大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)の第43回「資格と死角」(脚本:三谷幸喜 演出:吉田照幸 松本仁志)では、実朝(柿澤勇人)が朝廷から養子をもらうと決めた矢先、頼家(金子大地)の子・公暁(寛一郎)が戻って来た。4代目・鎌倉殿を巡り、義時(小栗旬)、義村(山本耕史)らの暗躍がはじまった。

  • 義時役の小栗旬(左)と政子役の小池栄子 ※第42回の場面写真

刻々と近づいてきている“惨劇”のプロローグ回(鶴岡八幡宮の地図に惨劇の重要場面・大銀杏が書き込まれていたことも話題に)は、派手な場面はなかったがそれゆえに俳優たちの演技の妙が楽しめる回だった。とりわけ政子を演じる小池栄子が大活躍した。

まず、従三位となった政子(小池栄子)がうれしそうに「従三位」とポーズをとって、実朝までその真似をして笑う場面はとても楽しめた。小池のポーズが印象的で、頼朝(大泉洋)が征夷大将軍になったときに政子が大喜びし「征夷大将軍」の「軍」を「ぐーん」と伸ばした第22回を思い出す視聴者が多かったようだ。

ほかにも小池は『鎌倉殿』の第1回、政子が頼朝に会った際、ときめきを表現するように妙にしなったポーズをとり、それが第1回の見どころだと語られたこともあったほどで、小池演じる政子は第1回からぶっ飛ばしていたのである。大河ドラマらしからぬ、あるいはこれまでの政子のイメージをぶっ壊すような小池のとらわれていないアクション。これが『鎌倉殿』を牽引してきたと言っても過言ではない。

第43回の政子は見どころが多く、長らく誠実に仕えてきて、なんとなくいい感じなのか? と思わせた大江広元(栗原英雄)の誠意に「重すぎます」と淡々と返す場面も印象的。「お願いします」「ごめんなさい」みたいな残念シーンをふざけ過ぎず真面目過ぎずほどよく演じていた。

もうひとつは、従三位になるきっかけになった藤原兼子(シルビア・グラブ)との談判のシーン。お互いが相手を牽制し合って一歩も引かない(まずは相手の鼻をへし折ったうえでうまくやろうとした兼子をうまく交わし逆に彼女の心をうまくくすぐる)緊迫の場面。第2回で八重(新垣結衣)と頼朝を巡って静かに火花を散らした場面を思い出す。あの頃からいざというときの腹の据え方がしっかりしている政子もあれから40年近く経って(第42回で頼朝に嫁いでから40年くらいと言っていた)、年を重ね、さらにこういう対決に強くなっているように感じる名場面であった。

『鎌倉殿』の政子は過去に語られてきたほど策を持ってしたたかに生きている印象はなく、田舎の武家の娘がたまたま愛した人が偉い人で、そのまま上り詰めた風の、素朴な雰囲気があるが、いざというときの野生の勘のような頼りがいが魅力のひとつ。史実では今後、世紀の大演説を行うので、そこを三谷氏がどう書き、小池がどう演じるか楽しみになって来た。

さて、小池劇場以外にも俳優たちが生き生きしていた場面はまだある。公暁を交えた、13人による、3分ほどのノンストップの話し合いの場面は演技巧者たちの集まりだからこそ成立するものだった。13人中、小栗旬、山本耕史、小池栄子、柿澤勇人、宮澤エマ、小林隆、生田斗真、坂口健太郎、瀬戸康史、栗原英雄(順不同)の10人が舞台経験豊富な俳優たちなので、会話の間合いが実にいい。誰かが話をしようとすると、その話を遮る、この繰り返しなどが、状況の不穏さを掻き立て、じつに面白かった。舞台とは違い、ドラマなので、何度か同じ場面を撮影しているだろうけれど、ノンストップの舞台を経験しているからこその全体の空気をみんなが共有し、全員の気配を察しながら言葉を発していく緊張感。各々の視線やちょっとした動きにも目が離せなかった。

また、義村が公暁に頼家は北条によって殺されたと教える場面も、相変わらず義村が策士的で、いろいろな考えのもと、相手を思い通りに動かそうと巧みに語っているのだろうと思わせる。山本耕史は裏心のある雰囲気がじつに巧い。

後鳥羽上皇(尾上松也)と時房(瀬戸康史)の蹴球対決もいかにもスタントながら、2人の会話が面白く気にならない。脚本がいいと余計な演出をいれなくても脚本の意図を汲んでやれば面白くなるといういい例の回であった。

山本、小池、柿澤、小林、瀬戸、栗原、尾上、シルビアと三谷氏の舞台に出ている俳優ばかりなので(小栗は映画とドラマに出ている)、適切な間合いを理解して演じているように感じた。

最後に、この回で政子に「重すぎる」と言われてしまったうえ、目が悪くなってしまった大江広元を演じている栗原英雄について。第41回では華麗な剣さばきも見せて人気急上昇中の大江を演じている栗原は劇団四季出身の俳優で、『真田丸』では真田昌幸の弟で任務に実直な真田信尹役で注目された。『真田丸』出演のきっかけは、三谷氏が彼の出演しているミュージカル『タイタニック』を観て、栗原をキャスティングした。栗原が「発掘してくれた」と言っていたら、それに対して三谷氏は「インタビューで、僕に発掘されたとか、そういうことは言わないように。あなたは、決して埋まっていたわけではない。ずっと目の前にいたのに、見つけられなかった、僕らが悪いのです」という心あるコメントを寄せた(長野里美のTwitterより)というエピソードが『真田丸』当時、話題になった。

三谷氏との出会いとなった『タイタニック』でシルビアが妻役で、三谷氏は彼女に呼ばれ芝居を見に来て栗原に目を留めたという話を、筆者が栗原にインタビューしたときに聞いた。『鎌倉殿』第43回でシルビア演じる兼子との談判をうまくやるコツを助言したのが栗原演じる大江。なんとも縁を感じるキャスティングであった。

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