カタールW杯のグループステージ初戦で強豪ドイツ代表を撃破しながら、第2戦でコスタリカ代表に敗れた日本代表が1日22時(日本時間2日4時)、ドーハ郊外のハリーファ国際スタジアムでスペイン代表との最終戦に臨む。日本が勝てば無条件で決勝トーナメント進出が決まり、引き分ければ同時間帯に行われるドイツ対コスタリカの結果に委ねられ、負けた瞬間に日本の敗退が自動的に決まる強敵との大一番へ。10代前半をスペインで過ごし、プロとしてスペインへ戻って4シーズン目を迎えているチーム最年少の21歳、MF久保建英(レアル・ソシエダ)は紆余曲折を経てたどり着いたW杯の舞台で、第二の母国との真剣勝負を心待ちにしている。

  • サッカー日本代表MF久保建英

いまではほとんど忘れられてしまっているが、日本代表が2大会ぶり3度目の決勝トーナメント進出を果たした4年前のロシア大会に、実は久保建英も“参戦”していた。

といっても、当時の西野朗監督に率いられた代表チームの一員としてではない。代表のトレーニングパートナーとしてU-19日本代表チームが指名され、17歳になったばかりの久保も名を連ねた。西野ジャパンの選手たちと同じホテルに泊まり、紅白戦も含めて、練習もともに行った。

当時の久保は所属していたFC東京とプロ契約こそ結んでいたものの、主戦場はFC東京がU-23チームを参加させていたJ3リーグ戦だった。しかし、久保のなかで何かが変わったのだろう。帰国後に参加したミーティング。土産話を求められた久保は、こんな言葉を残している。

「武藤(嘉紀)選手と岡崎(慎司)選手の攻守の切り替えの速さが半端なかったです」

FC東京U-23を率いていた安間貴義監督(現FC東京ヘッドコーチ)は、いい意味で久保の言葉に驚くとともに、成長の跡を感じずにはいられなかったと語っている。

「あの選手が上手いとかすごいとかではなく、攻守の切り替えの速さといった点に着目するのは、これまでの彼にはなかった部分でした」

成長していくスピードを加速させるために、久保は自らの意思で歩んでいく道を変えた。2018年8月に横浜F・マリノスへ期限付き移籍。J1初ゴールこそマークしたものの、決して成功とはいえない日々で、自分のプレーうんぬんの前にチームのために成すべき仕事があると理解した。

翌2019シーズン。復帰したFC東京で大ブレークを果たし、一気に存在感を高めた久保は森保ジャパンでもデビュー。しかも、海外移籍が可能になる18歳になってまもない6月13日に世界的なビッグクラブ、スペインのレアル・マドリードへ電撃移籍して日本サッカー界を驚かせた。

しかし、EU圏外選手枠の問題もあって、レアル・マドリードでは簡単に居場所は築けない。1シーズン目はマジョルカ、2シーズン目はビジャレアルとヘタフェ、3シーズン目は再びマジョルカと期限付き移籍を繰り返して迎えた今シーズン。久保は大きな決断を下した。

レアル・ソシエダへの完全移籍。ビッグクラブと袂を分かち、レアル・マドリードやバルセロナを追う立ち位置にあるクラブのひとつで、戻る場所があるレンタルではなく、もう後がない立場で主力を勝ち取る。最初の目標を叶えた先に、カタールW杯に臨む日本代表入りという吉報が届いた。

ロシア大会時はJ3リーグの舞台でプレーしていた事実を考えれば、階段を駆け上がってきたスピードが尋常ではないと映ってしまう。それでも久保は「周囲が言うほど、それほど順調ではなかったと個人的には思っている」と努めて冷静に自身のキャリアを振り返る。

「そもそも結果だけを言っちゃうと、このW杯という場所に立ってることがすべてであり、その意味でこの4年間は正解だったのかなと思っている。ただ、細かく見ていくとやはり難しい時期もあったし、今回のW杯もぎりぎりで何とか滑り込めた、という感覚が自分のなかにはある。カタールW杯が開催される時期を含めて、その意味では逆に自分のことを『持っている』と思うし、数々の難しい選択を自分が下してきたことに誇りも持ちたい、とは思いますね」