スノーピークではアウトドアの知見を活かした地方創生事業を全国で展開している。北海道の知床半島東部に位置する羅臼町では「知床羅臼野遊びフィールド」を実施中だ(詳細は前回記事「北海道・知床で絶景キャンプ! スノーピークの野遊びフィールドに行ってきた」を参照)。今回は、羅臼町で体験できるアクティビティについて紹介していこう。
知床でクルーズ船に乗る
知床は自然豊かな土地。知床半島とその沿岸海域は2005年に世界自然遺産にも登録されている。国後島が間近に迫る根室海峡には、シャチ、マッコウクジラのほか、イシイルカ、ミンククジラ、ツチクジラなどが生息しているという。ここでしか得られない感動体験を求めて、知床ネイチャークルーズのツアーに参加した。
乗船したEver Green号は、最新鋭の設備が整ったクルーズ船。港から離岸するときには真横に動き(サイドスラスター)、また広い海域ではオートパイロット(自動操縦装置)で航行するなど、筆者が思い描いていたひと昔前の遊覧船とは完全にイメージが異なる機能の充実ぶりだ。
クルーズ船は9時前に羅臼港を出港した。乗務員は船長のほか、案内役の女性などあわせて4名が乗船。乗客は30名ほどで、思い思いに1階と2階のデッキに散らばった。
よく晴れた日で、甲板を吹き抜ける潮風がとても心地良い。Ever Green号は真っ白な波しぶきを立てて真東へ、国後島の方角へと突き進んでいく。すると遠くで、何匹かのイルカの泳ぐ姿を見ることができた。日本の水族館では飼育されていないイシイルカだろうか。時おり水面にしぶきをあげている。
しかし残念ながらシャチの姿は確認できず。聞けば、根室海峡でシャチが見られる時期は4月下旬~7月上旬までだという(乗船したのは8月25日)。乗務員の女性は「今シーズンは7月にものすごい頭数が見られたシャチですが、8月に入ると1回だけ、国後島側にいるのが双眼鏡で確認できたのみです」と説明する。
そこでこの日のクルーズ船は、同海域で7月~秋口まで見られるというマッコウクジラを追う。メスは体長10m~12mくらい、オスは15m~18mくらいまで成長する、と乗務員の女性。「羅臼の海には、約300頭のマッコウクジラがいると推測されています。ただ私たちがその姿を見られるのは、水面近くを泳いで呼吸しているわずか数分間です。というのも一度、尾びれを高く上げて海中に深く潜ると、もう40~60分は上がって来ないからです」と解説する。
ここでクルーズ船はしばし停船して水中にマイクを下ろす。マッコウクジラが水中で発するクリックス音を探知するためだ。それも束の間。手がかりをつかんだのか、今度は全速力で動き出した。果たして、1頭目のマッコウクジラを発見。ゴツゴツとした背中を水面に見せながら優雅に潮を吹いている。そのうち他のクルーズ船も到着した。時おり歓声をあげながらも、静かにマッコウクジラの泳ぎを見守る乗客たち。
この日、Ever Green号を含めて根室海峡にいたクルーズ船は3隻。この3社は連携して「どこにマッコウクジラがいるのか」、互いに情報交換しながら航行しているようだった。
ツアーでは3頭のマッコウクジラを見ることができた。これほど大きなクジラが、この海峡には300頭も生息しているという―――。想像するだけでゾクゾクしてくる。シャチやイルカのシーズンも重なったら、海はどれだけ賑やかなんだろう。ちなみにクルーズ船の様子は動画でも撮影してきたので以下に掲載した。船は2時間あまりのクルーズを終えると、無事に羅臼港に帰港。
観光客が激減した!!
