カワサキモータースジャパンがこの冬、ついに日本でオフロード四輪車「TERYX」シリーズと「MULE」シリーズの展開を開始した。北米を中心に高評価を得てきた四輪車だが、これまで国内展開はなかった。

待望の逆輸入に熱視線が集まる中、カワサキモータースジャパンは12月7日にプレス向け試乗会を愛知県「さなげアドベンチャーフィールド」で開催。話題の四輪車はハードなオフロード環境でどのようなパフォーマンスを発揮したのか、各マシンの詳細とともに当日の様子をレポートしたい。

  • 左から「TERYX KRX 1000」「TERYX4 S LE」「MULE PRO-FXT EPS」

■ついに日本展開が始まったカワサキのオフロード四輪車、その実力は?

国内販売が始まったのは、「TERYX」シリーズの「TERYX KRX 1000」「TERYX4 S LE」、「MULE」シリーズの「MULE PRO-FX EPS」「MULE PRO-FXT EPS」の計4モデル。プレス向け試乗会では、「MULE PRO-FX EPS」以外の3モデルに試乗することができた。ちなみに、TERYXシリーズもMULEシリーズも公道走行はできず、私有地のみ走行が可能となっている。

試乗会で特に大きなインパクトを放ったのが「TERYX KRX 1000」だ。結論から言うと、乗っているだけで「めちゃくちゃ楽しい」と感じさせてくれる一台で、特に今回のような本格的なオフロード環境で走ってみると、まるで遊園地のアトラクションに乗っているかのようなワクワク感を味わうことができる。

「TERYX KRX 1000」は、整備のされていない森の中から岩場まで走破可能なトレイルアドベンチャー四輪で、大自然を走る前提で設計されており、高い走破性、耐久性、そして信頼性を持ち合わせている。エンジンには114馬力を発生させる「999cm³水冷4ストローク並列2気筒/DOHC4バルブエンジン」を搭載し、ハードでタフな走行を可能にした。4モデルの中でもっとも過酷なアクティビティにも対応できるモデルである。

この日はまず、助手席に乗ってプロのドライバーの運転を体験。実際に深い水溜まりの中や急な坂道、荒い岩場まであらゆる悪路を走行し、「TERYX KRX 1000」の性能を体感させてくれた。

その安定感は素晴らしいというほかない。目の前に広がる激しい凹凸の中を進んでいるはずなのに身体への負担は驚くほどに少なく、「これはさすがに無理だろう」と感じるような岩場もなめらかに進んでいく。ロングタイプのサスペンションが路面に応じて柔らかく上下動し、あらゆるショックを吸収してくれているので、車体そのものは逆に戸惑いを覚えるほど安定しているのである。

かと思えば、直線では一気に時速70〜80km程度まで加速し、コーナリングでは華麗なドリフト走行で派手に砂煙を舞い上げていくシーンも。この過酷な環境をこうも自由に駆け抜けるとは想像以上だ。

その後、実際に自分の手で運転してみると、安定性や走破性の他に、操作性の高さもしっかりと感じることができた。高い馬力を誇っているので加速もしやすく、ハンドルも意外に軽い。岩場のような凸凹道を走っても、ハンドルを取られたり、車体がブレたりする感覚がほとんどない。これなら無駄にスピードさえ出しすぎなければ、どんなテクニカルな地形でも怖さを感じることは少なさそうだ。むしろ先述のとおり、遊園地でアトラクションを楽しんでいるようなエンターテインメント性の高さばかりが目立つ。

スペックの高さを語ればキリがないのだろうが、この乗車体験を簡潔にまとめるなら、やはり「楽しい」の一言に尽きる。もちろん、楽しさを裏付けてくれているのが、優れた走破性、安定性、信頼性にあることは言うまでもない。

こちらは同じTERYXシリーズでオフロードスポーツタイプの「TERYX4 S LE」。「TERYX KRX 1000」が2シーターだったのに対し、こちらは4シーターとなっており、家族や仲間とともに乗車体験をシェアして楽しむことができる。エンジンはパワフルな「783c㎥水冷Vツインエンジン」を搭載。全回転域で力強いパワーとトルクを発揮してくれる。

こちらも実際に運転してみたところ、優れた快適性と安定性を感じ取れた。電動パワーステアリングがしっかり機能しているので、よほどの下り坂でない限り、ブレーキを踏まなくてもゆっくりオフロードを走ることができた。

こちらの「MULE PRO-FXT EPS」はTERYXシリーズと違い、より実用性を追求したモデルとなっている。エンジンは「812cm³水冷4ストローク並列3気筒DOHC4バルブガソリンエンジン」を搭載し、農場などで重視される低速回転域でのパワフルな走りと不整地踏破性、耐久性を高レベルで維持しながら、453kgという素晴らしい最大積載量を誇る(ちなみに軽トラックの最大積載量は350kg)。

実用性に特化しているだけに、TERYXシリーズと比べて走破性や安定性にはやや欠けるかと思いきや、この日走ったオフロード環境ではほとんど優劣は感じさせなかった。よほど過酷な悪路でもない限り、MULEシリーズもまったく問題のないパフォーマンスを発揮するようだ。

カワサキモータースジャパンはオフロード四輪車の国内展開にあたって、スポーツ走行などを楽しむ「ユーザーユース」、農作業や林業などで活躍する「ワークユース」、アウトドアアクティビティとして乗車体験を提供する「レジャー・リゾートユース」、そして災害などの有事で力を発揮する「特殊需要」などの需要を見込んでいるようだ。

実際、すでに防衛省では一部試験導入も始まっているという。ただ「楽しい」「便利」というだけでなく、社会に役立つ存在としての側面も確実に兼ね備えているあたり、質実剛健なカワサキの本領発揮とも言えそうだ。

一般道では走行できないので、なかなか誰でも自由に楽しむことができるというわけにはいかないかもしれないが、今後数年かけて全国の総合テーマパークやマリンリゾート、スキー場なども徐々に導入し始めると思われる。ラインナップや販売店も拡充する予定だ。1日も早く、多くの人がこの新たなアクティビティを楽しめる日が来ることを期待したい。