• 『ぶらり途中下車の旅』総合演出の佐藤一氏

30年という歴史の中で最大のピンチは、やはりコロナ禍だ。街ブラという特性上、最初の緊急事態宣言中はロケを行うことができず、2020年4月25日から6月13日まで「旅人が選んだ傑作選」と称し、現状のお店の情報を入れながら乗り切った。

「視聴者と同じように旅をする」をポリシーに、お金を払うシーンや、カバンを持って歩くという格好にこだわるだけに、出演者がマスク姿でロケをするスタイルも、コロナの流行が始まってすぐの頃にいち早く導入。主要ターミナル駅や人気の商店街など、なるべく人混みを避け、電車の中のシーンもやめた。

このため、入れるお店のハードルは一段と上がったが、自粛生活で困っていた店側は「わりと皆さん、快く受け入れてくれました」と歓迎。番組としても、これまでお世話になった恩を返したいという思いがあり、テイクアウトの情報も積極的にアピールしていった。

■「真似されるのはいいけど、真似するのはやめよう」

長きにわたって番組が愛されてきた理由を聞くと、「やっぱりブレずに王道をいったからだと思います。“時流には乗るけど、流行には乗らない”というのを心に持っていて、“大人の一人旅”を変えない、コメントのテロップも入れないといった形で、他の旅番組さんとの差別化にもなっていると思います」と分析。一方で、前述の新たな旅人の起用や、インスタグラムの導入など、視聴者層の拡大に努めている。

また、旅番組が増えてきた中で強く意識するのは、「真似されるのはいいけど、真似するのはやめよう」ということ。お店に入って、<◯◯で取り上げられました!>といったPRが目につけば放送を避けるというが、「うちで紹介したお店が他の番組でもやってくれれば、またお店が儲かるんですから、僕らはむしろうれしいくらいです」との考えを持っており、その精神を“取材先ファースト”と呼んでいる。

「テレビ番組ですから、スポンサーファースト、視聴者ファーストではあるんですけど、出ていていただいた方々に『紹介してもらって本当に良かったね』『記念になったね』と思っていただけることが大事なんです。放送が終わったあとも番組を見続けてもらえると思うし、親戚や知り合いも『以前、この番組に出たんだよねえ』と覚えてくれて、そういうのが1回の放送で8軒あって長年やっていたら、大変な数になりますから」

取材先によっては、スタッフと密な関係になることもあるそうで、「エンドロールを見て、『あの時ADだった子がディレクターになったんだ』と知って、わざわざ『良かったね!』と電話してくれる方もいらっしゃるんです。そういう方々に支えてもらっていると思うので、この関係は大事にしていきたいですね」と強調。近年人気の『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』(中京テレビ)で描かれるような交流が、実は長年にわたって画面に映らないところで行われていたのだ。

■新しい人にもどんどんお願いしたい

30年という区切りを経て、今後の展望を聞くと、“時流には乗るけど、流行には乗らない”、“取材先ファースト”というポリシーを守りつつ、「なぎらさんに怒られながら(笑)、旅人はいろんな人にやってもらいたいですね。1人で歩いているとわりと素顔が出て、それを楽しんでいただけているようなので、決まった人ばかりでなく新しい人にもどんどんお願いしたいと思っています」と構想。

10月15日16時からは、前日の鉄道開業150周年を記念して、『鉄道開業150年! ぶらり途中下車の旅特別編 東北新幹線の旅』を放送。「A.B.C-Zの塚田僚一くんと、プロスケーターの村上佳菜子さんがバトンタッチ形式で旅します。普段の『ぶらり途中下車の旅』とは一味違う、東北の魅力たっぷりの旅になるはずですので、僕らも今から楽しみにしています。ぜひご覧いただければと思います」と呼びかけた。

  • 東北新幹線 (C)NTV

  • 村上佳菜子

●佐藤一
1957年、東京都生まれ。フリーディレクターを経て、99年日本テレビ放送網入社、エグゼクティブディレクターに就任。朝の情報番組『ズームイン!!朝!』では総監督として47都道府県全てを訪問し、視聴率トップに躍進させる。97・02年には『24時間テレビ』総合演出。『ズームイン!!サタデー』『スッキリ』を立ち上げるとともに、『全国高等学校クイズ選手権』などの総合演出を歴任し、現在は再びフリーディレクターとして活動。10年から『ぶらり途中下車の旅』の総合演出として、関東の鉄道を利用して旅人のタレントを気ままに旅させる独自の演出を確立。同時間帯での民放視聴率連続トップの記録を現在も更新中。