知床ネイチャークルーズの船舶運航管理者で、この日の船長を務めた長谷川雄紀氏に話を聞いた。代々漁師の家系で、自身はクルーズ船で観光案内を始めてから10年以上が経つという。まず驚いたのは操舵室のデジタル機器の多さ。各種レーダー、ナビゲーションに使用するプロッタ、周囲の船舶情報を把握するAISのほか、マッコウクジラを探すための魚群探知機など、最新設備が揃っている。無線設備も新しく、携帯電話、衛星電話も利用できる環境だ。
「現代の船はオートパイロットが発達しています。だから非常に安全で、基本的に事故は起こりません」と長谷川船長。それに加えて、羅臼でクルーズ船を営む業者は元漁師という人が多い。これまで様々な気象条件で漁船を操ってきた経験があり、この海域にも非常に詳しく、かつ漁師同士の横のコミュニケーションが密に保たれている。何重にも安全性が担保されている、と強調する。
この新しいクルーズ船は就航して2年ほど。厳しいコロナ禍を経て、客足の回復を期待していた矢先、今度は知床半島の反対側(斜里町)で小型観光船KAZU Iの沈没事故が起きた。不幸なこの事故は、羅臼の観光業にも大きな打撃を与えた。観光客が激減したという。
「会社(有限会社知床遊覧船)とその社長の対応はもちろん悪かったが、国の事故対応も悪かった。羅臼町からも捜索などに関して意見したが通らず、こちらは歯がゆい思いで経緯を見ていた。もっとこうしていれば、という部分がたくさんあった。助からない命はあったかも知れないが、見つかる命はもっとあったはずだ」と船長。
最後には「観光業はイメージに左右されてしまいます。皆さん、旅行を終えたら身近な人には『羅臼でクルーズ船に乗ったけど安全だったよ』『楽しかったよ』と伝えてください。そうしたら、私たちは報われますから」と話していた。
羅臼を味わい尽くす
羅臼町で体験できる、このほかのアクティビティについても紹介していこう。
羅臼に来たら「羅臼昆布」のヒレ刈り体験と昆布倉庫見学は外せない(要予約)。栄養が豊富で、昆布の王様とも言われる羅臼昆布。現役の昆布漁師によるレクチャーでは、その製造工程の困難さを学ぶことができる。
"ヒレ刈り"と呼ばれる羅臼昆布にハサミを入れていく作業も、ここでなければできない体験。できた昆布を持ち帰ることができるのも嬉しいポイントだ。
また旧植別小中学校の建物を利用した「羅臼町郷土資料館」も立ち寄りたいスポット。ここでは知床半島の周辺地域から出土した縄文時代の土器・石器をはじめ、中世~近世のアイヌ文化ゆかりの品々などを展示。羅臼の人々の漁業、そして私生活が時代とともに発展してきた歴史を学べる。知床の自然を代表するヒグマ、シカ、シマフクロウやオオワシの剥製も間近で見られて興味深い。
知床羅臼ビジターセンターでは、知床の自然、歴史、文化に関する展示や映像、スタッフの解説を通して知床国立公園を知ることができる。目をひくのはシャチの大きな骨格標本。2005年2月に集団座礁した成獣のオスを引き取り、ほぼそのままの形で再現している。「本当にこんな大きなシャチが泳いでいるの?」と驚くこと間違いなし。
前回は、旧 羅臼町民スキー場のゲレンデを作り変えた「知床羅臼野遊びフィールド」の模様をお伝えした。4箇所のテントサイトでグランピングが楽しめる贅沢な専用キャンプ場だった。そこからクルマで15分ほど、国道335号線沿いの広大な土地には「羅臼オートキャンプ場」もある。晴れた日には国後島を眺めることができる見晴らしの良い立地で、電源付きのオートサイトのほか、キャンピングカーサイト、フリーテントサイトが利用可能。きれいな炊事棟、トイレも完備している。キャンプ好きの人にとっては「知床羅臼野遊びフィールド」とともに、こちらのキャンプ場もお勧めできる。
前回は絶景の「知床羅臼野遊びフィールド」、今回はその周辺で楽しめるアクティビティをお伝えした。
羅臼は「魚の城下町」と言われるほど豊富な魚種で溢れている。また大部分のエリアが"知床世界自然遺産"に含まれるため大規模な開発が行われず、結果として街並みに古き良き景観が残っている。知床でしか見られない希少な動物を見ることができるのも魅力のうち。都会の喧騒から遠く離れた、知床羅臼の大自然のなかで過ごす時間は格別なものだった。