近年、主演作含め話題作への出演が続き、高い演技力と異彩な存在感で見る者を魅了している女優・岸井ゆきの。現在発売中の初フォトエッセイ『余白』(NHK出版)では、岸井のありのままの素顔に触れることができる。これまであまり語ってこなかった心の内を明かした岸井にインタビューし、女優業や愛する映画への思いを聞いた。

  • 岸井ゆきの 撮影:蔦野裕

同書は、まっすぐで飾らない言葉で紡がれた53篇におよぶエッセイと、自然体な表情を切り取った撮り下ろし写真、そして本人秘蔵のスナップで編み上げた一冊。仕事にまつわるエピソードはもちろん、子供時代の思い出や、家族・友人への思い、恋愛や子供を持つことについての気持ちも明かしている。

「これまで自分で考えていることをあまり外に出してきませんでしたが、こうして本にしてみて 、自分が考えていることを確認できた感じがしました。また、それを面白がってくれる人がいるんだということは再発見でした」

とはいえ、自分のことを話すのは苦手だという岸井は、エッセイは「最初で最後です(笑)」と宣言。「もしまた声をかけていただいたら、『それもありかな』って言い始めるかもしれませんが、今はもう最後のつもり。やはり自分のことを話すのは難しいです」と話した。

映画にたびたび救われ、「映画が一番の友達」と言うほど映画を愛している岸井。エッセイでは高校卒業直前にスカウトされた当時のことも書かれているが、そのときに映画をつくる人たちの一員になれる可能性があると知り、「そういう道もあるならやってみようかな」と事務所に所属することを決意したという。

しばらくは本当に自分のやりたいことなのかわからず模索の日々が続くも、舞台のオーディションで演劇がどのように作られているのか、その裏側を知って感動し、俳優になりたいと思ったのだという。

ただ、「覚悟を決めた瞬間というのはあまりなくて、一生役者をやるとは決めつけたくない」と自身の考えを明かす。

「先のことはわからないので。この仕事をずっとやるんだろうとは思いますが、もしかしたら別の楽しいことが見つかるかもしれない。そうなったときに、私は言葉にしてしまうとそれに縛られる傾向があるので、『でも私、役者一生やるって言っちゃったしな』ということが起こり得るんです。過去の自分の決断や覚悟が未来の自分に作用してしまうのでそれは避けたいなと。過去の自分も未来の自分もかわいそうだから決めつけないようにしています。もちろん、今はこの仕事が好きでやりたいと思っていて、一つ一つの仕事に対して覚悟を持ってやっていますが、これからもずっと役者をやるとは決めていません」