日本国内でなかなか盛り上がりを見せないサッカー人気を象徴する出来事を、吉田は身を持って経験している。わずか半年ほど前。サッカー王国ブラジル代表を含めて、W杯カタール大会へ向けた強化の場となる国際親善試合が日本国内で4つ組まれた6月シリーズを迎えたときだった。

「ブラジル代表との対戦が決まって、たくさんの人からチケットを頼まれてすごく大変だったんですね。だから、代表は盛り上がっているのかなと個人的には思っていたんですけど。この間の札幌での試合でチケットが売れ残っていると知って、ちょっと自分の肌感覚とは違っていましたね」

吉田が言及した「札幌での試合」とは、6月2日に札幌ドームで行われたパラグアイ代表戦を指す。札幌ドームでの日本代表戦開催は2014年9月以来、約8年ぶりだった。しかも、新型コロナウイルス禍の日本で長く設けられてきた、観客数の入場制限も撤廃されていた。

しかし、約4万2000人のキャパシティーに対してパラグアイ戦の観客数は2万4511人。6割に満たなかったスタンドはどうしても空席が目立った。対照的に8年前の2014年9月5日に開催された、日本対ウルグアイの観客数は3万9294人とほぼ満員だった。

メキシコ出身のハビエル・アギーレ監督の初陣だったウルグアイ戦には、実は吉田も出場していた。8年の歳月を経たギャップを前にして、余計にショックを受けたのかもしれない。

そして、パラグアイ戦の4日後に国立競技場で行われたブラジル戦。あいにくの雨に降られ続けながらも観客数は6万3638人と、改修後の国立競技場における最多記録(当時)を更新した。パラグアイ戦とのギャップが何を物語っていたのかは一目瞭然だった。

サッカー人気そのものは決して落ち込んではいなかった。ブラジル代表の来日は実に21年ぶり。FWネイマール(パリ・サンジェルマン)をはじめ、スーパースター軍団のプレーを生で観戦できる貴重な機会だっただけに、チケットは瞬く間に完売となった。

当時はイタリアでプレーしていた吉田のもとへも、何とかならないかと友人や知人から連絡が入っていたのだろう。日本代表よりもブラジル代表へ注がれた関心度の高さが、普段はあまりサッカーに関心を示さない、いわゆるライト層を数万人単位で国立競技場へ引き寄せた。

対照的に日本代表人気はピーク時に比べて明らかに低迷している。ブラジル戦を前にした取材で、日本国内の現状を問われた吉田が「難しいですね」と思わず答えに窮し、ようやく絞り出したちょっと笑えないエピソードが、パラグアイ戦とブラジル戦とのギャップだった。

しかし、劇的な逆転劇の末に勝利したドイツ戦を境に、潮目が明らかに変わった。それだけ望外の勝利だったのだろう。地上波を中心にテレビが大々的に伝え、ワイドショーを含めた報道を見聞きした老若男女が大きな関心を抱き、ライト層の幅を一気に広げた。

前述したように、コスタリカ戦は日本時間で絶好の日時に行われた。テレビ朝日系で生中継された平均世帯視聴率は42.9%と、他局を含めて2022年で最高の数字をマーク。生配信したインターネットテレビ局「ABEMA」の視聴者数も、開局以降で最多となる約1400万人を記録した。

テレビ朝日の推計では、地上波との合計は約6080万人に到達。国民の半分以上が森保ジャパンの戦いぶりを見守る近年稀に見る熱狂ぶりが生まれた。しかし、結果として千載一遇のチャンスを日本は逃してしまった。期待が一気に膨らんだ分だけ、失望という反動も大きかった。

批判されると覚悟した吉田だけでなく、プレーが消極的と映った途中出場のDF伊藤洋輝(シュツットガルト)ら若手にもネット上で非難が集中した。日本で起こっている事態を把握し、すべては自分たちがまいた種と逃げずに受け止めながら、吉田は覚悟と決意を新たにしている。

「これがサッカーの難しさだとあらためて感じました。難しい試合になるのは間違いないとわかっていたのに、一番起きてはならない展開になってしまった。ただ、まだ何もつかみ取ってないし、何も失っていない。決して焦らずに、その上でもう一度泥臭く戦わなければいけない」

コスタリカ戦後にこう語った吉田はキャプテンとして、スペイン戦までの3日間で極めて大きな仕事を担った。それは「戦い方を統一する作業」だった。卓越した技術とボールポゼッション術を持つスペインと、どのように戦うべきか。選手たちが抱く思いを集約して回った。