鉄道博物館の本館1階にて、電気機関車EF58形61号機の常設展示が開始された。2018年7月の南館オープン以来、展示車両の追加は4年ぶり。展示車両の数は屋内外で合計42両になるという。10月30日の一般営業開始に先立ち、報道公開の時間が設けられた。

  • お召列車牽引機として活躍したEF58形61号機が鉄道博物館で常設展示。日章旗も掲出された

EF58形61号機は日立製作所水戸工場で製造され、1953(昭和28)年7月9日に国鉄へ納入された。主要寸法は全長19,900mm、最大幅2,800mm、パンタグラフ折りたたみ高さ3,960mm。電気方式は直流1,500V。1時間定格出力は1.900kW。運転最高速度は110km/h。EF58形60号機とともに、最初からお召列車専用機として指定した上でメーカーに発注、製造されたという。通常のEF58形において、ステンレスの飾り帯は前面から乗務員扉脇までだが、60号機と61号機の飾り帯は側面全体に取り付けられた。

その他、自動連結器、先輪・動輪のタイヤ側面、バネ釣り、ブレーキ引棒など磨き出し、運転室前面に国旗掲揚装置も備えた。1966(昭和41)年、車体を通常のぶどう色2号から御料車の暗紅色に近づけた塗装(ため色)に変更している。このように、外観・装備ともにお召列車専用機として特殊な装備を備えたことで、EF58形の中でも特別な存在となり、いつしか「ロイヤルエンジン」と呼ばれるようになった。

  • EF58形61号機。片側の前面に国旗を掲出し、前照灯を点灯させた

鉄道博物館に展示されたEF58形61号機は、前照灯・後部灯ともに点灯させた上で、車体に向かって右側の前面は国旗を掲出した状態、反対側の前面は装飾のない状態の2パターンで展示された。国旗を掲出していない前面の近くに、検査標記や区名札も取り付けられている。在籍していた田端運転所(現・尾久車両センター)を表す「田」、お召列車専用機であることを表す「御召」の札を見ることができた。

床下に目を向けると、先輪・動輪などの目立つ部分が磨き出されている様子がわかる。傷や異常を発見しやすくするため、そして装飾のため、足回りはつねに磨き出しが施されていたという。鉄道博物館に展示されたEF58形61号機も、台車等が磨かれて銀色に輝いており、存在感をいかんなく発揮していた。

  • 国旗を掲出していないほうの前面

  • 正面から見た様子。後部灯を点灯させている

  • 標記類や「田」「御召」と書かれた区名札も

  • 傷・異常の発見と装飾のため、車輪や連結器など足回りを銀色に磨き出している

EF58形61号機は、1953年7月の製造後、国鉄に納入され、間もなく東京機関区に新製配置された。同年10月19日、初めてお召列車(昭和天皇・皇后が松山国体の開会式に臨席する際のお召列車)を牽引して以降、同機は1号編成を使用したお召列車の牽引を続け、北は信越本線の新潟駅や東北本線の黒磯駅、西は山陽本線の岩国駅まで乗り入れた。

同機は新製当初、東京機関区に配置されたが、1985(昭和60)年に新鶴見機関区、1986(昭和61)年に田端運転所へ転属している。一方、EF58形60号機は新製当初、浜松機関区に配置されたが、1983(昭和58)年に廃車となった。

  • EF58形61号機の側面

昭和末期から平成初期にかけて、お召列車の運転機会が減少したことから、EF58形61号機は臨時列車やイベント列車の牽引を行うこともあった。そうした中、現在の上皇・上皇后陛下と国賓の乗車するお召列車が、1996(平成8)年に小山~足利間、1999(平成11)年に甲府~原宿間で運転され、EF58形61号機がその先頭に立っている。2001(平成13)年3月28日、東京~北鎌倉間での運転(現在の上皇・上皇后陛下がノルウェー国王夫妻を案内する際に運転されたお召列車)をもって、お召列車牽引の役目を終えた。

1953年から2001年までの間、EF58形61号機がお召列車を牽引した回数は90回以上。C51形239号機がお召列車を牽引した104回に次いで多く、電気機関車としては最多となる。

10月30日の報道公開では、EF58形61号機のお披露目を前に除幕式が行われた。主催者を代表して、鉄道博物館館長の大場喜幸氏が挨拶。EF58形自体は1946(昭和21)年から172両製造されたが、退役し、その多くが残っていないという。そんな中、EF58形61号機はお召列車専用機として、多くの人々の注目を集めていると話す。「ぜひ多くの皆様にご来館いただき、この機関車を、鉄道博物館の多くの展示をご覧いただき、楽しんでいただくことを祈念しております」と大場館長は述べた。

挨拶・祝辞に続き、EF58形61号機に被せられていた白い幕が除幕される。司会の「どうぞ!」の合図とともに、大場館長ら出席者5名がロープを引くと、日章旗を掲げたEF58形61号機が姿を現した。その後、汽笛吹鳴も行われ、現役時代を思わせる音量で汽笛の音が響き渡った。

  • 鉄道博物館の大場館長らがロープを引き、EF58形61号機に被せられていた白い幕が降ろされる。除幕後に汽笛吹鳴も

除幕式の終了後、鉄道博物館の大場館長と、主幹学芸員を務める奥原哲志氏が報道関係者らの取材に応じた。大場館長は、EF58形61号機の常設展示にあたっての感想を「お召列車専用につくられた電気機関車なので、きわめて貴重だと思います。この大宮の鉄道博物館に、新たに常設で展示できるようになったことを心から喜んでいます」と語った。

奥原氏がEF58形61号機について解説する場面もあった。同機は2008年以降、扱いとしては休車となっているが、廃車にはなっていないという。足回りの磨き出しを行った部分に関して、錆が発生しないように表面をコーティングしているとのこと。車体の塗装の劣化を防ぐため、展示スペースのガラスに遮光フィルムも貼っている。

EF58形61号機に掲出した装飾品は、田端運転所で実際に使用されたものを取り付けている。国旗は高速走行に耐えうる特注品となっており、風圧に耐えられるように3カ所で留め、雨でにじまないように白い布と日の丸の布を別々にしている。国旗等の装飾について、一定期間中は掲出を続け、それが終わった段階で外すとのことだった。

この日は10時の開場と同時に、多くのファンらが展示されたEF58形61号機の前に集まった。遠目で見た限り、同機の現役時代を知っていると思われる世代が大半だったが、家族連れや若い世代の鉄道ファンも見に来ていた様子だった。