NTT東日本 東京事業部 東京南支店は、営業体制をインサイドセールスへ転換するに伴い、NTTテクノクロスのコールセンター向けAIソリューション「ForeSight Voice Mining」を導入した。同ソリューションによって、営業担当の応対姿勢はどのように変化したのだろうか。
未経験のインサイドセールスを成功させるには?
「東京南支店は、法人向けの訪問営業組織です。もともとは、リレーションのあるお客さまからの引き合いなどが商談機会のきっかけの多くを占めていました。しかし、年々この引き合いが減少し、さらにコロナ禍が追い打ちとなったことで、営業に変化が求められていたのです」(NTT東日本 井内氏)
NTT東日本 東京事業部 東京南支店の井内祥雄氏は、取り組みの経緯をこのように話す。課題解決に向け、見込み顧客(リード)に対して積極的に対面営業をかける"アウトバウンドセールス"や、見込み顧客に対してメールや電話、Webを活用して非対面営業を行う"インサイドセールス"を取り入れていく。コロナ禍という状況の中、とくに重視されたのがインサイドセールスだ。
「人手不足やデジタル化という背景から、営業の効率性は今後さらに求められていくでしょう。インサイドセールスの位置づけは、これからますます重要になるのではないかと考えています。一方で、重要な商談やクロージングでは必ず対面が求められますから、ハイブリッドでやっていくというのが我々の目指すところです」(NTT東日本 井内氏)
だが、これまでインバウンドセールスを行ってきた組織を、すぐインサイドセールス中心に転換させるのは難しい。そこで東京南支店は2020年10月、まずインサイドセールスに特化した組織を作り、実運用に向けた検討を進めた。
「当時の東京南支店には、インサイドセールスを効率的に行う"スクリプト"がまだなかったので、みんなが個々に考えつつ、適切な会話を模索せざるを得ませんでした。ですが、そんな会話をみんなが持ち寄れば知見の共有になりますし、そこから良い点を集めれば、最終的に既存のスクリプトを超えるものが作れる可能性もあると考えています」(NTT東日本 井内氏)
この活動を支えるために東京南支店が導入したのが、NTTテクノクロスのコールセンター向けAIソリューション「ForeSight Voice Mining」だ。
ForeSight Voice Miningの仕組みと活用
NTT東日本 東京南支店の導入した「ForeSight Voice Mining」とはどのようなものなのだろうか。NTTテクノクロスの高倉氏は、その特徴を次のように説明する。
「ForeSight Voice Miningは、コールセンター業務において、お客さまとオペレーターの通話内容を見える化するソリューションです。通話を音声認識でテキスト化することはもちろん、発話データを統計的に分析し、優秀なオペレーターがどのような対応を行っているかを可視化し、共有することもできます。近年はコールセンター業務も在宅化が進んでおり、他のスタッフとコミュニケーションを取りづらいオペレーターのメンタルケアも課題となってきました。こういったニーズにも対応できるでしょう」(NTTテクノクロス 高倉氏)
東京南支店がインサイドセールスの組織を立ち上げる構想の段階から、「ForeSight Voice Mining」の導入は決めていたと東京南支店の井内氏は話す。井内氏は以前、コールセンター業務を担当していたことがあり、NTT東日本で初めて同ソリューションを導入した際に、NTTテクノクロスから出向してきていたのが高倉氏だったそうだ。
「井内さんから、『新しい職場でもForeSight Voice Miningを使いたい』と要望を受け、どういう構成でこのソリューションを使うのかなとワクワクしたことを覚えています。とてもうれしく思いました」(NTTテクノクロス 高倉氏)
導入に当たって、NTTテクノクロスはふたつの支援を行ったという。ひとつ目は、"どういった発話を検知し、どのような内容を取得するか"、つまり「検知項目のキーワードの設定」だ。ふたつ目は、どのようなグラフとして表示させるかという、「ダッシュボードの設定」となる。
「一般的には、コールセンターからトークスクリプトをもらってきて、それを検知するようにキーワードを作っていくことが多いのですが、今回はトークスクリプトを定めていませんでした。東京南支店では、その応対で取るべき姿勢を定めて、その中で自分でトークを考えてくださいというやり方をしているからです。ですから、トークスクリプトがない中で、その発話を検知するロジックを検討するというところが一番苦労しました」(NTTテクノクロス 高倉氏)
高倉氏はこのロジックを実現するために、オペレーターとなる営業担当に対して「どういう言葉を使っているか」「どういう台詞を言う可能性があるか」を何度もヒアリング。そのうえでディスカッションを繰り返しながらすり合わせを行ったそうだ。これによって、各営業担当がおのおのの考えで会話しても、発話を検知することが可能になった。
「Good & Motto & Next」で営業の心理をケア
