モスラやゴジラなど、巨大怪獣とゆかりの深い東京のシンボル「東京タワー」B1タワーホールにて、7月16日より「特撮のDNA 東京タワーSOS/ゴジラ・モスラ・東宝特撮展」が開催されている。
15日に行われたマスコミ・関係者向け内覧会では、『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』(2003年)などのゴジラ映画を手がけた手塚昌明監督と、「東京の風景」をモチーフに数々の作品を発表しているイラストレーター・東京幻想氏がゲストとして招かれ、特撮怪獣映画の魅力を熱く語った。
『ゴジラ』(1954年/東宝)や『ガメラ 大怪獣空中決戦』(1995年/KADOKAWA)をはじめとする日本の特撮映画で実際に使用されたミニチュア、小道具類や、精密に再現されたレプリカモデルなどが観られる展示会「特撮のDNA」。今回は、かつて『モスラ』(1961年)で幼虫モスラが巨大な繭を作り、『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』(2003年)ではゴジラに立ち向かうモスラ、機龍の最終決戦場となった「東京タワー」が会場に選ばれた。
東京タワーと特撮映画、特撮テレビ作品との関わりは深く、『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964年)ではキングギドラに、『大怪獣ガメラ』(1965年)ではガメラに壊されたほか、『キングコングの逆襲』(1967年)では電子怪獣メカニ・コングと大怪力怪獣キングコングがタワーによじ登りながら激闘を繰り広げた。テレビのほうでは『ウルトラQ』(1966年)第16話「ガラモンの逆襲」では電波怪獣ガラモンが根元からタワーをへし折り、第19話「2020年の挑戦」ではタワーのてっぺんからXチャンネル光波を発射してケムール人の撃退に成功。また『帰ってきたウルトラマン』第26話「怪奇!殺人甲虫事件」では怪獣ノコギリンの光線によってタワーが破壊され、『ウルトラマンタロウ』第21話「東京ニュータウン沈没」では怪獣キングゼミラがタワーにしがみついてとてつもない大きな鳴き声のため近隣住民が騒音に悩まされ、第38話「ウルトラのクリスマスツリー」では、ウルトラマンタロウの能力でタワー全体が巨大なクリスマスツリーに変化した。1958年に竣工して以来、東京を象徴する建物のひとつとなった東京タワーは、特撮映画、特撮テレビ作品でもなじみ深い「聖地」として愛され続けている。
フロアに入ると、『ゴジラ』(1954年)の大判ポスターをはじめとするパネル展示に出迎えられる。ショーケースには、本作のフィルムを保管する円形のフィルム缶や、ゴジラを倒した液体中酸素破壊剤(オキシジェン・デストロイヤー)を収めたカプセルなど、現存する歴史的アイテムの数々が並べられた。
今年に入って、昭和から平成にかけて日本特撮を支えてきた偉大なる人々が、相次いでこの世を去った。入口付近には、東宝特撮映画で造形を手がけた安丸信行氏、『ゴジラ』(1954年)で尾形を演じたほか、数々の東宝映画で魅力をふりまいた二枚目俳優・宝田明、『電脳警察サイバーコップ』(1988年)や『ウルトラマンティガ』(1996年)など多くのテレビ作品を手がけた村石宏實監督、そして『日本沈没』(1973年)『ゴジラ対メカゴジラ』(1974年)『ゴジラ』(1984年)など70~80年代の東宝特撮を支えた中野昭慶特技監督の多大な功績を称え、感謝を示すパネルが置かれた。
東宝怪獣映画のスターであるだけでなく、今や世界じゅうにその名を知られるキング・オブ・モンスター「ゴジラ」は、30作以上もある各作品でさまざまなスタイルの変遷があった。造形検討用ひな形モデルや頭部メカニックといった、現存する貴重な資料の「本物」の迫力をぜひ会場で体感していただきたい。
中野昭慶特技監督の得意とする、派手な「爆発」演出が画面に炸裂する『メカゴジラの逆襲』(75年)に使用されたメカゴジラ第2号のスーツ展示。抑え気味の照明が、地球征服を企むブラックホール第3惑星から送り込まれた「悪の使者」としてのメカゴジラのキャラクター性を強めているようだ。
ショーケースには、メカゴジラのデビュー作『ゴジラ対メカゴジラ』(1974年)でキングシーサーを呼び起こす鍵となる「獅子の置物」や、実際に撮影で使われたメカゴジラの足(いずれも今回初展示)、そして中野監督が描いた貴重な画コンテが展示された。
東宝怪獣の中でも屈指の人気を誇るゴジラとモスラは、幾度となくデザインや設定をリニューアルして復活を遂げ、新しい世代のファンを生み出し続けている。展示のモスラ(成虫)は、平成ゴジラ「VS」シリーズの好評を受けて作られた『モスラ』(1996年)『モスラ2 海底の大決戦』(1997年)『モスラ3 キングギドラ来襲』(1998年)の3作で活躍した。そしてゴジラは『ゴジラ2000ミレニアム』(1999年)にて、巨大で鋭くとがった背ビレなど、大胆なリニューアルが施された。いずれも若狭新一氏が造形を手がけている。
