小栗旬主演の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)が18日に最終回を迎えた。“2代目善児”として注目を集めたトウも登場。暗殺者ではなく、武術の指導者として北条に仕えている姿が描かれた。脚本を手掛けた三谷幸喜氏は、当初はトウが死ぬ結末を予定していたという。トウを演じた山本千尋が、脚本の変更を明かすとともに、重責の役どころを演じ切った思いや、女優としての今後の目標などを語ってくれた。

  • 山本千尋 撮影:加藤千雅

善児(梶原善)に育てられた孤児・トウとして第29回から登場し、圧巻の殺陣で視聴者を魅了してきた山本。第31回では、源頼家(金子大地)の側室・せつ(山谷花純)を殺し、第33回では頼家を暗殺、さらに育ての親でありながら、両親を殺した善児に復讐を果たした。第44回では、義時(小栗旬)の命で源仲章(生田斗真)の暗殺に向かうも、先を読まれ失敗。捕らえられてしまったが、翌週の放送で脱出に成功した。

さらに、息子の実朝(柿澤勇人)が討たれ、悲しみに暮れる政子(小池栄子)が自害しようとしたところに現れ、「ならぬ」と阻止。「自ら死んではならない」と生きることを促した。その後、しばらくトウの近況が描かれなかったが、最終回で再び登場し、驚きの転身が明らかに。暗殺者を卒業し、子供たちに武術を教えるという役目を政子から与えられ、朗らかな表情を見せるトウに、SNSでは安堵する声や応援の声が上がった。

山本は「トウは死ぬと言われていたんです」と、当初のストーリーから変更になったことを明かす。

「『最終回で死にます』と言われていて、そう思いながら生きていこうと思っていたら、善児を暗殺した回の放送翌日に三谷さんから電話がかかってきて、『ダメ出しだ!』と思ったんです。もしくは、その日、私の誕生日だったので『おめでとう』の可能性も少しあるのかなと(笑)。そうしたら、『終わりを変えました』と言われました」

そのときに三谷氏は「僕の中の脚本の神様が『トウは希望にしなさい』と言ったんです」と話していたそうで、山本は「みんながけっこう悲しい結末なので、トウは暗殺業から足を洗って、幸せな終わりにしたいとおっしゃって、なんてうれしい言葉をかけてくださるんだろうと思いました」と振り返る。

三谷氏の脚本変更により、政子とのシーンが生まれ、最終的に13人の子供たちに自分の身を守るための武術を教えるという新しい人生が開けた。

  • 『鎌倉殿の13人』最終回の場面写真 (C)NHK

善児暗殺後、トウとして「目的を見失った瞬間があった」ことも告白。「善児を殺したら自分の人生も終わりだと、そこで自分も自害するはずだと思っていたのですが、そのあとも暗殺業を続けることになり、『なんで私まだ生きているんだろう』と思いました」

だが、政子の自害を止めたシーンを経て「気持ち的に救われたような気がしました」と、政子とのシーンが転機に。

「トウも仲章を暗殺しようとして返り討ちにあって満身創痍になり、一歩間違えていたら死んでいたかもしれないと、自分の死を感じたあとだった。そのときに自害しようとする政子を見つけて、タイミングがバッチリ合ったのだと思います。自分はなんでこの仕事をしているのだろうというときに、政子という仏様のような方が分岐点になって救われたのではないかなと思います」

そして、「ありがたいことに幸せな終わり方になりましたが、善児が口にすることもできなかった夢をトウが受け継げたのではないかなと思っています」と自身の見解を語る。

「善児は一幡を育てたり、子供が好きな人だったと思うんです。暗殺を繰り返していたから口にすることは許されなかったけど、そういう未来を想像していたのかなと思うと、善児の代わりにトウがその役目を果たし、弟子としての恩を返せたのかなと、救われた気持ちになりました。私の見解が合っているかわからないですが、そう思いながら最後のシーンを撮り終えました」

三谷氏にトウというキャラクターの行く末を変えたいと思わせた山本。「1人のキャラクターについて三谷さんが最後まで悩んでくださったというのはすごくありがたいです」と感謝しきりだ。

「暗殺する側もけっこう心が病んでしまうんです」と、暗殺者として義時に仕えていた期間は苦しさも感じていたという山本。三谷氏はそれぞれのキャラクターの最期を丁寧に描いてきたからこそ山本にかかる重圧も大きかった。「1人の役が終わる瞬間、人生が終わる瞬間なので、私の演技で台無しにしたくないという思いもありました」。大河ドラマ初出演にして難しい役どころを見事に演じ切り、「これ以上ないくらいかけがえのない時間になりました」としみじみと語る。