第81期順位戦(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)は、B級1組9回戦の6対局が12月1日(木)に各地の対局場にて行われました。このうち、東京・将棋会館で行われた羽生善治九段―近藤誠也七段戦は130手で近藤七段が勝利。この結果、勝った近藤七段は5勝4敗、敗れた羽生九段は3勝5敗となりました。

角換わり腰掛け銀の定跡形

先手となった羽生九段は角換わり腰掛け銀の定跡に誘導します。駒組みにおける駆け引きを経て、後手の近藤七段は千日手を含みに自陣の駒の繰り替える方策を採りました。類型の多くで先手が桂跳ねの先攻を見せる展開になるなか、後手番ながら6筋の歩をぶつけて先攻したのが近藤七段の工夫でした。これをきっかけに局面が動き出し、角換わりらしく盤面全体を使った攻防が始まりました。

羽生九段が6筋に歩を垂らして後手玉にプレッシャーをかけたとき、近藤七段がこれを放置して△6七歩と打ったのが本局の中盤におけるポイントでした。この手で近藤七段は先手の攻めを呼び込みつつ、駒を手に入れての反撃を狙っています。これに対し羽生九段が一気の攻め合いを目指さず矛を収めたため、局面は第二次駒組みに移行することになりました。

激しい攻め合いに突入

たがいに手持ちの角を盤上に手放す穏やかな中盤戦が続くなか、羽生九段が4筋で銀をぶつけたことによって再び戦いの火蓋が切られました。銀を手にした羽生九段はすぐにこの銀を敵陣に打ち込んで飛車金両取りをかけます。これに対し近藤七段は飛車を角と刺し違えて急場をしのぐと、返す刀で6筋の拠点に銀を打ち込んで攻め合いに打って出ました。

羽生九段は後手のカニ囲いに対して飛車を打ち込んで攻めていること、近藤七段は玉飛接近の悪形を露呈する先手陣を直接攻めていることを主張して、局面は互角のまま激しい終盤戦に突入していきました。順位戦の戦いは夜に入り、6時間ずつあった持ち時間はともに1時間を切っています。

銀捨ての鬼手で近藤七段が逆転勝ち

形勢の針を先に手繰り寄せたのは羽生九段でした。自玉に対して詰めろがかからないことを見切りつつ、近藤玉を守る銀に金を張り付いていったのが「寄せは俗手で」を地でいく好手。手持ちの角を投入して粘る近藤七段に対し、巧みに金銀を繰り替えて攻め手を休めません。局面は「羽生九段の攻め対近藤七段の受け」という構図の時間が続きました。

反撃を企てる近藤七段ですが、盤面中央に設置した角を敵陣に成り込むと自動的に自玉に詰めろがかかってしまう状態では攻め合いも望めません。また一間竜を狙う羽生九段の攻めも厳しく手段に窮したように思われましたが、ここで近藤七段は取られそうな自陣の銀をタダで捨てる鬼手、△6三銀を用意していました。この銀は、先手の竜に取らせることで一間竜の理想形から遠ざけつつ、伴って自身の角の動きも自由になるという寸法です。

結果的に、近藤七段はこの一手で終盤の速度を逆転させてしまいました。最終盤の土壇場で出されたこの絶妙手を前に、さすがの羽生九段といえどもなす術はみつかりませんでした。投了図で羽生九段の玉に受けはなく、近藤七段の玉には詰みがありません。

これで勝った近藤七段はリーグ成績を5勝4敗と白星先行に戻しました。敗れた羽生九段は3勝5敗となりました。なお6勝1敗でリーグ首位だった中村太地七段は郷田真隆九段に勝って星を伸ばし、単独首位の座をキープしています。

▲近藤七段―△千田翔太七段戦、▲羽生九段―△丸山忠久九段戦を含む次節10回戦は、12月22日(木)に各地の対局場にて予定されています。

水留啓(将棋情報局)

  • 近藤七段は羽生九段との通算成績を2勝6敗とした

    近藤七段は羽生九段との通算成績を2勝6敗とした