日本全体で30年間賃金が上がっていない一方、最近は身の回りのモノの値段や光熱費などの上昇が目立っている。年金制度の先行きも不透明な中、将来に不安を抱いている人も多いのではないだろうか。

そんな中、改めて注目されているのが「投資」だ。NISA、iDeCoの拡充など、政府も個人に投資を奨励する方針を強めているが、「投資なんてお金に余裕のある人がするもの」「自分には関係ない」と考えている人もいるのではないだろうか。

ところが、投資家の遠藤 洋(えんどう ひろし)氏は、「投資に年収は関係ない」と断言する。それはなぜか、20代でFIRE(Financial Independence, Retire Earl:経済的自立と早期リタイア)を達成した遠藤氏に、お金と時間の自由を手に入れる極意を聞いた。

■「お金と時間を同時に得る」ための手段が「投資」

――投資を始めたきっかけと、FIRE達成までの経緯をお聞かせください。

投資を始めたのは大学生の夏休みでした。時間があったので何か新しいことを始めようと考えたときに、ふと投資が思い浮かびました。ただ、最初からうまくいったわけではなく、はじめに投資した30万円は2 週間でなくなりました。それで「勉強しないとマズいな」と感じ、投資の勉強をするようになったんです。

大学卒業後も投資を続けていたところ、社会人1~2年目ごろに成績が急に良くなりました。相場的なものもあるとは思いますが、「どのように会社の売上が上がるのか」「どんなときに株価が上がるのか」といったことをビジネスの現場で見られたのが大きかったと感じています。

今も仕事をしているのでリタイアしたわけではありませんが、20代後半で時間的にも金銭的にも自由になり、ほとんど仕事をせずに1カ月半南米やヨーロッパを周遊していました。その頃には「FIREを達成していた」と言っていいと思います。

20代で時間とお金の自由を手に入れることができたのは、投資を続けていて資産ができたのと、26歳で会社を辞めて自分で会社を立ち上げたからです。

――「投資で稼いで時間とお金の自由を手に入れる」なんて、多くの人にとっては夢物語のように聞こえます。ご自身が実現できたのはなぜだと思いますか?

私の場合は、元からそこを目指していたというのが大きいですね。会社員も楽しかったのですが、あるとき「好きなときにふらっと散歩に行けるような人生を送りたい」と思ったんです。

そして、「そんな人生は会社員の延長線上にはない」と気づきました。「お金と時間を同時に得るためにはどうしたらいいんだろう?」と考えたときの答えが「投資」だったのです。

お金と時間を同時に手に入れている人は投資家が多かったので、大学時代に始めた投資を続けながら、不動産投資家から話を聞くなどしていました。26歳のときに立ち上げたビジネスも、基本的に自分が手を動かさなくても継続的に収益が得られるサブスクモデルに絞って事業を行っていました。

20代後半でお金と時間を入れることができたのは、最初からそれを目指してストイックに取り組んできたのが一番の要因だと考えています。

■「投資力」は勉強と実践を並行して身に付ける

――投資で資産を築くには、色々な勉強をして「投資力」を身に付ける必要があったと思います。どうやって「投資力」を身に付けたのですか?

ほぼ独学だったので、市場にたくさん「勉強料」を払いましたね。知識や経験もなかった頃は、今思えば怪しげな案件に手を出してお金を失ったこともたくさんありました。

私の場合は、本を読んで実践することを繰り返しました。本だけ読んでいても本当の投資力は身に付きません。本に書いてあることは学術的に、あるいは経済学的には正しくても、相場は本に書いてあることと微妙に違う動きをすることもあります。

例えば、投資の本では分散投資をすすめていることが多いですが、実際に分散投資をしてみると「一方が上がっても、もう一方が下がる」という状態になってしまって、トータルで見ると投資成績がなかなか上がらなかったんです。

しかも、分散投資を続けていると、途中から「この会社、何やってる会社だっけ?」と、自分が投資している会社のことがわからなくなってしまうことがありました。「これはマズイ」と思って分散投資から集中投資に切り替えたら、するすると投資スキルが上がっていったんです。

基本的な金融リテラシーを身に付けた上で、まずは少額でもいいので実践と机の上での勉強を並行してやることが大切だと思います。

■年収200万円でも投資はするべき

――一般的に、「投資はお金に余裕がある人がするもの」というイメージがあります。年収 200万円でも投資はするべきでしょうか?

