――テキヤって、傍からみると祝祭的な華やかな面もあれば、ちょっと怖いイメージもある不思議な存在だと思うのですが、実際にテキヤの世界に飛び込んでみて感じたことは?
やっぱりその筋の人たちはみんな厳しいんですよ。でもうちらみたいなバイトには優しいんです。上まで辿っていけば、ヤクザの組長だったりもするんですけど、現場で一緒に働いてる人たちは、彼らの下の下の人たちだから、「オレたちは人からものを盗むんじゃなくて、ちゃんと働いてモノを売ってるだけだから大丈夫だよ」って。今回の写真集が出来上がって、バイト先の社長に「できました!」って5冊くらい持っていったら、すごく喜んでくれて。
――仕事以外の時間も一緒に過ごすことはあるんですか?
写真にも写っているけど、仕事が終わると「お疲れ~」ってみんなで一緒に飲みに行ったり、麻雀をやったりすることもありますよ。
――襲名披露の写真もありましたが、どうやって撮れたんですか?
普通に「撮りたいです」ってお願いしたら、「じゃあちょっと上の人に聞いてみるよ」って。
――たとえ興味はあっても、いざ撮りに行くとなると、怖くはなかったですか?
いや、撮らせてもらえて嬉しかったですよ。でも不思議と上の上の人を辿っていったら、歌舞伎町を撮っていたときにお世話になった人と、同じ組の人だったんです。それからはもっと撮りやすくなりましたね。
――テキヤを巡る時代の変化を、肌でどう感じていますか?
うちのバイト先の人はもともとお金があったんで、辞めていった人たちの場所や道具を抑えて吸収して、どんどん勢力拡大しているみたい。でも地域によって住み分けがあって、うちは関東エリアが中心で、60年前からずっと千葉や茨城、東京近郊の同じ場所を回ってる。
――何人ぐらいいるんですか?
それはオレも知らない。「今日の現場はここですよ」って言われて、そこに行くだけだから。
――テキヤの世界に入って一番驚いたことはありますか?
うちの店はそんなことないけど、ネタの鮮度があまりよくないところも中にはあるんです。そういうのを目にするとやっぱりショックを受けますね。テキヤの世界がどんなところが気になって、70歳80歳くらいのおじいさんたちによく質問するんですけと、そうすると、嘘かホントかよくわからないような逸話を、いろいろ教えてくれるんです。「金魚すくい」の店のおじいちゃんが言ってたんですが、2、3日して元気がなくなった金魚の水槽に薬を一滴たらすと、一斉に息を吹き返すらしいんですよ。多分、変な薬が入ってる(笑)。
――現時点での集大成となる写真集『TEKIYA 的屋』も完成しましたが、今後の予定は?
テキヤに関しては、一旦これで一区切りついたかなぁと思っていたんですが、きっとなんだかんだ言ってもテキヤでバイトしながら、これからもずっと撮り続けると思います(笑)。
◆梁丞佑 写真展「TEKIYA 的屋」
会期:2022年9月16日(金) ~ 10月15日(土)
会場:禅フォトギャラリー(東京都港区六本木6-6-9ピラミデビル208号室)
営業時間:正午~午後7時(日・月・祝祭日は休廊)
梁丞佑(ヤン・スンウー)
1966年生まれ、韓国出身。1996年に来日し、日本写真芸術専門学校と、東京工芸大学芸術学部写真学科を卒業。その後、同大学院芸術学研究科を修了し、日本を中心に活動する。2016年に禅フォトギャラリーより刊行した写真集『新宿迷子』にて、新宿・歌舞伎町の街を居場所とする人々をモノクロームスナップショットで記録し、土門拳賞を受賞。2017年には同じく禅フォトギャラリーより写真集『人』を刊行した。同年パリのinbetween galleryにて個展を開催するなど、近年は国際的にも活躍の場を広げている。その他の写真集に『君はあっちがわ 僕はこっちがわ』(2006年、新風舎)、『君はあっちがわ 僕はこっちがわ II』(2011年、禅フォトギャラリー)、『青春吉日』(2012年、禅フォトギャラリー)、『青春吉日』新装版 (2019年、禅フォトギャラリー)、『The Last Cabaret』(2020年、禅フォトギャラリー)、『ヤン太郎 バカ太郎』(2021年、禅フォトギャラリー)などがある。