どうなるドンブラザーズ!?

『ドンブラザーズ』の序盤エピソードで衝撃的だったのは、戦士たちがお互いの素性をまったく知らず、アバターチェンジ(変身)した姿でのみ顔を合わせていたことだった。人間の欲望が暴走して現れる「ヒトツ鬼」に反応し、メンバーはどんな場所にいようとも空間を飛び越えて集合することができる。このシステムがあるために、ふだん町ですれ違っていたり、言葉を交わしていたりしても、お互いにドンブラザーズの仲間であるとすぐには気づかないようになっていた。

そんな彼らだが、謎めいたマスター・五色田介人/ゼンカイザーブラック(演:駒木根葵汰)のいる喫茶「どんぶら」で顔を合わせるうち、タロウとはるか、真一がそれぞれを認識するようになり、少し遅れてつよしも仲間であることが判明。しかし「逃亡者」の犬塚翼だけは、放送開始から半年以上もの月日が流れてもなお、イヌブラザーが翼であるという事実を「誰にも知られていない」状態が続いた。翼もまた、タロウが「脳人(ノート)」のソノイ(演:富永勇也)に倒され、新しい戦士・ドンドラゴクウ/ドントラボルト/桃谷ジロウ(演:石川雷蔵)がやってきたこと、そしてソノイの協力を得てお供たちがタロウを現実世界に呼び戻したことなど、一切の事情を「まったく知らない」ままだという部分が、逆に彼の個性を際立たせている。

自分をイヌブラザーだと知るソノニ(演:宮崎あみさ)から「ドンブラザーズに関する重要な伝言」を頼まれた翼が、仲間との連絡方法を知らないため困り果てる話(ドン30話)、人間がどうして笑ったり泣いたりするのかの感情を理解できなかったソノザ(演:タカハシシンノスケ)が、はるかの「初恋ヒーロー」に自身の秘めたる感情を揺さぶられ、はるかを捕まえてむりやり続きを描かせる話(ドン22話)など、さまざまなキャラが入り乱れることで、意外性に満ちたストーリーが繰り広げられた。特に、お互い戦わなければならない宿命を背負いながら、心を通じ合わせているタロウとソノイのライバル関係については、今後のエピソードの中でもじっくり語られるに違いない。

強烈な個性を備えた者たちが敵と味方の立場を越え、互いに寄り添ったり、あるいは激しく反発したりしてスリリングなドラマが生み出されるという部分は、同じく井上敏樹氏が脚本を手がけた『仮面ライダーアギト』(2001年)や『仮面ライダー555(ファイズ)』(2003年)を思わせる。この2作品には、善意と悪意が混在した多くのキャラクター同士が悩み、苦しみ、時には激突しながら生きる方向性を探っていく「人間群像」の物語が存在していた。

タロウ、はるか、真一たちと日常生活でほとんど絡むことのない翼だが、つよしとは深い因縁のようなつながりがあった。1年前に離れ離れになった翼の恋人・夏美が、つよしの妻みほと同一人物なのかもしれないという謎めいた描写が幾度も出てくるからだ。翼、みほ(夏美)、つよしは巧みにすれ違い、3人が同じ場所に居合わせる機会がないままでいたが、10月2日放送のドン31話「かおバレわんわん」で、ついに翼がつよしとみほ=夏美に遭遇することとなった。

これまで、桃井陣や五色田介人、そしてソノイの口からいくつかの「謎」を解く鍵や、ドンブラザーズにとって必要な情報が明かされてきた。さらにドン29話「とむらいとムラサメ」ドン30話「ジュートのかりゅうど」と、2週続けていくつかの重要な「謎」が解明され、作品全体が大きなうねりを見せ始めている。ドンブラザーズと脳人の共通の敵というべき「獣人(ジュート)」には、猫や鶴、ペンギンなどさまざまな種類が存在し、それぞれ異なる役割を担っているという。しかし獣人たちの目的や、彼らが姿を借りたとされる元の人間たちの行方、謎の「マザー」の命令に従うドンムラサメの行動目的など、明らかにされていないことはまだまだ多い。ひとりひとりのキャラクターが激しくうごめきあい、刺激しあうことで生み出される『ドンブラザーズ』のドラマを、これからも楽しんでいきたい。

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