酒どころと言えば、兵庫「灘」や京都「伏見」なんかを思い浮かべる人も多いはず。ですが、東京から電車を使って約2時間でいける千葉の利根川流域も、かつて「関東灘」と呼ばれるほど酒造が軒を連ねる酒どころだったんです。そんな利根川流域に位置する「佐原・神崎」の日帰り旅を、今回はお届け。酒造のはしごはもちろん、小江戸の町歩きを楽しんでいきます。

  • のんべえの行き先は千葉!? 酒と小江戸を楽しむ「佐原・神崎」のお手軽ほろ酔い旅

千葉が酒どころなのはなぜ!?

まずは「なぜ千葉で酒造りが栄えたのか?」を、歴史とともに理由を探っていきましょう。

千葉での酒造りは江戸時代にはじまり、寛永元年(1624年)に創業した「吉崎酒造」が千葉で現存する最古の酒造だと言われています。

当時、県北部の利根川流域では水運を利用して酒造りが盛んに。利根川・江戸川を通る「高瀬舟」による輸送がおこなわれ、年貢米や九十九里の海産物をはじめ、酒などが江戸に運ばれるようになりました。最盛期には、利根川流域でおよそ100近くの酒蔵が軒を連ね、神戸の酒どころ「灘」になぞらえ、「関東灘」とも呼ばれるほどだったそうです。

  • 千葉の地酒

また、その取引を通じて北総地域には多くの酒造、穀商を営む豪商が数多く誕生。特に佐原の街は江戸への中継地点だったこともあり、江戸からの文化が急速に伝流、大きく隆盛し、文化的にも「江戸優り(えどまさり)の文化」が花開いたとされています。

こうした歴史や背景から、千葉県では酒や醤油などの醸造業が発展し、今日にわたって県内各地に発酵文化が根付いています。現在は、県内におよそ40弱の酒造場があり、関東屈指の酒どころとなっています。

では早速、今に続く酒造や小江戸文化を反映する佐原の町並みを見ていきましょう。

鍋店(なべだな)酒造

  • 鍋店(なべだな)酒造

元禄2年(1689年)成田山新勝寺の門前にて創業した鍋店酒造。現在は田園の広がる香取郡神崎町に酒蔵を移し、「仁勇・不動」と言った銘柄を醸しています。蒸米・麹・もろみに至る酒造りという『生まれ』から、おり下げ・濾過・火入れ・貯蔵、そして瓶詰めに至る『育ち』まで、全ての工程を自社スタッフでおこなっているそうです。

同社では、一般の人も蔵に入れる酒蔵見学を開催。酒造りの機械を間近で見ながら工程を学んだり、見学の終わりには試飲もできたりと、酒好きにはたまらない時間です!

  • 蔵の中を見学!

今回、鍋店酒造代表取締役社長 大塚完さんに"おすすめの1本"を尋ねると、いずれも飲んでほしいお酒だと前置きをした上で、『不動 吊るししぼり』を教えてくれました。今回は、その中の『不動 吊るししぼり 無濾過 純米大吟醸生原酒』をお土産としてショップで購入!

  • 季節のお酒を数種類飲み比べ。この時点でほろ酔いに。左端が「不動 吊るししぼり 無濾過 純米大吟醸生原酒」

無濾過生原酒は、簡単に説明すれば「造った日本酒をすぐに瓶詰めしたお酒」を指します。「濾過」や「火入れ」をしないので、本来お酒が持つ旨味や個性を保ち、さらには、水を加えない「原酒」であることから、アルコール度数が高く、飲みごたえのある味わいに仕上がることが特徴です。

『不動 吊るししぼり 無濾過 純米大吟醸生原酒』は、精米歩合50%の「酒こまち」を使用。丸みを帯びたまろやかな口当たり、米の優しい甘みと穏やかな酸が調和した味わいが魅力です。旨味を感じつつも、「酒こまち」ならではの軽やかさもあり、バランスが整った1本に仕上がっています。

また、日本酒はもちろんのこと、「仁勇」の柚子酒や梅酒などもラインナップしているので、新しい味わいも楽しめます。

■Information
「鍋店酒造 神崎酒造蔵」
【住所】千葉県香取郡神崎町神崎本宿 1916 番地
【蔵見学料金】800円
【蔵見学日程】月~日曜日の11:00~/13:00~/15:00~の3部制
※個人・団体の受付可能。なお、1グループは最大15名ほどの受付

小江戸「佐原」を探索

お酒を楽しんだ後は、鍋店酒造から電車で35分・車で20分ほどの位置にある小江戸風情あふれる佐原の町へ。かつて、水運を利用して「江戸優り(えどまさり)」と言われるほど栄えた町を探訪します。

  • 佐原の小江戸風情ある町並み

LE UN(ルアン) 佐原商家町ホテル NIPPONIA

  • 佐原商家町ホテル NIPPONIA

酒蔵見学後の昼食は、「佐原商家町ホテル NIPPONIA」内にあるレストラン「LE UN」で。同ホテルは、江戸風情が残る佐原の町全体を一つのホテルに見立てており、「LE UN」は酒蔵をリノベーションしたレストランです。

