阪急電鉄は19日、今年度のグッドデザイン・ロングライフデザイン賞を受賞した「阪急電車のデザイン」を守る舞台裏として、正雀工場の報道公開を実施した。マルーン色の塗装やゴールデンオリーブ色の座席シートの張替え、保存車両の公開など、盛りだくさんの内容だった。

  • 「阪急電車のデザイン」を守る舞台裏を報道公開。撮影会も行われ、1300系(写真左)と3300系(同右)が並んだ

日本デザイン振興会の主催するグッドデザイン賞の各賞が10月7日に発表され、「阪急電車のデザイン」は他薦により、2022年度グッドデザイン・ロングライフデザイン賞を受賞した。同賞は暮らしの中で人々に愛され、これからも変わらずに存在し続けてほしいと評価されるデザインを顕彰することを目的としている。今回の受賞は、マルーン色の塗装やゴールデンオリーブ色の座席といった「阪急電車のデザイン」が、多くの人々に愛され続けてきた証といえる。

報道公開は正雀駅(京都本線)に隣接する正雀工場で実施。同工場は全般検査と重要部検査を担当している。まずは阪急電鉄の車両の伝統となっているマルーン色の塗装作業から公開。阪急電鉄では、古くなった塗装をはがす際、車体の傷んでいる箇所にパテを塗って修理している。おもにドアや窓周りが傷みやすく、白色のパテが目立っていた。

  • 全般検査、重要部検査を担当する正雀工場の様子

  • 塗装前にパテで車体を修復する

  • 塗装を終え、きれいな状態の7000系

  • 塗装機が手前に移動し、塗装を行う

  • 35トンクレーンで塗装済みの車両を軽々と吊り上げる

全般検査は計7日を要するが、マルーン色とアイボリー色を施した車両の場合、塗装機を使った塗装作業に計2日を要するという。塗装は1両ごとに行われ、1日目は上部のアイボリー色、2日目はマルーン色の塗装を行う。マルーン色のみの3300系や5300系といった車両の場合、塗装作業は1日で済む。2色の車両は塗り分けなければならず、養生作業が必要になる。こちらは手作業となるため、1両につき数時間を要するとのこと。洗車は5日に1回の頻度で行い、車体の美しさを維持している。

阪急電鉄の車両といえば、ゴールデンオリーブ色を採用した独特のカラーリングの座席を思い浮かべる人も多いだろう。現在も座席の生地は基本的にアンゴラ山羊の毛を使用している。座席シートの張替えは正雀工場内にある関連会社のアルナ車両が担当。工場内では生地の裁断・縫製から張替えまで、手作業で行っている。

  • 台車と組み合わせて出場を待つ

  • イベント時に登場するこども向け車両は社員の手作り

  • ゴールデンオリーブ色の座席生地も時代により変化している

  • 裁断前のゴールデンオリーブ色の生地

  • 縫製もミシンを使った手作業で行われる

  • 生地を座席に固定する作業を器用に行う

座席シートの張替えでは、しわが出ないように、座席より少しサイズの小さい生地を使用する。生地を伸ばしながら、留め具を使って座席に固定する作業はまさしく職人芸。作業自体は1人で行う。ゴールデンオリーブ色の生地は、同じように見えても時代によって材質が異なり、より良い座り心地への追求が続いている。座席にあるバネは、ウレタン成形座席の9300系以外の車両で採用しており、ふんわりとした座り心地を楽しめる。

正雀工場では、かつて阪急線内で活躍した車両が計5両保存されている。今回の報道公開では、動態保存車両100形の車内が公開された。100形は昭和初期の1927~1929年に製造され、おもに京都本線で活躍。内外装は現在の車両と大きく異なるが、「ビスをなるべく隠す」という設計思想は現在にも引き継がれている。なお、100形は動態保存車両ではあるものの、修理の必要な箇所があるため、現在はすぐに動かせる状態ではないとのこと。

  • 保存車両の600形(写真左)と100形(同右)

  • 100形の車内も公開された

現役最古参の3300系と、京都本線の最新車両1300系の撮影会も行われた。3300系は1967(昭和42)年、1300系は2014(平成26)年にデビューしたため、47年の開きがある。しかし基本的なデザインは変わっておらず、「阪急電車のデザイン」が脈々と受け継がれていることに気づかされた。

阪急電鉄は10月23日、正雀工場にて3年ぶりとなる「秋の阪急レールウェイフェスティバル 2022 in 正雀工場」を開催する。応募受付は終了したが、当日開催のオークションはオンライン参加も可能。貴重なアイテムへの入札もできるとのことだった。