濃いキャラ設定

奇抜すぎるビジュアルで特撮ファンを驚かせた『ドンブラザーズ』だが、放送が始まったドン1話「あばたろう」で、多くの視聴者をさらに仰天させることになる。物語の導入を担うのは、後にオニシスターとなる高校生漫画家・鬼頭はるか(演:志田こはく)。デビュー作「初恋ヒーロー」で冗談社マンガ大賞を受賞し、栄光の頂点に立ったはるかだが、ある日突然自分の漫画が盗作だと騒がれ、名声を一瞬で失ってしまった。謎の空間で桃井陣(演:和田聰宏)に会ったはるかは、自分が戦士に選ばれたこと、そして失われたものを取り戻すため「桃井タロウ」を探さねばならないことを伝えられる……。

歴代「スーパー戦隊」の第1話では、地球の平和を乱す「悪」の出現と、これに対抗するため強化スーツとメカニック~巨大ロボを駆使して戦う「戦士」の活躍を描くケースが多い。最初から正義のために戦う訓練をしているメンバーが揃っていた『秘密戦隊ゴレンジャー』や『太陽戦隊サンバルカン』(1981年)、『超力戦隊オーレンジャー』(1995年)などは、巨大な敵の襲来に対しても、ある意味「待ってました」といわんばかりに戦う心がまえができている「能動型」というべきチームだった。一方で、それまで戦いとは無縁な民間人だった者たちが、奇妙な縁によって戦士に見いだされ、特殊な装備を与えられて戦う「受動型」のチームもいくつか存在する。

『大戦隊ゴーグルファイブ』(1982年)の5人の若者たちは、コンピューターボーイズアンドガールズの操作するコンピューターによって選ばれた戦士という設定。彼らは暗黒科学帝国デスダークの存在を知り、自分たちが戦士に選ばれたと聞くとすぐ、戦士として戦おうと意思表示していた。さすがはコンピューターが選び出しただけあって、とても物分かりのいい人材が揃っていたというべきだろう。一方、『鳥人戦隊ジェットマン』(1991年)では、リーダー格のレッドホークのみが戦闘訓練を受けていた生粋の戦士であり、他のメンバーは偶然バードニックウエーブを浴びたふつうの若者たちだった。それでも、ホワイトスワンやイエローオウル、ブルースワローはレッドの頼みに応じて戦士としてやっていく姿勢を見せるのだが、酒と女と孤独を愛するアウトローであるブラックコンドルだけは、敵組織・次元戦団バイラムとの命をかけた戦いの日々の中であってもレッドと対立したり、ホワイトの人柄に強く惹かれ、自分のほうを向いてもらおうと真剣になったり「戦士である前にまず人間」という姿勢を崩すことがなかった。本当の意味でレッドとブラックが強い絆で結ばれ、ジェットマンの5人がひとつにまとまったのは第32話「翼よ!再び」と、ものすごく後のエピソードになってからだった。敵・味方双方を巻き込み、キャラクター同士が激しくぶつかりあいながら心を通わせていく『ジェットマン』の熱いドラマを描き出したのは、『ドンブラザーズ』でも健筆をふるう脚本家・井上敏樹氏。一瞬「暴投か?」と思えるようなものすごいコースを攻めた変化球のように見せながら、実は視聴者の心にズンと響くストレートの剛速球を投げ込む井上脚本の妙味は、氏が初メインライターを務めた特撮テレビドラマである『ジェットマン』からすでに多くのファンを魅了していた。

『ドンブラザーズ』のメンバーもまた、一般の人間が(自分から望んでいないにもかかわらず)戦士に選ばれ、最初こそ戸惑うもののなんとかやっていこうとするプロセスを描く「受動型」のヒーローである。はるかは女子高生、キジブラザー/雉野つよし(演:鈴木浩文)は突出したところのない平凡なサラリーマン、サルブラザー/猿原真一(演:別府由来)は俳句をたしなむ風流人、イヌブラザー/犬塚翼(演:柊太朗)は無実の罪で指名手配されている逃亡者。そこに、シロクマ宅配便で配達員をしているドンモモタロウ/桃井タロウ(演:樋口幸平)が加わり、ドンブラザーズとなる。歴代スーパー戦隊においては、地球を守る戦士であると同時に、さまざまな職に就いている者たちも大勢存在する。『激走戦隊カーレンジャー』(1996年)ではメンバー全員が自動車会社「ペガサス」に勤務していて、敵であるボーゾックが発生すると全員そろってカーレンジャーに変身し、現場に急行していた。しかし『五星戦隊ダイレンジャー』(1993年)ではリュウレンジャーが中華料理店の料理人見習い、テンマレンジャーがかけだしプロボクサー、キリンレンジャーが美容師、ホウオウレンジャーが大学生、シシレンジャーが動物を愛するペットショップ店員とそれぞれ多忙な毎日を送っており、緊急事態でもすぐに集合できないことがたびたびあった。邪悪なゴーマとの戦いの中でも若者らしい「夢」に向かってチャレンジする、彼らのひたむきな青春群像が描かれていた。戦士としてストイックに生きるだけでなく、戦いに差し支えないレベルで日常生活をも大事にしようとするドンブラザーズの姿勢は、ダイレンジャーにも通じるものがある。「ウソがつけない(ウソをつくと死ぬ)配達員」タロウ、「金を持たない主義の風流人」真一、「愛妻みほ(演:新田桃子)との生活を何よりも大事にする平凡な会社員」つよし、「人目を避けて生きる逃亡者」翼という彼らのアクの強さは、歴代スーパー戦隊の中でも群を抜いて濃厚である。