  • 「LE UN」はレストランだけでなく、結婚式の披露宴会場としても使用されている

ここでは、地産地消にこだわったフレンチベースの料理と地酒やみりんをいただきます。目にも鮮やかな料理の中でも特に印象的だったのは、千葉県産かずさ和牛を使用したメイン。ナイフでスッと切れる柔らかさと、噛むほどにあふれだすお肉の旨味、上品な脂がたまりません。

  • 千葉県産かずさ和牛を使用したメイン

ちなみに、古民家をリノベーションしたというお部屋は、1カ所にまとまってあるわけではなく佐原の町に点在する一風変わったスタイル。文化や歴史を残しつつも、快適さやオシャレさも兼ね備えたくつろげる空間です。

  • 宿泊部屋

■Information
「LE UN(ルアン) 佐原商家町ホテル NIPPONIA」
【住所】千葉県香取市佐原イ1708-2
【営業時間】11:30~15:00(L.O.14:00)/17:30~22:00(L.O.20:00)
【定休日】不定休
※ランチタイムで「かずさ和牛」は通常メニューとして提供していません

馬場本店酒造

  • 馬場本店酒造。レンガで造られたえんとつが目印

馬場本店酒造は、江戸の初期、奈良県から佐原に移り糀屋を開いたのがはじまり。現在は、日本酒「海舟散人」「すいごうさかり」をはじめ、みりんや焼酎の製造・販売をしています。十五代目の現当主 馬場善広さんは、自社杜氏・自社蔵人による醸造にこだわり、自らが納得できる酒造りを日々追求しているそう。

  • 試飲で馬場本店酒造が醸すお酒を堪能。左端が「大吟醸 海舟散人」

筆者のおすすめは、精米歩合35%という米を磨きに磨いて醸した日本酒「海舟散人」。フルーティーな香りですが、切れ味もあるすっきりとした味わいが特徴です。本商品は、一升瓶・四合瓶だけでなく、500mlという少量サイズがあるのも嬉しいポイント。お土産としてはもちろん、四合瓶だとちょっと多すぎると言う人にぴったりです。

  • 最上白味醂

ちなみに、同社はみりんも有名で、「最上白味醂」は約160年におよぶベストセラーだそう。昔ながらの旧式の手作り製法で造るみりんは、もち米を使用しており、穏やかな香りと自然な甘み・濃厚な旨味を感じられます。一家に1本あれば重宝する一品と言えるでしょう。

■Information
「馬場本店酒造」
【住所】千葉県香取市佐原イ614番地1
【営業時間】9:00~17:00
【定休日】不定休

伊能忠敬旧宅

  • 伊能忠敬旧宅

続いては、日本で初めて実測による全国地図を作った伊能忠敬が、17歳から50歳まで過ごした「伊能忠敬旧宅」へ。こちらは、国の史跡にも指定されている場所。醸造業などを営んでいた伊能家の土蔵造りの店舗のほか、炊事場・書院・土蔵がそのまま残されています。

  • 伊能忠敬旧宅

■Information
「伊能忠敬旧宅」
【住所】千葉県香取市佐原イ1900-1
【営業時間】9:00〜16:30
【定休日】年末年始(12月29日から1月1日まで)
【料金】無料

樋橋(ジャージャー橋)

  • 樋橋(ジャージャー橋)から水が流れる様子

佐原の観光スポットの一つ「樋橋(ジャージャー橋)」は、伊能忠敬旧宅前に架かる橋で、江戸時代に農業用水を水田に送るために作られたものです。橋から小野川に落ちる水音が「ジャージャー」と聞こえることから、「ジャージャー橋」と呼ばれるように。実は現在も落水があり、情緒ある音を再現した樋橋は、「残したい日本の音風景100選」にも選ばれています。

■Information
「樋橋(ジャージャー橋)」
【住所】千葉県香取市佐原
【営業時間】通年
【定休日】なし
【料金】無料

Brewery and Cheese伊能忠次郎商店

  • Brewery and Cheese伊能忠次郎商店

ジャージャー橋から2~3分歩いた先にあるのが、クラフトビール&ピザレストランの「Brewery and Cheese伊能忠次郎商店」。ぬくもりあふれる店内やテラス席からは、小江戸の景色を望め、町歩きに疲れた後はビールや軽食でホッと一息つくことができます。また、併設しているビール醸造所、チーズ工房では、地元香取市産にこだわったビール・チーズを作っているのでお土産に購入するのも◎です。

  • クラフトビール

■Information
「Brewery and Cheese伊能忠次郎商店」
【住所】千葉県香取市佐原イ1894-3
【営業時間】11:00〜20:00
【定休日】水曜日


意外に知られていない関東の酒どころ「千葉」! 利根川流域には、今回紹介できなかった酒造がほかにも。蔵ごとに異なる日本酒と、小粋な町並みを楽しみに、あなたもぜひお手軽トリップへ出掛けてみてはいかがでしょうか。