渡辺明名人への挑戦権を争う第81期順位戦(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)は、9月5日(月)にA級3回戦の佐藤康光九段―斎藤慎太郎八段戦が行われました。結果は101手で斎藤八段が勝利し、リーグ成績を2勝1敗としました。

第81期A級順位戦リーグ表

本局は後手番の佐藤九段がダイレクト向かい飛車を作戦に採ります。この戦型は先手に▲6五角と筋違い角を打たせて馬作りを甘受しますが、その馬を捕獲する展開となり、結果として先手は歩得、後手は角金を持ち駒に持つということがそれぞれの主張となります。本譜も定跡手順をなぞっていましたが、馬を取った18手目の△5二同飛が佐藤九段の新手。従来は△同金あるいは△同玉と取り、後手は向かい飛車の形を維持するのが普通でした。本譜の佐藤九段の狙いは飛車を中央に移してから△3二金の形を作ることにありました。中飛車に構え居玉のまま開戦する構想です。従来の常識にとらわれない佐藤九段らしい趣向でした。

以下、後手は角を打って歩を取り返すことで歩損を解消しました。その間に先手は玉形を堅くしていましたが、佐藤九段は打った角と取り返した歩を使って、先手陣の薄い個所である9筋から手を作りに行きました。さらに9筋で交換して持ち駒となった桂馬を50手目に△2七桂と逆サイドに打ち、盤面を大きく使います。

次に△1九桂成と香を取って、後手の香得となりましたが、対して▲3七桂と跳ねたのが味の良い一手。桂を逃げただけではなく、次に▲4五桂と跳ねた形が後手陣の攻めによく利いています。対して後手は1九の成桂を働かせたいところですが、それには手数を要するのが辛いところです。

68手目の△3七歩成で後手は先手陣に二枚目の成り駒を作りました。このと金は先手の飛車にも当たっていますが、対して▲1八飛と逃げたのが手筋でした。この逃げ場所だと△2七とと更に飛車を追われることになりますが、このタイミングで飛車を見捨てて▲3四歩と反撃に出るのが斎藤八段の決断でした。以下△4五桂▲同歩△1八と▲4四歩の進行は飛桂と角桂の交換ですが、後手のと金をそっぽに行かせたのが大きく、対して先手は4四の歩の存在が絶大です。先手玉が堅いこともあり、斎藤八段の優勢がはっきりしました。

以下は斎藤八段が的確に後手玉を寄せ切り、勝利。3期連続の挑戦に向けて、まずは白星を先行させました。対して佐藤九段は3連敗と苦しいスタートですが、今期A級では断トツの年長者ということもあり、百戦錬磨の底力を見たいファンは多いでしょう。次戦のA級順位戦は9月7日(水)に永瀬拓矢王座―菅井竜也八段戦が行われます。

相崎修司(将棋情報局)

3期連続の挑戦に向けて星を伸ばした斎藤八段(写真は第80期名人戦七番勝負第3局のもの 提供:日本将棋連盟)
3期連続の挑戦に向けて星を伸ばした斎藤八段(写真は第80期名人戦七番勝負第3局のもの 提供:日本将棋連盟)