結論から言うと、年収に関係なく投資はするべきです。世界人口の半分が1日2ドル以下で生活しているといわれる中、年収200万円は世界的に見れば恵まれているほうです。

仮に月1万円で生活している人がいたとしても、やはり投資はするべきだと考えます。

――年収 200万円でも投資をするべき理由は?

「投資はお金持ちするもの」というイメージがあると思うのですが、順番が逆なんです。「お金があるから投資をする」のではなく「投資をしていたからお金持ちになった」というのが、相場や周りの人々を見てきて出した私の結論です。

「投資をしたから結果的にお金持ちになった」という順番なので、現在の年収はまったく関係ありません。年収1,000万円でも全額を消費と浪費に使っていたら、働かないと生活できなくなるので、いつまで経ってもラットレースから抜け出せません。

「年収200万円で投資なんかしても……」と考えてしまう気持ちはよくわかりますが、投資ができるかどうかは年収の問題ではなく、お金の使い方の優先順位の問題です。

私自身、月10万円で生活していた時期がありますし、人間は月10万円あれば十分生きていけます。年収200万円でも余計な支出を削れば、年間100万円ほど投資に回せるでしょう。そうすれば、10年で1,000万円の投資資金ができます。さらに、10年間でそれが2倍、3倍に増えれば2000万円、3000万円の資産になります。

経験的に、投資を10年続ければ保有資産の桁が1つ変わります。人によっては2つ変わることもあります。年収にかかわらず、「今の快楽や目先の楽しいことのためにお金を使うのか」、あるいは「ある程度我慢して、将来の資産のために投資するのか」、お金の使い方によって将来の資産額が大きく変わってくる時代だと思います。

■投資をすることで社会的なポジションを変えられる

――年収200万円でも投資をするメリットは?

1 番のメリットは、投資をすることによって社会的なポジションを変えられることです。これは年収が低い人に限ったことではありません。

コンビニのアルバイトも、病院の勤務医も給与が違うだけで「労働者」という立場に変わりはありません。「労働」というのは、自分の時間とお金を交換する行為なので、「労働者」という立場だけではどうしても自分の自由がなくなってしまいます。

一方、投資をすると「労働者」のポジションから「資本家」「ビジネスオーナー」というポジション、言葉を選ばずに言えば、資本主義社会において「ラクしてお金が入るポジション」を取ることができるのです。

企業の株を買うということは、その企業が得る利益を分けてもらう権利をもらうことであり、ある意味その企業のオーナーになるということです。エルメスのバッグを買おうと一生懸命になるうちは「労働者」のポジションしか取れていませんが、エルメスの株を買えば、エルメスの利益の一部をもらえるんです。

お金と時間の自由を手に入れるには、こうした発想の転換が大切です。

――最初はいくらくらいを投資に充てればいいのでしょうか?

30万円ほどあれば理想ですが、最初は10万円からスタートしてもいいと思います。「100万円単位、1,000万円単位のまとまった資金がないと投資をしても意味がない」と考える人も多いですが、まずは投資でお金を増やすスキルを身に付けることが大切です。

正直なところ、投資で10万円を20万円にするよりもアルバイトで10万円稼ぐほうが簡単です。でも、投資で10万円を20万円にすることができれば、100万円を200万円にすることも、1,000万円を2000万円にすることもできるようになります。

投資スキルを身に付けるために、まずは少額から始めて、徐々に投資資金を増やしていくといいと思います。

■年収200万円でも「投資ありき」で生活する

――もし、遠藤さんが年収 200万円だったら、どんなお金の使い方をされますか?

最低限の生活費を除いて、残りは全部投資に回しますね。私なら次の3つのことをします。

(1)実家に戻る、狭いアパートに引っ越すなどして、家賃などの固定費を限界まで抑える

(2)ビジネスを立ち上げる、副業をするなどして、空いた時間はすべて仕事に充てて年収を増やし、投資資金の元手を作る

(3)投資をする

覚えておいてほしいのは、投資は「1」を「50」にすることはできても、「0」を「1」にすることはできないということです。「0→1」ができるのは仕事やビジネスなので、初期フェーズでは自分の時間を使ってお金を得るということが絶対に必要です。

今の年収が200万なら、最低でも倍の400万円にはしたいところですね。収入を増やす目的はあくまでも投資の元手を作るためです。本気でやれば、3年で1,000万円のお金を作ることも可能ではないでしょうか。

次回は、初心者に向いている具体的な投資の方法や投資先の選び方、投資をする際の心構えについて、さらに踏み込んでお聞きします。