第81期順位戦(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)はC級2組の5回戦全28局のうち約半数の16局が、10月13日(木)に東京・大阪・名古屋の各対局場で行われました。4回戦終了時点で全勝の首位につける服部慎一郎五段は東京・将棋会館で岡部怜央四段と対決。先手の服部五段が2度の千日手を含む熱戦を制する結果となりました。勝った服部五段は5勝0敗でリーグ首位をキープ、敗れた岡部四段は2勝3敗となりました。本稿ではこの対局の模様を詳しく取り上げます。

■同世代対決

服部五段は富山県出身の23歳。デビュー3年目で、今年度ここまで29勝9敗の好成績を残しています。対局数・勝数でもそれぞれ2位を大きく引き離しての1位で、さらに今年度は15連勝を記録したことでも有名になりました。

対する岡部四段は山形県出身の23歳。今年4月にデビューした若手です。最近では里見香奈女流五冠の棋士編入試験第2局で試験官を務めたことでも知られます(結果は岡部勝ち)。

■1局目は相掛かり

居飛車党同士の本局は、まず相掛かりの戦型で幕を開けました。たがいに角を交換したのち持久戦に展開しますが、先手の服部五段が雁木囲いへの組み換えを見せたところで後手の岡部四段が機敏な端攻めで揺さぶりをかけます。この端攻めを受けるために服部五段は自陣に角を手放しますが、後手だけが一方的に角を手持ちにしていること、また先手陣が居玉の不安定な形であることから中盤は岡部四段にとって不満のない展開となりました。

一進一退の攻防が続き、戦いは終盤戦に突入します。やがて岡部四段は持ち駒の飛を敵陣に打ち込んで王手角取りをかけます。先手が玉をかわしたところで、タダで取れる角を取らずに△7三角とあえて角交換に持ち込んだのがプロらしい妙手でした。これを見た服部五段は35分の長考の末、角交換は相手の思うつぼと見てこれを避けます。このあと、たがいに戦況の打開は難しいと見て17時35分に74手で千日手が成立。両者2時間半ほどの持ち時間を指し直し局に持ち越すことになりました。

■2局目は横歩取り

先後を入れ替えて始まった指し直し局は、先手の岡部四段の横歩取りに対して後手の服部五段が△4二玉と上がって最新の青野流の定跡をかわす指し方を見せます。先手番では青野流の積極的な攻めを選ぶことの多い服部五段ですが、後手番の本局では比較的穏やかな流れになる定跡を採用しました。服部五段の飛が中央に大きく転回して戦いが始まりそうな空気が流れますが、両者思わしい攻め手はないと見て52手にて千日手が成立。20時41分での千日手成立は対局再開からわずか2時間後のことでした。

■3局目は矢倉対雁木

30分の休憩をはさみ、2度目の指し直し局は21時11分に対局開始となりました。持ち時間は先手の服部五段が1時間46分、後手の岡部四段が1時間20分です。戦型は先手の矢倉に対して後手の雁木の構図になりました。そして1局目同様、本局でも岡部四段が桂跳ねから軽快な仕掛けを見せます。

形勢は互角のままねじり合いが続きますが、服部五段の玉が角のラインに入る形になり、岡部四段がペースをつかみました。玉の位置のまずさから王手飛車取りの筋に悩まされた服部五段ですが、相手の飛車を近づける手筋や玉の早逃げなど、テクニックを駆使して玉のコビンのラインを巧みにケアし、容易に崩れません。服部五段の今期の充実ぶりがうかがえる手順でした。

逆に、岡部四段が見せた一瞬のスキを突いて質駒となっていた飛を取り切ることに成功。服部五段は、雁木囲いの弱点を突いて取った飛車を王手で敵陣に打ち込みます。ここで形勢が入れ替わりました。優位に立ってからの服部五段の指し手は軽快で、岡部四段に粘る手段を与えず77手で勝利を収めました。終局時刻は23時50分でした。長丁場となった本局は、相居飛車における3つの戦型において両対局者が深い定跡研究を用意していることをうかがわせる好局と言えるでしょう。

勝った服部五段は5勝0敗の好成績で昇級戦線をリード。この日の対局では服部五段のほか、斎藤明日斗五段と古賀悠聖四段が勝利をおさめて全勝をキープしています(4勝0敗の今泉五段は10/20に対局予定)。6回戦では11月に▲服部五段―△豊川孝弘七段、▲岡部四段―△矢倉規広七段の対局が予定されています。

水留啓(将棋情報局)

5連勝として先頭集団を走る服部五段
5連勝として先頭集団を走る服部五段