2022年3月6日に放送開始した『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』も、10月2日で「ドン31話」を迎え、後半に向けてストーリーがどんどん転がってきた。強烈な個性を備えたキャラクターたちが、敵と味方の関係を超えて激しく自己主張し、ぶつかりあうことで生まれる奇想天外なドラマ。これこそが『ドンブラザーズ』という作品の大きな魅力といえる。
このコラムでは、これまでの『ドンブラザーズ』を簡単にふりかえり、歴代「スーパー戦隊」と一味違ういくつかの「面白ポイント」を挙げつつ、子どもから大人までを魅了する本作の人気の秘密を探ってみたい。
バラバラな「見た目」
まず初めにドンブラザーズの5人を確認したのは、新番組発表の際の公式メインビジュアルだった。スーパー戦隊の定番というべき「レッド」戦士がセンターを取っていること、キャラクターのモチーフが「桃太郎」であることはこの段階ですぐにわかったが、驚いたのはレッド=ドンモモタロウを囲むようにしてポーズを取っている他のメンバーの「バラバラさ」だった。昔ばなし「桃太郎」に犬、猿、雉の「お供」がいるのに合わせ、イヌブラザー、サルブラザー、キジブラザー、そしてオニシスターなる女性戦士が加わって、この5人がドンブラザーズなんだな、とはわかったのだが、やけに上半身の筋肉が発達したマッシブなサルブラザー、極端に小さいイヌブラザー、メンバー全員を見下ろすほど足が長くなっているキジブラザーと、過去のスーパー戦隊では見られなかった異質なシルエットの戦士たちがそろっているところに、とてつもない違和感を覚えたものだった。
前作の『機界戦隊ゼンカイジャー』(2021年)も歴代「スーパー戦隊」の定番的イメージを打破するべく、レッドではない戦士ゼンカイザーをセンターに置き、4人のロボット(キカイノイド)が仲間に加わって結成された戦隊だった。スーパー戦隊のヒーローは、レッド、ブラック、ブルー、イエロー、ピンクなどの「色」で個人が特定されると同時に、メンバー共通のスーツデザインやエンブレムなどでチームとしての統一感を打ち出すのが基本だったが、その共通要素をなくして「戦隊」の自由度をさらに一歩進めたのが『ゼンカイジャー』だといえる。これを受けた次の『ドンブラザーズ』では、メンバーのマスク&スーツデザインに共通要素を持たせる方向に戻った一方で、キャラクターの身長差や体型を著しく変化させることにより、違うベクトルでそれぞれの個性を強めようとしているように思えた。
シリーズ第1作『秘密戦隊ゴレンジャー』(1975年)の原作者・石ノ森章太郎氏による萬画(漫画)作品では、スマートなアカレンジャー、細身のアオレンジャー、女性のモモレンジャー、そして見上げるほどの巨漢のキレンジャー、極端に小さいミドレンジャーというように、漫画的誇張(カリカチュア)を施したヒーローとして描かれ、表情が出せない「仮面」のヒーローという実写ドラマ向き(立体=3次元)の要素を2次元の世界に置きかえる工夫がなされていた。ドンブラザーズは萬画版『ゴレンジャー』の誇張されたキャラクター表現を、さらに実写ドラマの世界に反映させ、かつてない斬新な「チームヒーロー」の姿を作り出したのだ。このようなヒーロー表現が可能になったのは、ひとえに映像技術の進歩・発展あってこそ。フルCGで描かれるイヌブラザー、キジブラザーは、実写映像とCG映像をリアルタイムで合成する最新技術が用いられている。つまりドンモモタロウ、サルブラザー、オニシスターの「スーツアクター」と同じ場所に、イヌブラザー、キジブラザーの「モーションアクター」がいて、実写とCGの壁を飛び越えてリアルタイムで「絡む」ことができるのだという。