東武鉄道は、大手私鉄で初となる蒸気機関車の動態保存を目的として、C11形123号機の復元作業を行ってきた。復元完了にともない、7月18日からC11形123号機の牽引による「SL大樹」「SL大樹 ふたら」が営業運転を開始した。

  • 復元作業の終了したC11形123号機が、いよいよ「SL大樹」として出発

当日、C11形123号機は下今市駅9時33分発・鬼怒川温泉駅10時9分着の「SL大樹1号」で運行開始。始発駅の下今市駅で出発式が開催された。

出発式は下今市駅構内の転車台広場にて行われた。主催者挨拶として、東武鉄道取締役常務執行役員、鉄道事業本部長の鈴木孝郎氏が登壇。復元完遂による大手私鉄初の蒸気機関車の復元、国内唯一の同一形式3機体制が実現することについて触れつつ、江若鉄道時代からのC11形123号機(製造当時はC11形1号機)の略歴を紹介した。サッパボイラをはじめ、日本の鉄道各社・関係者へのこれまでの協力に対する感謝も述べた。

C11形が3機体制になったことを踏まえ、「今後は123号機の名前にふさわしく、将来に向かってホップ・ステップ・ジャンプと力強く助走し、飛躍していくシンボルとして、鉄道産業文化遺産の保存と活用、日光・鬼怒川エリアの活性化、東北復興支援の一助の目的をさらに力強く推進してまいります」(鈴木氏)と展望を語った。

鈴木氏によれば、「SL大樹」は2017年8月の運行開始以来、沿線住民らの協力により、日光・鬼怒川エリアにとって重要な観光資源へと成長してきたという。その上で、「今後もこの『SL大樹』が、魅力あふれる日光・鬼怒川エリアを牽引していくことを願っています」とコメントした。

来賓を代表して、日光市長の粉川昭一氏も挨拶。「SL大樹」の運行開始以来、地域住民の協力の下、倉ケ崎SL花畑(大谷向~大桑間)が整備され、来訪者から好評を得ているという。このような地域住民と一体となった取組みによって地域振興が図られていることに、粉川氏は感謝を述べた。2020年から日光線(下今市~東武日光間)に乗り入れるSL列車として運行開始した「SL大樹 ふたら」についても触れ、日光線・鬼怒川線両方でSL運行が開始されたことで、日光・鬼怒川エリアの活性化が図られてきたと話す。

新たに運行開始するC11形123号機に関して、その車両番号の由来について触れた上で、「今後も3両のSLを活用した新たな事業が、当市の資源として地域と共にますます発展することを、切に願っております」とコメントした。

粉川氏は現在の新型コロナウイルス感染症再拡大を受け、国の観光支援策に期待が寄せられているものの、延期となっていることにも言及。その現状を踏まえ、「市といたしましても、今後の国の観光支援策の開始を見据え、感染防止対策を徹底した上で、安全で、安心して日光にお越しいただけるよう取り組んでまいります」と述べた。

  • 出発式では、東武鉄道の鈴木氏、日光市長の粉川氏が挨拶。SL機関庫とC11形123号機を背にテープカットを行った

粉川市長の挨拶の後、テープカットが行われた。東武鉄道の鈴木氏、日光市の粉川氏に加え、日光市観光協会長の八木澤哲男氏、東武博物館理事長の三輪裕章氏と下今市駅長も登壇。テープカットの準備が行われる中、SL機関庫からC11形123号機が登場し、短い汽笛を合図に転車台へ。広場外側の通路で待っていた一般来場者らもその様子を見守った。

123号機という車両番号にちなみ、司会の「1・2・3」の合図でテープにはさみが入れられると、会場から拍手が起こった。その後、下今市駅の1・2番線ホームに移動。いよいよC11形123号機の「SL大樹」が出発する。

C11形123号機の営業初列車は「SL大樹1号」。9時27分、下今市駅2番線に入線した。乗車する人は2番線で、撮影など行う人は3・4番線ホームで見守る。大人の鉄道ファンらが多く集まる中、家族連れの姿も。こどもたちもSLを楽しみに待っている様子だった。

ホームでは、出発セレモニーとして、日光市長の粉川氏と下今市駅長が発車合図を行った。2人が右手をまっすぐに掲げ、「出発進行!」と掛け声を放つと、それに応えるかのように、C11形123号機が長く、大きく汽笛を吹鳴。9時33分、C11形123号機の牽引による「SL大樹1号」が下今市駅を発車した。ホームでは駅員らが横断幕を掲げ、列車を見送った。

  • 下今市駅2番線にC11形123号機の牽引する「SL大樹1号」が入線

  • 発車合図を行い、汽笛が駅中に鳴り響く

  • 多くのファンや関係者に見守られ、鬼怒川温泉駅へ向かった

この日、「SL大樹」はC11形123号機のみ使用し、下り「SL大樹1・5号」、上り「SL大樹2・6号」を運行。いずれも座席はほぼ満席になっていた。C11形123号機が加わることにより、東武鉄道はC11形207号機・C11形325号機と合わせ、3機体制でSL列車の運行が可能になる。「SL大樹」「SL大樹 ふたら」の今後の運行スケジュールは、東武鉄道「SL大樹」公式サイトに掲載されている。

東武鉄道はこれまで、2018年11月の復元機到着を皮切りに、ボイラーの搬出(2019年7月)、ボイラーの搬入(2021年5月)、車体降ろし(2021年11月)、火入れ式(2021年12月)、車体のお披露目・試運転(2022年4月)、南栗橋車両管区での蒸気機関車3重連イベント(2022年6月)と、C11形123号機に関する報道公開を実施してきた。それらを経て、今回、新車同然に復元されたC11形123号機が無事に営業運転開始となった。筆者にとっても非常に感慨深い。

C11形123号機にとって、今日が新たなスタートともいえるだろう。C11形207号機・C11形325号機とともに、これから日光・鬼怒川エリアで多くの人々に愛される機関車になることを期待したい。