材をマイナス269度まで冷却しているという。この線材でコイルを設け、超電導磁石として車両に組み込んでいる。

ガイドウェイの側壁に推進コイルと浮上・案内コイルが設置されており、推進コイルに電流が流れることで超電導磁石が反応。前に進む力が生まれる。浮上・案内コイルはそのままだと電流が流れないため、リニア車両の停車時および低速走行時は浮上力が発生しない。一方、高速走行時は超電導磁石が高速で通過することにより、電磁誘導で浮上・案内コイルに電流が流れる。車両側の超電導磁石と吸引・反発し合うことにより、浮上力が発生する。

  • 超電導リニアのしくみ

万が一の停電時にも、速度が出ていれば浮上し続け、所定速度まで下がったときにタイヤ走行に移行できる。ガイドウェイに側壁も設けられているため、脱線することはないとのことだった。

今回の体験試乗を通じて、いままでにないスピード感と、それを裏づける安全性を体験できた。しかし、現時点で静岡工区が着工できていないとのことで、引き続き注意深く展開を見守りたい。