• 『芸能人が本気で考えた!ドッキリGP』総合演出の中川将史氏

こうした中で、BPOの青少年委員会が今年4月、「痛みを伴うことを笑いの対象とするバラエティー」に関して見解を出すなど、バラエティ番組をめぐる環境も変化している。『ドッキリGP』は、BPOの論議の中でも事例に挙げられた番組だが、現場としてどのように受け止めているのか。

「ドッキリ番組という性質上、いろいろなご意見やお叱りを頂くことはもちろんあります。ただ何より、皆さんに心から笑っていただきたいと思ってやっていることなので、時代にアジャストしつつも、ちょっとだけ『おっ、攻めるね』というところを狙っていく。その意識を、スタッフ全員が持っています。テレビは、100人が見て100人が『面白かった』『最高だね』と言ってくれるものを目指すべきなんですが、それは不可能。できるだけ100に近づけるために、世の中の風を感じながら『でもこれが面白いんだ!』というものを打ち出していければと思いますね」

その上で、「画面からも伝わっていると思いますが、ドッキリにかかって本当に怒って帰られる方はいないんです。『やったな、おい!』とか『分かんなかったよ~』と、皆さん最後は笑って帰るんですが、そこは絶対に守らなくてはならない線だと思っています。僕らは面白いものを作りたいのであって、ひどいことをしたいわけではないので。ドッキリにかかる方も、見ている皆さんも、心から笑えるものを目指しています」と強調。

飲むとストローに静電気が流れてしびれてしまう、「秒で静電気スムージー」はBPOの審議でも話題になったが、ドラマの出演者同士が仕掛け人とターゲットに分かれて行った際、結局は仕掛け人も食らって両者が楽しむという流れになったのは、1つの好例だ。

「ドッキリの仕掛けって、仕掛けた側も自分で味わってみたくなったり、僕らスタッフもノリノリでテストしていたりと、皆けっこう興味津々なんです。以前、フジテレビの夏のイベントで、番組でかけたドッキリを体感できる『ドッキリやしき』というものを作ったんですが、5時間待ちになるほどでした。皆さんにも、ちょっと刺激の強いアトラクションだと思って楽しんでもらえれば何よりです」

  • ドッキリにかけられた人々 (C)フジテレビ

■電流風呂に引きずり込まれるチーフプロデューサー

BPOの見解では、「心身の痛みに苦しむ人を、周囲が嘲笑しているシーン」を問題視したが、Snow Manの向井康二が電流の流れるお風呂でもん絶するドッキリでは、脱出を阻止するスタッフに加え、現場で立ち会っていた番組総責任者のチーフプロデューサーまでも浴槽に引きずり込まれ、みんなで大騒ぎというオチで、かけられる側・仕掛ける側の対等な関係性が映し出されていた。

「痛みを伴う笑い」という言葉が報道などによって独り歩きしていた中で、6月にはBPO青少年委員会と番組制作者の間で意見交換会が行われ、現場は必要以上に萎縮することはないと確認。こうして時代の要請に合わせながら、演者・視聴者に飽きられず、安心して笑ってもらえるドッキリを生み出す……クリアする要件は決して容易ではない中で、スタッフたちの奮闘は続く――。

●中川将史
1980年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学卒業後、02年にフジテレビジョン入社。『笑っていいとも!』のほか、04年から18年の番組終了まで『とんねるずのみなさんのおかげでした』、18年から21年まで『さんまのお笑い向上委員会』など、数多くの番組を担当。現在は『芸能人が本気で考えた!ドッキリGP』『お笑いオムニバスGP』で総合演出を務める。