90年代、子どもから大人までファミリーで楽しめるお正月映画の決定版として、「平成ゴジラVSシリーズ」は大好評を博した。手前に置かれているのは、平成ゴジラの最後を飾る『ゴジラVSデストロイア』(1995年)でゴジラとゴジラジュニアを痛めつけた強敵・デストロイアの頭部(+両手)。『ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃』(2001年)のタイトルバックに使用されたゴジラとキングギドラの「表皮」の立体感も存分にお楽しみいただけることだろう。
南洋の孤島・インファント島で卵から生まれた巨大な幼虫が東京を蹂躙し、やがて東京タワーに繭をかけ、極彩色の成虫へと変態して空を飛び回る『モスラ』(1961年)は、当時の人気歌手ザ・ピーナッツが歌う「モスラの歌」のメロディとともに、人々の心に残り続ける永遠の名作映画となった。モスラと心を通わせる2人の妖精=「小美人」の撮影用ミニチュアモデルや、特撮のイメージをスタッフで共有するため描かれたスケッチ(2点)が展示されている。
テレビの世界で巻き起こった「変身ヒーロー(特撮・アニメ)」ブームを受け、『ゴジラ対メガロ』(1973年)ではゴジラを助けて悪い怪獣に挑む電子ロボット・ジェットジャガーが登場。不敵なツラがまえが特徴的なジェットジャガーは今回、デザイン画や頭部マスク、飛行シーン用に作られたミニチュア人形(写真)といった貴重資料が充実している。
和製『スター・ウォーズ』を狙って東宝が送り出した特撮SF映画『惑星大戦争』(1977)の展示も、本展の目玉となった。地球侵略を企む恒星ヨミ第三惑星の司令官ヘル(演:睦五郎)が被っていた「ヘルメット」は今回初展示となった。
東京タワーを背後に臨む市街地の精密ジオラマセットの中心に、『ゴジラ×メカゴジラ』(2002年)で活躍した3式機龍(通称メカゴジラ)がどうどうの登場。機龍はバックユニットを射出した「高機動タイプ」で、映画ではゴジラを相手に意外なほど俊敏なアクションを披露した。
手塚昌明監督は『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』で東京タワーをゴジラが破壊するシーンをふりかえって「モスラやキングギドラが壊した東京タワーですが、ゴジラにはその経験がなかったので、『東京SOS』ではゴジラが東京タワーを壊すという部分にこだわりました。ただ破壊するのでは面白くないので、小泉博さん演じる中條と孫・瞬のドラマ部分にもしっかりからめて、迫力のあるシーンにしたいと張り切りました。小泉さんは瓦礫に飲まれるカットを吹き替えなしで演じてくださり、臨場感が出たと思います」と語り、東京を舞台に3大怪獣が激しい戦いを行う『東京SOS』に欠かせない要素として、東京タワーがあることを強調していた。展示の機龍については「いままでの展示イベントでは、スーツ自体の重みによってどうしても脚がめりこんでしまい、見栄えがよくなかった。しかし今回はスタッフさんたちが工夫をこらして、上からワイヤーで吊るスタイルになり、よりカッコいい機龍をお見せできると思います」と、従来から展示方法を変更したことによって、いっそう機龍の魅力が引き立っていると胸を張ってコメントした。
続いて、『ゴジラ×メカゴジラ』公開20周年を記念したイラスト「機龍(メカゴジラ)/品川幻想」の作者・東京幻想氏と手塚監督とのトークセッションが行われた。
今回のイラストは、まず手塚監督からコンセプト・プロット(ストーリー)=「機龍幻想」が示され、これを受ける形で描かれたのだという。東京幻想氏は「今まで僕が描いてきた東京をテーマとする作品の世界観にあったイメージをいただいたので、描きやすかったです。ゴジラも機龍もモスラも、たくさんのファンがいる大きな存在なので、細かなディテールも含めて間違ったイメージで描写してはいけないと思い、たくさんの資料を頼りにしつつ、何度も修整をいただきながら作業していきました。ゴジラの顔も作品によって違いがありますから、2002年の『ゴジラ×メカゴジラ』のときのゴジラに寄せるのが難しかったところです」と、各作品のゴジラに思い入れを持つファンの気持ちや、手塚監督のゴジラ&機龍&モスラへの愛も汲みながら、自身のテーマを内包するアートに仕上げることができたと笑顔で語った。
イラストの出来栄えについて手塚監督は「夕陽を受けて、浮かび上がった怪獣たちのシルエットがとても幻想的。さすが“東京幻想”さんだなあと感心しました。描かれた景色には郷愁があり、人の心をふるわせます。苦労して作り上げた作品には魂がこもります。イラストも映画も、作り手によるひとつひとつの行程の細やかさが、観てくださる方にぜったい伝わると思っています」と絶賛した。