三菱自動車工業の軽EV(電気自動車の軽自動車)「eKクロスEV」が受注好調だ。月間販売目標850台に対し、5月20日の発表から7月3日までの約1カ月半で受注台数は4,559台に到達。どんな人たちに売れているのか、三菱自動車の商品企画担当と営業担当に聞いてきた。
三菱と日産で異なる軽EVのキャラ設定
eKクロスEVは三菱自動車の軽自動車「eKクロスシリーズ」(軽ハイトワゴン「eKクロス」と軽スーパーハイトワゴン「eKクロススペース」)に新たに加わったEVだ。航続距離は買い物や通勤などの日常づかいには十分な180kmを確保。モーター走行ならではの走りは静かで力強く、乗ってみると正直、軽とは思えない乗り物に仕上がっている。グレードは2種類で価格は「P」が293.26万円、「G」が239.8万円と軽にしては高価なイメージだが、国の補助金55万円が使えるし、自治体に独自の補助金があればそちらも適用可能。実質購入金額はかなり下げられる。ちなみに、7月3日時点での販売グレードの内訳はPが54%、Gが46%だ。
- 「eKクロスEV」のスペック
ボディサイズ | 全長3,395mm、全幅1,475mm、全高1,655mm |
室内 | 室内長2,065mm、室内幅1,340mm、室内高1,270mm |
ホイールベース | 2,495mm |
乗車人数 | 4人 |
車両重量 | 「P」は1,080kg、「G」は1,060kg |
駆動用バッテリーの総電力量 | 20kWh |
フル充電での航続距離(WLTCモード) | 180km |
モーターの性能 | 定格出力20kW、最高出力47kW、最大トルク195Nm |
タイヤ | 「P」は165/55R15、「G」は155/65R14 |
このクルマは日産自動車との共同開発で、日産の軽EV「サクラ」とは兄弟というより双子に近い間柄だが、両社にははっきりとした違いもある。日産がサクラを「日産EVの新メンバー」といった感じで売り込んでいるのに対し、三菱はeKクロスEVを「eKシリーズの新たな選択肢」として、あくまで親しみやすく、外観もeKクロスから大きく変えずに作った。なぜなのか。そのあたりも含め、三菱自動車 商品戦略本部の厚海貴裕さんと国内営業本部の吉川省吾さんに話を聞いた。
購入者が最も多いのは東京?
マイナビニュース編集部:日産はサクラを真新しいクルマとして提示しているように思える一方で、三菱自動車は軽EVをeKシリーズの新顔として売り込んでいるように見えます。ガラッと変える選択肢もあったと思うのですが、なぜこういった戦略を選んだのでしょうか?
厚海さん:「気軽に選べるEV」を目指したからです。それに、軽自動車のお客様に「軽EVであれば専用モデルが欲しいか、そこは気にしないか」を調査してみると、気にしないという方が多かった。eKにはガソリンもある、ターボもある、その中にEVの選択肢もあるということで、お客さまにはご自身の使い方に応じて選んでいただきたいと思います。
吉川さん:営業の面から見ますと、日産はEVを縦のラインアップ(「アリア」「リーフ」「サクラ」)としていますが、三菱自動車では登録車をプラグインハイブリッド車(PHEV)とし、小さなクルマはEVとしていくことでCO2削減を進めたいという考えです。
編集部:日産は縦軸で展開していて、三菱は横に区切っている感じなんですね。
吉川さん:既存のeKシリーズの新たな選択肢としたのは、やはり気軽に選んでいただきたいからです。「アイミーブ」(i-MiEV、三菱自動車が世界に先駆けて量産・販売した2009年発売の軽EV)はアーリーアダプターのお客様に「デザインが好き」「EVが好き」というお声を頂きましたが、そこから先、あまり広がりがありませんでした。アーリーマジョリティーの皆さまにお買い上げいただくには、街で見かけるクルマをEVにした方がいいと考えたんです。
