日本テレビの旅番組『ぶらり途中下車の旅』(毎週土曜9:25~)が、この10月で放送開始30周年を迎えた。土曜の朝にお出かけ気分にさせてくれる上、気軽に足を運べる路線チョイスも絶妙で、長年にわたって人気を博してきた。

30年前に比べ、旅番組があふれるテレビ界だが、街ブラのパイオニアとしてどのような意識で制作に臨んでいるのか。総合演出の佐藤一氏に話を聞いた――。

  • 15日放送『ぶらり途中下車の旅 特別編』に出演する村上佳菜子 (C)NTV

    15日放送『ぶらり途中下車の旅 特別編』に出演する村上佳菜子 (C)NTV

■面白い店が見つかりにくい路線は…

旅の路線を決めるにあたって大きな要素となるのは、オープニングの画。「例えば『山手線をやりたい』というよりは、『今、新宿御苑の花がきれいだから紹介したいね』ということから考えます。季節感を考えて、土曜の朝に見てもらって『ちょっと行ってみようか』と思っていただけるような場所を選んでから、『新宿をスタートするなら何線にしようか?』となって、うちのディレクターはベテランぞろいで情報の蓄積がありますから、『前にあそこを歩いてたらちょっと面白い店があったから、山手線をやろうか』という感じです。もちろん、その回の前後で路線や地域がバラけるようにしています」という具合で選定する。

最多乗車路線は、172路線を放送してきた中で73回を占めるJR山手線。東京の大ターミナルを網羅しており、立ち寄る場所が尽きないのもうなずける。

一方、面白い店が見つかりにくいというのは、意外にも京王井の頭線。渋谷、下北沢、吉祥寺とネタが豊富なイメージがあるが、「ほかは住宅街の駅が多くて、路線の距離も短いので、結局いつも同じ駅になっちゃうんです」という。つまり、路線の距離が長くなると見つかりやすいということで、「今は、南栗橋(東武日光線)から中央林間(東急田園都市線)まで、川越(東武東上線)から元町・中華街(みなとみらい線)までつながっているので、昔よりはやりやすくなってますね」と、拡大する直通運転の恩恵もあるそうだ。

新しい路線が開業すると「すぐ食いつきますね!」というが、「日暮里・舎人ライナーではえらい目に遭いました(笑)」と苦い経験も。

普通の番組では、運行中の電車内の撮影はNGだが、『ぶらり途中下車の旅』が許されているのは、「やはり30年間、先輩スタッフたちから鉄道会社をすごく大切にしてきて、信頼関係を築いてきたからだと思います」と胸を張った。

  • JR山手線

  • 京王井の頭線

  • 日暮里・舎人ライナー

■最重視するのは店の人の“人柄”

路線が決まると、ロケまで1カ月から1カ月半ほどかけて、旅人が訪ねそうな場所を歩く。「ネットも一応見ますが、『ネットの情報は当てにするな』と言っていて、実際に歩き回って面白そうなところをチェックしておきます」と、足で稼ぐ王道のスタイルを貫く。

歩いていて最初に着目するのは、旅人が気になりそうな外観や看板のインパクト。面白そうな店が見つかると、番組名を名乗らず一般客として入ってみるが、その際に最も気にするのは、店の人の“人柄”だという。

「“料理がおいしい”って、何なら3分で終わっちゃうんです。そこから話が広がるのは、どうしてそのお店をやってらっしゃるのかとか、そういう話なんですよ。だから、珍しい料理や商品があったときに、『これはどうやって考えたんですか?』とか旅人が聞きそうなことを聞いていく。その受け答えで人柄が分かるので、ぶっきらぼうな方でも『これは行けるかもしれない』となることがあるし、むしろバンバンアピールされるとこっちが引いちゃうこともあります」

現在は、約60分の放送で6~8軒を取り上げているが、以前は14軒程度も立ち寄っており、30分枠時代には、8~10軒取り上げていたという。当初は週末のお出かけ情報という要素が強かったが、歴史を重ねるに連れて、1軒1軒の物語に時間を費やすようになったのだ。

さらに、旅人が何もないところを歩く情景を増やしたそうで、「いろいろ旅番組が増えてきた中で、こういうシーンを増やせば旅の自然な雰囲気を共有していただけるのではないかと」と差別化。歩く姿を、旅人の顔を映さず後ろから追うのも、大きな特徴となっている。