東武鉄道は、復元を進めてきた蒸気機関車C11形123号機について、4月21日に南栗橋車両管区の訓練線にて試運転を行い、その様子を報道関係者らに公開した。

  • 東武鉄道により復元された蒸気機関車C11形123号機

東武鉄道は、SL事業の目的のひとつである「鉄道産業文化遺産の保存と活用」のため、蒸気機関車C11形の復元作業を進めてきた。2018年11月に復元機が南栗橋車両管区に到着した後、2019年7月にボイラー搬出、2021年5月に修繕されたボイラーの搬入、2021年11月に車体降ろしを行い、同年12月に火入れ式が行われた。

復元された蒸気機関車は、1947(昭和22)年に滋賀県の江若鉄道が発注し、日本車輌製造が製造。江若鉄道で活躍した後、1957(昭和32)年から北海道の雄別炭礦鉄道、1970(昭和45)年から釧路埠頭開発で活躍し、1975(昭和50)年に役目を終えた。それ以降、北海道江別市で40年近く静態保存されていた。これを日本鉄道保存協会より東武博物館が譲受し、復元する運びに。この事業により、日常的な保守のみならず、SL全般の技術力向上を図るとしている。

当初、復元機のナンバープレートは「C11 1」となっていたが、東武鉄道は2020年11月、同機の車両番号をC11形123号機とすることを発表している。4月21日に行われた報道公開では、南栗橋車両管区のSL検修庫に格納されていたC11形123号機が、汽笛を鳴らし、ゆっくりと検修庫の外へ。見事に復元された姿がお披露目された。

  • SL検修庫内から姿を現したC11形123号機

復元作業は東武鉄道社員20名と、蒸気機関車の復元経験があるサッパボイラ社員4名を迎えた復元チームにより進行。2018年の搬入当時、車体の汚れや傷みが目立つ状態だったが、長期間にわたる復元作業により、C11形123号機は新車同然の姿に蘇った。

とくに、車輪同士をつなぐロッドを見ると、銀色に輝いているようにも見える。ボイラー外側に沿って配されている細かな配管類もきれいに整備され、外観上のアクセントとなっているようにも見受けられた。黒色の車体もきれいに塗り直され、重厚な雰囲気に。復元にあたり、前照灯にLEDも採用した。前照灯の省電力化により、保安装置のほうに電力を利用しやすくするためだという。

  • C11形123号機の前面。「SL大樹」のヘッドマークも掲出された

  • C11形123号機の後面

  • C11形123号機の側面。無線アンテナも設置されている

C11形123号機の撮影を行った後、同機は訓練線へ移動。前進・後進を順に行い、6050系のいる位置まで移動した後、試運転を開始し、訓練線を4往復した。今回はSL単機による試運転だったため、車掌車の連結は行われなかった。

1往復目は15km/h、2往復目は30km/h、3・4往復目は45km/hと、徐々に速度を上げながら走行。いずれも発車時に汽笛吹鳴を行い、蒸気を高く上げてゆっくりと発進し、最高速度まで到達した。1往復目は15km/hということで、たしかにゆっくり走る様子がわかるが、2往復目以降は速度が上昇。数字だけ聞けば、30km/h・45km/hはあまり速くないように思うかもしれないが、機関車が単機で走るためか、目の前を通過したときは数値以上の速さに見えた。なお、3・4往復目の45km/hは、「SL大樹」の営業最高速度にも近いという。

  • C11形123号機が訓練線へ移動

  • 前照灯が点灯した後、汽笛が鳴り響き、訓練線を走行する

訓練線は、車両管区の工場棟付近から浅草方に続いているため、C11形123号機は最高速度に達した状態で離れ、報道関係者らの立ち位置から離れた場所で停車し、復路として戻ってくる。復路の走行開始に合わせて鳴らされた汽笛は、離れた位置からでも十分に耳に伝わった。ただし、復路では車軸の温度を検査するため、正門前でいったん停車。作業員が車両に近づき、車軸が一定の温度を超えていないか確認した後、軽く汽笛を鳴らして再び加速した。最終的には6050系のいる元の位置まで戻り、停車する。これを4往復行った。

4往復目の往路では、最高速度45km/hへ加速する途中、大きく汽笛を鳴らす場面もあった。遠くにいても体の芯まで響きそうなほどの音量で、実際に汽笛を鳴らしながら速度を上げる蒸気機関車の姿は迫力がある。筆者はすでに、C11形207号機・325号機の「SL大樹」で蒸気機関車の迫力を体感しているが、C11形123号機がこれから「SL大樹」の牽引機として活躍することにも期待したい。

  • 復路は正門前まで走行し、車軸の温度が規定を超えていないか検査。検査終了後に汽笛を鳴らし、スタート位置へ戻る

  • 4往復目は45km/hまで到達。加速中に大きく汽笛を鳴らした

C11形123号機は引き続き試運転が進められ、今年7月から運行開始する予定。これに先立ち、6月中旬には、一般向けとして蒸気機関車3重連を披露するイベントを南栗橋車両管区で行うという。詳細は後日、東武鉄道から発表予定とされている。

このまま順調に運行開始を迎えることができれば、JR以外の大手私鉄により、蒸気機関車の静態保存からの復元が成功する貴重なケースとなる。昭和の時代に一度は役目を終えた蒸気機関車に再び命が吹き込まれ、令和の現代に営業運転として復帰する。そのあかつきには、国内唯一の同一形式による3機体制が実現し、SL列車の安定した運行や、他線区でのイベント運転の検討も可能になる。沿線住民や観光客、SL運行に携わる関係者など、多くの人々にC11形123号機が迎えられる時が目前に近づいた。