今回はアイミーブへの不満、例えば航続距離、価格、安全装備といったことを、全て払拭したいという思いがありました。結果として航続距離は伸び、安全性能はトップレベル。アイミーブはフロアにサイドブレーキが付いていたり、後席はスライドしなかったりで室内は決して広くなかったのですが、eKクロスEVはクラストップレベルの室内空間があります。アイミーブは世界初の量産型EVで、登場するのが早すぎたともいわれましたが、eKクロスEVでは台数でも雪辱を果たしたいです。
吉川さん:販売店では、アイミーブにお乗りの方で「乗り換えるクルマがやっと出てきた」とか、「ずっと待っていた」とおっしゃるお客様がいらっしゃると聞いています。軽EVの購入を検討されているお客様からは、「コンパクトカーのEVと比較・検討している」というお声はほとんど聞かれず、他メーカーからの乗り換えを検討されているお客様は「サクラかeKクロスEVで悩んでいる」とおっしゃる方が大多数です。
2台は中身も価格もほぼ同じで、大きく違うのは内外装です。あとは装備の違いですが、例えばサクラでは充電ケーブルがメーカーオプションで、eKクロスEVには標準で付いています。ホイールはeKクロスの「G」グレードだと14インチのスチールホイール、サクラはアルミホイールになります。
編集部:ガソリンエンジンの軽自動車としては、デザイン違いで「eKワゴン」と「eKクロス」がありますが、どちらの方が売れているんですか?
吉川さん:eKワゴンの方が、台数は出ています。
編集部:だとすると、eKワゴンをEVにする選択肢もあったのでは?
厚海さん:あったんですが、「三菱自動車らしさ」を考えてeKクロスにしました。SUVのテイストと、デザインでいうと「ダイナミックシールド」。こちらのほうが三菱自動車らしい軽EVにできると考えました。
吉川さん:eKワゴンは日産「デイズ」と顔が似ていますし……。
編集部:eKクロスをEV化した方が、三菱自動車の商品として押し出しやすいわけですね。
編集部:eKクロスの購入者はやはり、戸建てに住んでいらっしゃる方が多いんですか?
吉川さん:やはり戸建てにお住まいで、EVの充電設備を設置済みか、これから設置なさる方が多いです。
都道府県で見ると最も多いのは東京、それと愛知です。東京は補助金の効果が大きいようです。愛知はそもそも軽自動車の台数が多いですし、弊社の工場(岡崎製作所)があることも影響しています。ほかには北関東だと群馬、茨城。西だと中・四国、九州は割と台数の出る地域なんですが、山陰地方、工場(水島製作所)のある岡山、高知、宮崎、鹿児島、このあたりでは受注が伸びている印象です。ガソリン代が高くなっていることも、軽EVに注目していただいている要因となっています。
編集部:軽EVには四輪駆動がありませんが、これによる地域的な影響はどうでしょうか? 雪国では思ったより売れていないとか。
厚海さん:北海道でも、そこそこ出ています。近年の豪雪で、SUVですら走りにくいという状況を経験されたお客様の中には、軽自動車自体に抵抗をお感じの方もいらっしゃるようですが、雪がそこまで降らない地域では反応があります。ただ、北海道だと航続距離が問題になるケースもあるようです。
編集部:四駆を欲しいという声は、けっこう届いていますか?
厚海さん:一部ありますが、あるお客様からはeKクロスEVは「三駆」だとおっしゃっていただきました。
編集部:三駆ですか?
厚海さん:雪道に強い、という意味でおっしゃったんだと思います。EVは1㎜単位の緻密な回転制御が可能で、発進の際にも制御しながら動き出せます。弊社の走行試験でも、ガソリン車では登れない雪の坂道をeKクロスEVでは登れたりもしました。豪雪だとそもそも車高の問題で難しいんですが、圧雪路くらいであれば問題なく乗って頂けるのではないでしょうか。