第81期C級1組順位戦(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)は、9回戦の全16局が各地の対局場で行われました。7勝0敗で単独首位を走る伊藤匠五段は、関西将棋会館で行われた船江恒平六段との対局に89手で勝ちました。この結果、勝った伊藤五段は8勝0敗で首位をキープ。敗れた船江六段は3勝5敗の成績になりました。

横歩取りの力戦形

横歩取りの出だしとなった本局は、先手の伊藤五段が横歩を取ったところで後手の船江六段が玉を寄る趣向を見せて幕を開けました。主流となっている青野流の定跡形を避ける指し方で、これは船江六段がこの2、3年で連採している作戦でもあります。船江六段はこの直後、持ち駒の角を早々に盤上に放って先手の飛車を自陣に押し込める展開に持ち込みました。

盤上の駒をのびのびと活用していく船江六段に対し、伊藤五段は序盤早々に果たした歩得を主張して互角の中盤戦が展開します。先手の伊藤五段が2筋の歩を伸ばして敵陣突破を試みたとき、タダのところにぽつんと歩を打って様子をうかがったのが船江六段の工夫の一手。これを金で取れば飛車先が重くなって2筋突破が難しくなる意味でしたが、伊藤五段も強気に応戦して棒金の要領で攻めを継続します。

「天使の跳躍」の桂跳ねで伊藤五段が抜け出す

盤面右方での激しいやりとりの結果、伊藤五段は駒損なく竜を作ることに成功しました。手をこまねいていては押し切られると見た船江六段は、自陣に銀取りが掛かった局面で先手玉への直接攻撃に転じます。タダのところに角を放り込んだのを皮切りに、船江六段は角金桂の3枚の攻め駒を敵陣に侵入させて伊藤五段の玉に迫りました。

船江六段の攻め駒に玉を囲まれてピンチに思われた伊藤五段でしたが、ここで左桂を連続で跳ね出す起死回生の手段を用意していました。このいわゆる「天使の跳躍」の桂跳ねによって、壁形に追い込まれていた伊藤玉の耐久性は格段に上がった形です。また、この桂は船江六段の玉に対する取っ掛かりともなっています。

伊藤五段が快勝

自玉の猶予を得た伊藤五段は、満を持して反撃に出ます。右辺に作った竜には手をかけずに盤面左辺から船江玉を攻めたのが「玉は包むように寄せよ」の格言通りの好手。船江六段は玉を右方に逃げ出すほかありませんが、こうなると伊藤五段の竜と角が自然と輝いてくるという寸法です。終局時刻は21時18分、最後は伊藤五段が玄人好みの歩打ちを放ってスリル満点の超急戦を締めくくりました。

これで勝った伊藤五段は8勝0敗で単独首位をキープ。この日、ほかにも勝利を挙げた都成竜馬七段、青嶋未来六段、渡辺和史五段が7勝1敗で追走しています(6勝1敗の石井健太郎六段の対局は延期、実施日未定)。▲千葉幸生七段―△伊藤五段戦を含む次回10回戦は2月7日(火)に各地の対局場で予定されています。

水留啓(将棋情報局)

  • 2期連続昇級への期待がかかる伊藤匠五段(写真は第52期新人王戦三番勝負第2局のもの 提供:日本将棋連盟)

    2期連続昇級への期待がかかる伊藤匠五段(写真は第52期新人王戦三番勝負第2局のもの 提供:日本将棋連盟)