一方で、「ForeSight Voice Mining」もすんなりと導入が進んだわけではない。実際に現場で活用するにあたり、困難もあったという。
「システム主導ではよくある話ですが、現場が使いこなせなかったり、抵抗感があったりしました。とくに我々のような訪問営業だと、お客さまのところにいった営業担当者が何を話しているかわからないし、別に怒られたりもしないんです。それがいきなり会話を録音されて、その内容もみんなの前で公開されるようになります。これに対する抵抗が非常に強かったですね」(NTT東日本 井内氏)
とはいえ、論理的に考えれば営業の会話を分析することは重要なナレッジ・マネジメントだ。井内氏は、心理的ケアとして「Good & Motto & Next」を掲げた。これは、「応対を分析する際は、必ず最初に良いところを述べる」、そのうえで「こうするともっといいよねを挙げる」、そして「次はここにチャレンジすると宣言する」という三段階で改善を図る取り組みだ。
「チャレンジも『必ずこうしなさい』と押しつけないようにしています。あくまでアドバイスされた本人が納得し、自分でやってみたいと思うことを挙げてもらうようにしています」(NTT東日本 井内氏)
インサイドセールスにも定量的な成果拡大が
こうして「ForeSight Voice Mining」を活用し、インサイドセールスによる顧客との関係強化に努めたNTT東日本 東京南支店。すでにその成果は定量的にも表れているという。
例えば、最初のコンタクトののち、再アプローチの許諾を得た率を表した「継続アプローチ可率」は、導入前の"74%"から一定期間で"81%"まで向上した。また顧客に提案の許諾を得られた、いわゆる「リード獲得率」は、当初"1%"だったのが"5%"に改善。さらに、案件単金は導入後に最大"177%"まで上がったそうだ。
もちろん、現場からも好意的な声が上がっている。東京南支店で第三マーケティングの担当課長を務める斎藤裕三子氏は、1年目の新入社員と2年目の若手社員がお互いにコーチングを行う、同社の「モニタリング・コーチ(モニコチ)」における反応を次のように話す。
「Good & Motto & Nextを行うことで、自分の応対の姿勢とか、気づきを得ることができたという感想を聞きました。具体的には、『パーソナルな情報を伝えてるね』とか、お互いのトークを聞いて学び合ったりとか、良い応対はすぐに自分も取り入れたりしていて、共有の大切さを自ら感じていたようです。もちろん、若手だからこその素直さもプラスに働いていると思いますが、積極的に『自分を客観的に振り返る』ようになって、成長も早いなと感じます。お互いに成長し合えるような組織になっているかなと思っております」(NTT東日本 斎藤氏)
一方で、やはり「大勢に聞かれる抵抗感」と「非難されている印象」はまだまだ根強いそうで、社員が自信を失わないような心理的ケアは今後も工夫が必要だと述べた。
また、第一マーケティングの担当課長を務める井上隆博氏は、NTT東日本における事業環境の変化について言及しつつ、今回の取り組みの重要性について語る。
「当社はもともと電話やインターネット回線を主力事業にしてきました。ですがお客さまのニーズが多様化する中で、当社もお客さまの課題解決に資するようなソリューションを提供する会社へと変化しているのです。ベテラン社員にも営業スタイルの変革が求められている中、インサイドセールスチームで培ったお客さまの掘り起こし方、課題解決の手法を社内に展開していく必要があると思います」(NTT東日本 井上氏)
新たな機能も開発され進化する「ForeSight Voice Mining」
今回の導入を受け、NTTテクノクロスは現在、発話以外の情報、例えば会話時間などを使って応対の姿勢を図るインサイドセールス機能を開発。現在、特許申請中だという。今後は「ForeSight Voice Mining」自体がよりブラッシュアップされ、活用の幅も広がっていくことだろう。
「そのほかにも、実はいま感情認識機能の更なる活用にも目をつけており、今回のような環境を利用して有用性を確認するという検証も進めています。現場で試してもらい、フィードバックをいただくことで他のお客さまも活用できるようになるでしょう。東京南支店さまとは、引き続き連携していけたらなと思ってます」(NTTテクノクロス 高倉氏)
最後に、今回の取り組みの中心となった井内氏、高倉氏のお二人からメッセージをいただいたので、ご紹介しておきたい。
「私は、技術は分析だけでなく、現場のビジネスで役立たねばならないと考えています。テクノロジーの話と、ビジネスフィールドをいったりきたりする関係を続けつつ、インサイドセールスが必要な人にシステムを届け、運用のフォローなどを行いながら貢献していきたいと思っています」(NTT東日本 井内氏)
「NTTテクノクロスは活用を大事にしており、システム導入は終わりではなくスタートだと考えています。私はカスタマーエクスペリエンスチームの一員として、これからもお客さまとともに伴走していきたいと思います」(NTTテクノクロス 高倉氏)